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ヘリコバクター・ピロリ菌(H.pylori)について

1. 人体に及ぼす影響

ピロリ菌は、胃癌や胃・十二指腸潰瘍の原因として知られる細菌である。胃酸という、強酸性の環境下でも、尿素からアンモニア(アルカリ性物質)を作り出すことで生存が可能となっている。この産生されるアンモニアによって、胃や十二指腸粘膜への持続的な炎症が起きるため、癌や潰瘍が発生すると言われる。ピロリ菌が感染した胃の粘膜は徐々に萎縮していき、「萎縮性胃炎」と呼ばれる状態になっていく。もし、今まで「萎縮性胃炎」と言われたことがあるなら要注意。ピロリ菌に感染している、もしくは昔感染していたことを示唆しているためだ。一度萎縮した胃の粘膜は、元の状態に戻るまで長い時間を要する。ピロリ菌に感染していた期間が長く、萎縮が進んでいる人ほど治りにくい。したがって、除菌した後も、定期的な経過観察(=胃カメラで、癌ができていないかのチェック)が必要である。もちろん、除菌をすることで、しない場合と比べ癌のリスクが1/3程度まで下がる。

ちなみに、ピロリ菌の感染経路は井戸水からと言われているが、詳細は不明である。

2. ピロリ菌がいるかの判定について

胃カメラを受けた時、「ピロリ菌がいそう(=胃粘膜の萎縮がありそう)」と言われた場合、現在もピロリ菌がいるのか、昔感染していたが自然にいなくなった後なのかを調べる必要がある。その方法には大きく、胃カメラを使ったものと使わないものの2種類に分けられる。胃カメラを使う検査には、迅速ウレアーゼ試験(RUT)、培養、組織診断の3種類がある。いずれも、胃カメラで採取した組織を用いた検査になる。

2-1. 内視鏡を使った検査方法

迅速ウレアーゼ試験(RUT)は、採取した組織を特殊な液につけ、2時間以内に液の色が変わるかを見る検査になる。色が変われば陽性=現在ピロリ菌がいる、と判定される。

培養は、採取した組織をある一定環境下に置き、ピロリ菌が増えてくるかを見る検査である。

組織診断は、採取した組織を直接顕微鏡で観察し、ピロリ菌の菌体があるかを確認する検査になる。

培養は結果が出るまでに時間がかかり、組織診断は採取した組織中にピロリ菌がたまたま居なければ、現在感染していても判定できないデメリットがあるため、この2つはピロリ菌が現在いるかの判定目的に行われることは多くない。行われるとすれば、ポリープや潰瘍があり、癌じゃないか確かめるために採取した組織で菌体が見られるかを合わせて判定してもらう、といった場合である。迅速ウレアーゼ試験のデメリットは、胃薬を飲んでいると正しく判定できないことである。2週間以内に胃薬を飲んでいる場合、現在感染していても陰性と出ることがあるため、別の検査での判定が必要である。

2-2. 内視鏡を使わない検査方法

内視鏡を使わない場合に用いるのは、呼気や血液、便である。呼気を用いるものは「尿素呼気試験」と呼ばれ、検査薬を飲んだ30分後の呼気を採取し判定するものである。血中のピロリ菌抗体を測定する方法もあり、検査は通常の採血と同様である。ただし結果が出るまでに1週間程度時間を要することがある。便中のピロリ菌抗原を測定することでも判定できるが、便の提出が必要なため、私はこの検査を依頼したことはない。尿素呼気試験が最も楽だが、この検査も迅速ウレアーゼ試験と同様、胃薬の影響を受けやすいため、内服中の方は別の方法がある。

2-3. 検査方法まとめ

内視鏡を使った迅速ウレアーゼ試験の場合、カメラと同時にできるため手間が少ない。内視鏡を使わない尿素呼気試験は精度が高く、針を刺したりもないため楽。ただどちらも、胃薬を飲んでいる場合には正しく判定できないため、内服中の方は血液検査での判定となる。

3. 除菌について

上記の方法で、現在ピロリ菌に感染していると判定された場合、除菌治療の適応となる。抗生物質2種類と胃薬1種類、朝食後:計5 or 6錠・夕食後:計5 or 6錠、1日合計10 or 12錠を1週間内服する。この1週間の内服で8割以上が除菌できるが、うまく除菌できない人もいる。除菌できたかの判定は、1週間飲み終わった、1-3か月後に行われる。判定方法は上に記載した「尿素呼気試験(内視鏡を使わない検査)」になる。この方法は胃薬の影響を受けてしまうため、除菌以外の目的で胃薬を飲んでいる場合は、検査2週間前からの休薬が必要である。なぜ1週間飲んだ後すぐの検査でないか、というと、ピロリ菌の増殖に時間がかかるからである。1週間内服すると、どんな人でもピロリ菌は減る。完全にいなくなれば1-3か月たってもピロリ菌は増えてこないが、除菌しきれていなければその間に再度増殖してくる。増殖してくる期間をあけての判定になる。

もし除菌がうまくいかなかった場合、抗菌薬の種類を変えて、もう1週間1日合計10錠を飲むことになる。また1-3か月後に判定を行うが、2回目までで90%以上の人は除菌できるとされる。2回目でも除菌ができなかった場合、3回目の除菌は保険診療では認められていない。自費診療(10割負担)で行うか、胃カメラ等で慎重に経過をみていくか、となる。



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