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【小説】パートナー【雨のち虹・その5】

「リトくんが遊びに来るの?」

 日差しも強くなってきた今日この頃、虹くんと一緒にお出かけ。
 ”一緒”といってもわたし”レイン”は虹くんのスマホの中にいるんだけどね。
 スマホの中はいいぞ。冷房暖房いくらでもOK。
 それでもって電気代は変わらないんだからやりたい放題だぜ。

「スマホの中の快適さ……こういうときだけはうらやましくなるな」
 汗をかきながら歩く虹くん。「それでもって電気代を払うのは僕なんだよなぁ」といいながら、でもこういう話は受け入れてくれる。
 いつもありがとう虹くん。

「リトがここの近くに用事があるから、ついでに僕と会おうって話になってね」
「虹くんが”ついで”なんだ。なんだか優先順位低いのかな?」
「うるせっ。別にそういうわけでもないと思うよ」
 少し悲しそうな顔をした(ような気がした)虹くんと、(あきらかに)いじっているレイン。

「リトくんってあれだよね。虹くんのゲーム作りも手伝ってて、イラスト関係の素材を提供してくれる優しい子だよね」
「ん-、まあそんな感じ。実写寄りの背景画像とかは彼の専門だな」
「実写寄りなんだね」
「あいつ、カメラが好きなんだよ」
 カメラ……写真が撮るのが好きなのか。
「なんだか、前に会った”イツヤくん”を思い出すね」
「ああ、そんなこともあったな。5歳の将来有望な写真家くん」
 つい先月あたりにあった”やさしい事件”。もう昔のことのように感じる。イツヤ君は元気に今日も写真撮ってるかな?

「ところでどこで待ち合わせなの?」
光晶みつあき神社だ」
「なんだかますますイツヤくんを思い出す場所だね」
「そうだな」

 それから数分、光晶神社の鳥居まで着いた。
 光晶神社の桜はもう終わり、木々が木陰になって涼しい……と虹くんが言ってた。
 わたしも実体化してみようかなと思ったけど、なんとなくまだスマホの中にいる。
 そうして境内まで来たところに、目当ての人物らしき人が2人いた。

 ……2人?

 そこにはリトくんと、イツヤくんがいた。

◆◆◆◆◆

「イツヤは従弟いとこなんだよ」
 光晶神社についてリトと再会した。いつもネットで通話してるからとくに感動というのもなかったけど、イツヤくんと一緒なのには僕も驚いた。

 リトとイツヤくんは従兄弟関係らしい。

 リトは写真が好き、どおりでイツヤくんも写真が好きなわけだ……というほど簡単なものなのかな?

「まあオレもイツヤも母からカメラを教わったからね。影響元が同じなんだよ」
 なるほどね。納得した。

 イツヤくんは実体化したレインと木陰で遊んでる。
 レインのやつ、ずっとスマホでのんびりしてるのかと思ってたけどイツヤくんがいて興奮したらしい。とても感情に素直なやつだ。

「レインちゃんも相変わらず元気だね。彼女の元気さからはなかなかにうれしいところはあるよ」
 リトがつぶやく。
「まあ一応、人工知能。全部が全部オレら人間と同じではないとはいえ、レインちゃんはもうほぼ”こっち寄り”って感じだもんね。彼女の元気イコール虹の元気でもあるのかもしれないけど」
「なんだ、久しぶりとはいえ結構レインのこと考えてるんだな」
「昨日レインちゃんとしゃべったしね。オレの部屋で実体化して一時間ほど」
 あいつ、いつの間にリトの部屋に……!?

◆◆◆◆◆

 小一時間ほど話して、リトはイツヤくんを家に送って行くと言った。
 久しぶりの再会とはいえ、とくに話したいことはいつもネットの中。まあこんなもんだろう。

「そういえばリトくん、今日はほかに用事らしいけど誰か別の人と会うの?」
 レインが別れ際、リトに話しかける。
「ん?そうだね。”絵の描く人”っていうのかな。知り合ってまだ日は浅いけど、面白い人だよ」
「ふーん。ちなみに男性?女性?」
「女性」
「ほえー!」
 レインが興奮してる。素直なやつめ。
「付き合ってるとかではないけどね。お互いやりたいことをリスペクトできる友達というか、パートナーというか……そんな感じ」
「いいですなー!いいですなー!」
 レインはにやにやしてる。

「それじゃあね虹、レインちゃん。またネットでもよろしくね」
 そうしてリトとイツヤくんは去っていった。
 短い再会だったけど、少し生きるモチベが上がったかなって感じだった。

「ねえねえ虹くん!リトくんの彼女さんってどんな人だろう!?わたしネットの力を駆使して探してきてもいいかな!」
 興奮するレインが隣にいる。ちょっと困る。
「リトにもプライバシーはあるんだ。少し我慢しろ」
「ふええ」
「なんなら後でリトに直接聞いてこい。不定期に会ってるみたいじゃないかお前ら」
「な、なんで知ってるの!?」
「さっき聞いた」
「ふええ。でも大丈夫だよ」
「なにが?」
「わたしは虹くん一筋だから、リトくんに付くことはないから安心したまえ!」
「はぁ……」

 帰り道。夕方なのにまだ沈まない太陽。
 レインとの適当な会話の中、ふと思い出したことがある。
「……”ミィちゃん”」
「虹くん、浮気相手の名前でも思い出したの?」
「違うわ」
 なんて失礼な奴だ。
「以前リトが話したことがある女性の名前だよ。”ミィちゃん”。面白い人がいるんだけどさ……って。もしかしたらその人かもね」
「”ミィちゃん”か。面白そうな名前だね!」
「……どこが?」

 リトは彼女のことを「リスペクト」「パートナー」と呼んだ。
 僕にもそういう人はいるのかな……いつかできるといいかもな。お互いを尊重しあえる仲間が。
「レインちゃんはあなた一筋ですよ、虹くん!」
 レインがパートナー……うーん、どうなんだろう。


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