ステラおばさんじゃねーよっ‼️81.グッドルーザー〜若森という男②
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🍪 超・救急車
若森は出逢った日から飄々としていて、何を考えているのかつかめない、いや、つかませない男。
普段はおちゃらけているのに、いざという時は風のように颯爽とスマートな余韻を残す男だが、暑苦しいくらい熱い情熱を隠し持っていたりもする。
飲むと決まって、若森は生まれ育った環境や生い立ちを酔いにまかせてカイワレに話した。
「うちはさ、両親はいたけど、下の中くらいの経済状況だったの。まあ、はっきり言えば貧困家庭だわな。ましてや親父は、何だかんだヘリクツこねくりまわして働かないわけよ。仕方なく母ちゃんが働きに出るんだけど、それを飲み代(しろ)にして一升瓶片手に、暴れ回んの。俺が何したんだー!って。何もしない、働かないから家族にも社会にも見向きされないってのが、わからない人だった」
バーボングラスの氷を廻し溶かすと、チビリと口に含んだ。
「こんな家から一刻も早く飛び出してー!って思ってたから俺、勉強だけはしたの。親父が暴れようが怒鳴り散らそうが、耐えて、こらえて、耐えてさ。こう見えて学年では一、二位を争う優等生だったからな〜。母ちゃんは…馬鹿だよ。親父にまったく逆らわないんだ」
若森が時折見せる母への思慕に、胸をギュッとつかまれる。
「親父は俺が高2の夏に、肝硬変になって呆気なく逝った。で、母ちゃんもさ、後を追うように末期乳がんで亡くなっちまった。俺は奨学金を使い、西の国立大学へ進学して、文学を学び、編集者として今がある。けど俺はある意味、家族を見捨てたんだよ、二度もね」
二度も?!
「俺は酒に呑まれるが、暴れはしない。それだけはしない、と心に決めてる。だって恰好悪いだろ?弱い者に手を挙げる男なんてさ。でもな、結局両親に愛された記憶がなかったからか、妻や娘をどう愛したらいいのかわからなくってね。だからこうして独り身というわけ!」
そして、最後に決まって言うのさ。
「でもカイちゃんにはさ、幸せになってほしいんだよな」
そう言い終えると、糸の切れた凧のように若森はしばし眠りの世界へ旅立ってしまうのだ。
カイワレを置いてけぼりにして。
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