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【小説】2度も会う日【雨のち虹・その3】

「僕の家に来るってことですか?」
「はい。打ち合わせも兼ねて、いくつかやりたいことがありますので」

 自室のパソコン前で通話。
 相手は家族でも、友達でもない。
 仕事関係の方……というとおおげさに聞こえるかもしれないが、そんな感じ。

「これは虹先生には少し面倒かもしれませんが、今後の予定も含めて制作者のインタビューなども予定しています」

 僕はゲームを作ってる。
 もともと1人でちまちま作っていたのだが、いろんなゲームコンテストで成果を残したことにより自信がついた。
 そのころ、フリーのゲーム制作者向けにいろんな会社が手を差し伸べていた時代でもあった。
 とある会社に僕も応募した結果、なんと当選。
 今はお金をもらいながらゲームを作っているってわけ。すげー。

 そんな僕は今、1人では作っていない。
 もちろん、音楽素材を作ってくれるフェイクやイラスト素材を渡してくれるリトなどの友達もいるが、それとは別に。
 会社から“編集さん”という形で僕のお世話をしてくれる人が付いてくれた。

「インタビューですか……通話やチャットからじゃだめですか?」
「会社から『実際に会いに行ってやってこい』とのことなので。ご理解いただけるとうれしいです」
「うーん……」

 編集さんも大変らしい。

◆◆◆◆◆

「えーっ!編集さんが来るってこと!?虹くんの部屋に?」

 編集さんとの通話が終わり、”こと“をレインに伝えた。
 レインはなぜか喜んでる。
「じゃあどうしようかな。とりあえずお高いお茶と和菓子を買って……いやその前に部屋の掃除とかデコレーションとか。落ち着く音楽を流したりもいいなー」
 お出迎えにテンション上がりすぎだろ。

「編集さんって虹くんのお仕事の大事な人でしょ。どんな人なの?」
「どんな人……うーん」
 少しまずい質問をされたかもしれない。

「女性で」
「女性!?」
「クールで」
「クール!?」
「優しくて」
「優しい!?」
「…………」
「…………?」

◆◆◆◆◆

「ハハハッ、そりゃ傑作だ!会ったことが無いなんて!」
 フェイクが大袈裟に笑う。

  光晶みつあき町のとあるレストラン。
 僕とレインとフェイクが食事を囲んでいる。
 フェイクがこの町に遊びにきて、ついでだから一緒に食事でもと誘われた。「前のお礼も兼ねてボクが奢るよ」とのことだ。変に気を使わせてしまってる。

「虹くん、今まで面識ない人とゲームを作ってたなんてビックリだよ!」
「えっ、それ大丈夫なの?実は詐欺会社とかじゃないのそれー?」
 ああ、この2人が揃うと心が喰われる。
「一応大丈夫だよ。実在する会社だし、お金はちゃんと振り込まれてるから」
「ホントかなー?」
「ホントかなー?」
 お前ら……。

「まあいいや、なんとかなるでしょ。それよりも前はありがとうね2人とも」
 フェイクが話題を変えた。
「あっ、そういえばフェイクくんのギターってどうなったの?」
「なんとか治ったよ。でもやっぱりお古いモノだったから、いつかまた壊れると思う。でももういいかな。壊れたら新しいギター買うよ」
 ほう。
「この前の事件でね……だいぶ吹っ切れたというか、覚悟が決まった気がする。いつまでも過去に囚われちゃいけないかなって。ありがとうねレインちゃん」
「いえいえー。また困ったことがあったらわたしに相談してくれてもいいよ!」
「頼りになるー!さすがレインちゃんだ!」
「えっへへぇ」
 なんかこの子達、仲良くなってる。てか僕が何もやってないみたいな空気になってないか?

◆◆◆◆◆

 フェイクと駅前で別れた。
 お礼にお菓子をもらって、レインと涙ある最後を迎え、そうして見知らぬ土地に旅立った。この文章、だいたいあってるでしょ。

 とりあえず僕らは家に帰り、一息ついた。
「疲れたからネットでスリープしてるね。ばーい虹くん」
 レインはネットに戻った。

 僕は部屋の掃除をした。お菓子の準備をした。一応、服装も整えた。

 もうすぐ編集さんが来る予定なのだ。

「どんな人なの?」

 レインの質問が頭をよぎる。

「半ひきこもりの僕が1日に2度も人に会うなんて……しかも1人は知らない人だし」
 緊張はしてる。上手にもてなせるか、失礼がないようにできるか、ちゃんとしゃべれるか……。

「どうもいらっしゃいませ!いつもお世話になってます!汚い部屋かもしれませんが掃除もしたのでどうかお気になさらずゆっくりしていってください!」
 発声練習。
 うーん、なんか違うな……。

 ……焦ってもしょうがない。なんとかしよう。
 少し疲れてるかもしれない。さっきフェイクと会話してだいぶ体力使ったし……。

 布団に軽く横になる。
 そうして僕の意識は少しずつ薄れていった。。。

◆◆◆◆◆

 ピンポーン。

「……チャイム?」
 布団に横になりながら、今聞こえた音について考える。

 ピンポーン。
「チャイム……チャイム。」
 チャイムだ。紛うことなきチャイムだ。

ピンポーン。
「……チャイム!!!???」
 しまった、寝てしまった!

 僕は急いで玄関に突っ走った。
 服のシワを少しでも伸ばしながら、髪の寝癖を少しでも手ぐししながら。

 編集さんが来たに違いない。
 ああ、心の準備が……もうなんとでもなれ!

 玄関を開ける。

「どうもいらっしゃいませ!いつもお世話になってます!汚い部屋かもですが掃除もしたのでどうかお気になさらず……なさらず……」

 僕は目の前の女性を見て驚いた。

 覚悟が決まってなかったのは本当だ。下手に寝てしまい、準備もしなかった。
 でもこれは、覚悟が必要だったと言わざるを得ない。

 女性は言った。

「はじめまして。

 そしてお久しぶりです、虹先生」

「……アキラ先輩?」

 目の前の女性……編集さんとは、面識があった。


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