ステラおばさんじゃねーよっ‼️㊶拒絶
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️㊵昼空の星 は、こちら。
🍪 超・救急車
聖はベンチから立ち上がり、今出せる力のすべてを振りしぼり、逃げるようにヨロヨロと歩いた。
わたしがこの病院に入院してるのは、極わずかな人しか知らないのに。
「聖先生ー!」
誰かが大声で、呼んだ。
聞き覚えのある声、いや確かにポーちゃんの声だと悟った。
背を向けたまま前だけを見て、富士山の見える方に向かったがすぐに追いつかれ、3つの影に取り囲まれた。
聖はぱっと顔を上げると、瞬時に顔をゆがませた。
「何で…」
そう言ったまま、その場にうずくまってしまった。
「何で逃げるんですかぁ!」
ポーちゃんは泣きそうになりながら、聖の首に抱きついた。
「逃げてない」
普段の聖の優しいトーンとは程遠い、鉛のような重たい声が腹の底から響いた。
「聖先生、寒いから病室へ戻ろう!」
カイワレが聖の肩にそっと手を触れると一瞬ピクリと反応し、
「ほっといて!!」
とカイワレの手とポーちゃんを弱々しく振り払った。
しかしカイワレとポーちゃんは、ぶわぁっと泣きながら聖に抱きつき、聖もそれ以上は抵抗できなかった。
ひかりも聖のそばに寄り、シルクのハンカチで聖の頬をそっとぬぐった。
⭐︎
八雄市総合病院内のコンビニには、イートインスペースがある。
そこまでカイワレとポーちゃんは聖の両脇に寄り添い、連れて行った。
「先生に会うのは、ひかりを紹介した日以来ですね」
ポーちゃんは会話が途切れるのが不安で、何やかやと話しかける。
だが聖は、ぬけがらのように無反応だった。
頬も身体も痩せこけ、あの日の聖とはまるで別人だ。
何も話さない聖に、カイワレは重い口を開いた。
「お加減いかがですか?」
カイワレとポーちゃんの優しさが今の聖には重く、涙があふれた。
「今、たいちゃんのお母さんを探してるんです。聖先生、何か知りませんか?」
聖は彼らがここへ来た意味を確信したが、
「知らない…」
と嗚咽しながら、その一言を発するのがやっとだった。
「僕が色々調べて、聖先生に双子の妹がいるって事まではわかってます」
ポーちゃんにそう切り出され、一瞬聖の眼が泳いだが、手で顔を覆って深呼吸し、
「誰がそんな根も葉もない事を」
とできるだけ冷静な口調を装ってみたが、震える声を隠しきれない。
「聖先生、早く治ってね。またいつものカレー、食べさせて欲しいな」
変わり果てた聖を見るのがたまらなくなり、カイワレは席を立とうとしてガタッと椅子を引くと、聖はやっと顔をあげた。
「わたしね、もう永くないみたい。だからもう、会えないと思う。あなた達はあなた達の人生を、幸せに歩いてね」
聖らしい優しい笑みをこぼし、涙がはらはらと落ちた。
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