ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜お喜久しゃん② いのちのバトン
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜お喜久しゃん① 百貨店の老婆は、こちら。
🍪 超・救急車
季(とき)は追いつめられた犯人が自白する時のように、必死に昔ばなしを始めた。
「お喜久しゃんがいきなし【ぼてれん】しちゃぁから、相手ぇ誰やぁ!って訊いちゃぁが、こうべを横にふりぃ答えんちゃぁよ」
腹を手でポンポン叩きながら、興奮気味に季は言い放った。
「ぼてれんって何ですか?」
すかさずカイワレは季に訊ねたが、代わりに知波が口をはさんだ。
「妊娠したって事よ」
カイワレは目を見開きつつ、ふたたび季に問いかけた。
「その相手って夏男さんじゃないんですか?」
「そんば、夏しゃんやろぉ?と喜久しゃんにもなんべんもきいたっちゃぁこうべをふるんよぉ。そんころはぁ、よそもんとの子は、けがれた子と呼ばれよっちゃぁての…そりがわかりゃあ、島八分にしゃれる時代っちゃあ。喜久しゃんもほんみ、気むやんどっちゃぁて…」
「喜久榮の自殺した動機はご存じないですか?」
まっすぐな眼差しで刺すようなカイワレの瞳が、喜久榮の瞳を彷彿とさせた。
季はドキリとし、記憶をたどるようにふたたび話しだした。
「夏しゃんがふたたびこん島に戻らんちゃったときんは、喜久しゃんのいのちん、ひと月しかのうなっちぁてんなぁ。喜久しゃんは、夏しゃんを愛しとっちゃ。だきゃぁあん子を託したかっちゃあて。けんど夏しゃんは若う(わこう)学生様じゃて、喜久しゃんの頼みを切り落としゃっちゃあ。んで、島ん人りゃあ夏しゃんにあん子なこちゃぁ、口を閉ざしよぉになっちゃぁよ」
「喜久榮は、病を患っていたのですか?」
「そうっちゃあのぉ。肺の病っちゃ聞いちゃぁがのお…」
季は60年以上前に時空をさかのぼり、当時を思い返した。
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カイワレと知波は、顔を見合わせていた。
そしてカイワレはあの日の喜久榮と夏男を想った。
喜久榮の請願と夏男の拒絶のどちらかの行動が欠けていたならば、あの事件は起こらず、現在の事象にはつながらない。
きっと知波は、悠一朗とも出逢えていない。
そうなればカイワレ自体、この世に存在しない。
それぞれの動機が、それぞれの人生の何かを壊しては生み出し、巡り廻ってカイワレに、いのちのバトンが渡された。
ふたりは季の話に聞き入り、あらためて自身の存在の奇跡とあやうさ、そしてその巡り合せの不可思議さを強く感じ、身震いしていた。