ステラおばさんじゃねーよっ‼️㉟三者面談〜夢へのチケット
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🍪 超・救急車
「プロの先生からそんな風に言っていただけるなんて、夢みたいです。これからも、夢日記をよろこんで提供しますね!」
「ありがとうございます。頂戴しました日記は、わたしの方で再編集させていただきます事、ご了承ください」
知波とカイワレが座ったまま深々とお辞儀し合っているのを、歩は無表情で見ている。
「あと、報酬につきましては辞退します」
カイワレも歩も一斉に、知波に注目した。
「いや、無償ではこちらも申し訳ないので。たくさんは出せませんが、出版社からわたしが受け取る原稿料の数パーセント程度のお支払いを想定しております」
お金の話には歩も興味津々だったが、平静を保った。
「いえ、職場が副業を禁止しておりまして。それに本業以外でお金を得るのは気が引けます。お褒めの言葉をいただけただけで、本当に充分です。ただ」
カイワレも歩も、ますます知波の顔を見つめた。
「ただ、何でしょうか」
「新軸駅までの交通費と、ここでのお茶代を要求しても良いでしょうか」
「まったく問題ありません」
知波とカイワレはにこやかになってうなずき合い、歩はしらけた横顔でソファにもたれた。
一仕事終わったような晴れやかな気持ちで、知波は誓約書の脇に置かれたペンをとった。
それに続いて歩も、ぎこちなく誓約書にサインした。
「はー、なんだか緊張しました。こんなあらたまったビジネス交渉なんて、経験がなかったものですから」
「堅苦しいやり取りになってしまい、本当すみません。小鳥遊さん、歩ちゃん、好きなものを好きなだけ注文してください!」
メニューを開き、カイワレは小鳥遊親子に注文を促した。
知波が肘で歩の腕を軽く突(つつ)くと、歩は愛想笑いを浮かべつつ、さくらんぼがのったクリームソーダを注文した。
⭐︎
「本日はわざわざお時間いただきまして、ありがとうございます」
カイワレは駅改札口で、ふたりに頭を深々と下げた。
「こちらこそありがとうございます。ご馳走様でした。また何かありましたらご連絡くださいね」
歩はスマホを取り出し、知らん顔をしている。
「歩も!ご馳走になったお礼を言いなさい!」
知波は少し強めにたしなめたが、歩はスマホに視線を落としたまま、
「あざまーす」
と頭をコクっと動かした。
「申し訳ございません。では、ここで失礼いたします」
知波は困り顔で会釈して、歩を駅の改札機に促し、ホームへと向かっていった。
ふたりの姿が見えなくなるまで、カイワレは慣れない営業スマイルで小さく手を振り、見送った。
それからジャケットを半開きにし中を覗くと、真冬なのに脇の下が汗でびっしょり濡れているのを確認して、苦笑いした。
これでヨシッ!
今日入手した誓約書はいわば、カイワレの夢へのチケットでもあった。
購読者も多い大手月刊誌の連載、という現実にある夢。
コンビニで、いつもより高めのおつまみとプレミアビールを買って、ささやかな祝杯をポーちゃんと…いや、ひとり祝杯といこう!
仕事の喜びの中に、プライベートでの寂しさがふっと降りてくる帰り道だった。
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