見出し画像

温泉療法③~飲泉と口噛み酒~

温泉は入るもの?

No。飲むものである。
日本における飲泉の歴史は古く、持統天皇の御代に飲泉が行われていたことが日本書紀に書かれている
※『日本書紀』巻三十、持統天皇紀:近江国益須郡の都賀山で湧出した醴泉と、そこで病を治療するものが停宿した益須寺のことが記されている。

醴泉の「醴」には、甘みのある美味しい水という意味がある。一方、「醴」を辞典で調べると甘酒のことを意味し、古代においての「醴」とは、口で噛んで醸した酒を意味する。2016年に大ヒットした『君の名は。』にも登場する、あの「口噛み酒」である。

飲泉の効果

しおじの湯

群馬県上野村にある農村では、「しおじの湯」という温泉水が湧出し、地域住民はその温泉水を飲用している。この温泉成分を分析した結果、ケイ酸が豊富に含まれることが分かっている。ケイ酸は制酸剤として用いられることもあり、消化器系の症状の緩和に効果があるとされる。またケイ酸には皮膚や毛髪のコラーゲン合成も報告されている。(白石卓也ら、ケイ酸を含む温泉水の飲用による健康関連指標に関する効果の検討、THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL(2017)第67号、207~211)

ミネラル

矢野一行氏の『伊豆半島の温泉の特徴と医学的考察』という論文には、「温泉の効能を左右する主要な成分は陰イオンと陽イオンからなるミネラル成分であり、これらがヒトのからだの構成成分にさまざまな形で働きか け、それぞれ特有の薬理作用を生じる」と記載されている。

今日、精白や精製などの加工により、ミネラルが失われた食品を摂取する機会が多く、ミネラル不足に陥っている場合がある。亜鉛や銅、マンガン、セレン、鉄などのミネラルは体内で活性酸素の処理に関わっており、これらが不足すると生活習慣病を初めとする活性酸素増加による弊害が生じる。温泉を飲むことで不足しがちなミネラルを補える、というわけだ。

その他

ほかにも以下の記載があった。
・硫酸塩泉:硫酸イオンから生じる「コンドロイチン硫酸」には、血管壁を柔らかく拡張しやすくするため、高血圧症や動脈硬化症、脳卒中などへの効果。
・石膏泉:カルシウムイオンの鎮静作用による関節性リウマチ、外傷、皮膚病への効果。
・芒硝泉:ナトリウムイオンの皮膚の乳化作用による慢性便秘、肥満症、外傷などへの効果が期待できる。

実際、血管壁のコンドロイチン硫酸鎖がアテローム性動脈硬化症の予防や退縮に影響する可能性について報告された論文がある。また、「怒りっぽい人に牛乳を飲ませると良い」といった言い伝え(迷信?)があるが、あればカルシウムが鎮静に関わることから出たものだ。

芒硝泉は硫酸ナトリウムを多く含む。大腸カメラの時に「モビプレップ配合内用剤」という下剤を1-2Lくらい飲んでから検査を行うが、このモビプレップ配合内用剤に含まれるのが硫酸ナトリウムである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?