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「小説 雨と水玉(仮題)(30)」/美智子さんの近代 ”天神橋筋と大阪天満宮”

(30)天神橋筋と大阪天満宮

啓一は美智子の手をとり、地下鉄を乗り継いで天神橋筋六丁目へ出た。
地上に出てみるとそこはもうアーケードの下に連なる商店街だった。
「人が出てますねえ、賑やかでいいなあ」
「そうですね、佐藤さん、こういう下町は好きですか?」
「ええ、好きですねえ、ほら僕、寅さん大好きなので」
「あ、そうでした、そうでした、今度わたしも寅さんを観に連れて行ってください。」
「お正月に行きましょうか」
「ええ、是非」
「寅さんの柴又とは少し雰囲気違うけど、ここもいいとこですねえ。
なんか、大阪らしくて好きになりそう。タコ焼きとか美味しい店有りそうですね。」
「ありそう、並んでるところあったら、並びましょか?」
「うん、そうしよ」

たこ焼きを食べたり、甘い方ではたい焼きなどもパクついて、縁日デートを楽しんでいるよだった。
コーヒーの香りが外まで漂う喫茶店にふらりと吸い込まれるように入った。
「このバターブレンドって、なんか香ばしいような甘いいい香りしますねえ」
「うん、おいしい。バターブレンドっていうのは初めてだわ、香りが抜群」
「あの、佐藤さん、わたしになんか出来ることあったら言うてくださいね。大阪来るの大変やし、忙しくて疲れてるでしょうし。
あと、わたし、毎週大阪来てくれるの、とっても嬉しいんですけどやっぱり気になるっていうか」
「うん、ありがとう。
あの、僕もちょっと考えたんだけど、
言ってしまおうかなあ、どうしよう?
ま、一人で考えこんでてもしゃあないか、
深刻に考えないでほしいんやけど、いいですか?
あの、少し古い言い方かも知らんけど、
僕たち、結婚を前提にお付き合いというかこれからのことを考えていきませんか?
こんなこと言ってびっくりさせちゃったかもしれへんけど」
「、、、」
「あ、ごめんなさい、やっぱり早過ぎたか」
「いえ、わたし、うれしい」
「えっ?
あの、僕たち、まだデートは二回目やけど、もう五年以上前から知り合ってて、お互いにある程度知ってるわけやし。
あと、年齢もそういうこと考えるような感じになってきたし、
どうやろ?少しづつでも気楽に話しをしていくっていうの?」
「はい、嬉しいです。」
「だから、とりあえず僕がしばらく毎週大阪に来るっていうのはいいですね。
いずれにしてもこうやって気になることを少しづつ話しして、分かり合うっていうふうにやっていきましょう。」
「はい、話しさせてもらって、分かり合う、はい」
「よかったあ。
でも、こうやって美智子さんと話しているとずっと前からそばにいたような気がして」
「あっ!わたしもそうなんです。
でも佐藤さん、デートは三回目ですよ、忘れないでくださいね。」
「しまった、そうでした、三回目です。
なつかしいなあ、二年半前。
あのときも天気よかったですよねえ?
水玉のワンピース、ホントに素敵でした。」
「ふ、ふ、ふ(笑)」

その後、しばらく商店街を散策して、大阪天満宮に来た。
「参拝して行きましょう、せっかくだから」
「はい」
「二回お辞儀して二回柏手、一回お辞儀するみたいですね。
僕、五円玉二つあるからこれで。」
「ええ」

「ああ、なんかすっきりした。
美智子さんはなにをお祈りしたんですか?」
「内緒です。ふ、ふ(笑)」
「T先生のアドバイスも内緒って言ってたんですけど、あれは教えてもらえないんですか?」
「あれは、書物に関してよく勉強しなさいっていうのと、男性は不器用で少しぐらい変わっててもいいから誠実な人と付き合いなさいっていうことやったんです。」
「なるほど、なかなかいいこと言いますねえ、さすがTさん」
「ええ、とってもいいアドバイスでした。
ふ、ふ、ふ(笑)」

二人とも天丼が食べたくなって、並んでいる天丼屋さんに入って揚げたての天ぷらとアツアツのご飯をハフハフ言いながら食べた。
「こんなおいしい天丼、初めてです。佐藤さんは?」
「うん、はじめて、はじめて、これが大阪の底力やね、美味しかったあ。
あのね、すごく身近なんやけど学生の時下宿してた蛍池に美味しい定食屋さんがあってね。そこの揚げ物もおいしいの、今度一緒に行かない?」
「はい、是非。蛍池、もうめっちゃ近所やわ、次回はそうしましょうか?」
「でも、あの辺時間つぶすとこあるわけでないので、街中をぶらぶらして夕飯を蛍池で食べるっていうことでいいですか?」
「ええ、全然、それでいいです、お願いします。
あのお、それから佐藤さん」
「うん?」
「今日は新幹線のホームまで行っていいですか?
チャンとしたお付き合いなので」
「是非、僕も前回はちょっと後悔しました。」

七時過ぎ新大阪の二十六番線西の端一号車付近で七時三十分初のひかり号を待ったいた。
新大阪始発なので早めにひかり号が入線し、啓一は入らなければと思った瞬間、美智子の手を引き抱き寄せた。少し強めに抱きしめた耳元で、
「また明日、電話する」
「はい」
「そしたら」
「はい」

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