引用は適宜省略している。また、[ ]カッコ内は訳者による補筆である。
発言人物一覧
○朴普煕(パク・ボーヒ)……統一教会教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)の最側近のひとり。韓国文化自由財団(KCFF)会長。
○ドナルド・M・フレイザー……下院・国際関係委員会ー国際機関小委員会委員長。
○ロバート・B・ベッチャー……小委員会調査スタッフディレクター。
○ハワード・T・アンダーソン……小委員会調査スタッフ。
『朴普煕聴聞会』を読む〈五〉
◎謎の金庫番・シンバ氏
前回に引き続き、統一産業社長・石井光治が責任者である『国際統一教会年金基金』について、不明な実態を朴普煕に質問してゆく。
朴普煕の証言に従えば、ワシントンにあるKCFF事務所以外にもニューヨークに事務所を持っていたようだ。なるほど、こぼれ話(18) において池田文子こと江利川安栄がニューヨークへ来て朴と会っ(て、おそらく口裏合わせをし)た際、朴はニューヨークへ頻繁に訪れていることを証言している。
さて、現金を持ってきた石井のスタッフとは誰か?
シンバはおそらく『榛葉』と書くのであろうが、特定できなかったのでカタカナ表記にしておく。ここからはシンバ氏に関する朴の証言を抜き出してみよう。
秘書室を日本に移した理由は後に触れる。
シンバ氏がニューヨークからワシントンまでどのように現金を運んだかはわからない、というのは理解しうる。だが、直前にワシントンまで現金を運んだ当事者であることを証言している朴自身が、輸送手段に使ったとするアタッシェケースなりブリーフケースの内部で、その運んだ現金がどの程度占めていたのか覚えていないというのは不可解である。猪瀬直樹か。
話は『国際統一教会年金基金』なるものの原資に移る。
ここまで朴の証言を聞く限り、『国際統一教会年金基金』について石井氏やシンバ氏以外に実態はわからないとする一方、「海外信者からの寄付金を年金基金に振り分ける決定には非常に多くの人が関与しているだろう」とか「年金基金職員は年金基金の世話だけをする」などと、細かいディテールは知っている。基金に関する知識が妙に偏っているのだ。
では、この『運び屋』であるシンバ氏とは何者だろうか?
ところが、米国の古参信者向けだったはずの『国際統一教会年金基金』を、なぜか日本へ移管する。
1976年はフレイザー委員会で統一教会が取り上げられ始める頃で、捜査の手が及ぶことをおそれた統一教会が、先手を打って日本へ資金移動した可能性が考えられる。
こぼれ話(17)で触れたウィリアム・カーティン大佐に続いて、またしてもKCFFに絡む重要人物が亡くなっている。さらに、今回の証言の末尾で、
亡くなったシンバ氏に全責任を追わせるような発言である。
だが、果たしてこれは本当だろうか?
実は13人の信者に株購入資金を渡す少し前、朴は「国際統一教会年金基金は古参信者のため」と言いながら、ディプロマット・ナショナル銀行の創業者であるチャールズ・キムにもDNB株購入資金のため10万ドルを融資している。ただし、キム氏は信者ではないからか、朴はシンバ氏から理由を伏せて金を借りキム氏に与えている(ちなみに、チャールズ・キムからの懇願に負けて金を貸したように朴は述べているが、果たしてどこまで信用できようか?)。
そのことを問われた際、
あたかも彼が生きているような発言をしている(前述の、シンバ氏が死去していることを証言するのはこの直後である)。そもそも、シンバ氏は実在していたのか? 彼は朴普煕の証言の中でしか存在しない。
であるならば、シンバ氏の上司である石井光治に尋ねるしかないが、
逃がした魚は大きい。
〈六〉につづく。