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ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜鳥海島

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜粉雪(パウダースノー)は、こちら。


🍪 超・救急車


気づけば南国のけだるく生ぬるいあの風に、ふたりは迎えられていた。

上空から見ると、島のかたちが羽根を拡げた鳥に似ているさまから、《鳥海島》と名づけられたそうだ。

実際にふたりを出迎えた船上からの風景は、うっそうと覆い茂る濃緑(こみどり)の森林が広がっていた。

そしてわずかなその隙間に、ぽつりぽつりと古びた低い焦げ茶色の建屋が点在していた。

緑と焦げ茶の濃淡は船が近づくにつれ、それぞれの輪郭がはっきりしてきた。

下船し、波止場に降り立つふたりは、無意識に潮の香りを胸一杯に吸い込んだ。

頭上には、海猫や鴎が飛び交い、哭き叫び、謳(うた)うように空を旋回していた。

また、海水にくちばしから飛び込み、魚を捕獲するものもいた。

「うーん!やっと着いたー!!」

カイワレが伸びをしながら呟くと、知波も、

「ここが、鳥海島なのね」

と応えた。

波止場から横に目を移すと、砂浜の岩場付近に小さく白い鳥居が見えていた。

⭐︎

ふたりが陸へと繋がる路を歩いていると、島紬(しまつむぎ)で編まれた泥染め作務衣を着た男が、小さな身体で待ちかまえていた。

「ようこそ、おいでくださりました。おふたりの事は、ひかり様からよおく、仰せつかっております」

そう言うなり、老男はぴんと張った背中を向けてすたこら歩き出した。

ふたりは呆気に取られながらも、あの佇まいに既視感を覚えていた。

そして老男の後について、歩き出した。

⭐︎

ふたりの宿場は、この島内にある唯一の宿で古民家を再生させた母屋だった。

老男に促された板間の部屋に荷物を置き、ふたりはしばし沈黙した。

長い歴史をまとう母屋の雰囲気に、圧倒されていた。

老男はふたりに茶を淹れながら、口を開いた。

「申し遅れました。私、ひかり様に長年お仕えしておりますおなごの弟であります。鳥海島の長(おさ)もしております夏男と申します。数日間、よろしくお願い申し上げまする」

夏男は小さな身体をさらに小さくし、土下座の恰好で挨拶をした。

知波はその姿に恐縮してしまい、

「顔を上げてください。こちらこそお世話になります。わたし、知波と言います。そしてこちらがわたしの息子、太士朗です」

「太士朗です。よろしくお願いします」

と続けて挨拶した。

微動だにせず身は突っ伏したままで夏男はふたりの挨拶を小柄な肢体で受け止めていた。

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