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ステラおばさんじゃねーよっ‼️⑲一方通行〜地平線を歩く夢
👆 ステラおばさんじゃねーよっ‼️ ⑲一方通行〜恋わずらい は、こちら。
🍪 超・救急車
あの丘へ出かける前、「お兄ちゃんと一緒に寝たい!」と子供たちが大騒ぎしたものだから、聖がうまく言い聞かせてくれた。
そして園に戻った頃にはもう、彼らは夢のなかにいた。
昨日はポーちゃんから結婚報告はあるわ、実母の母子手帳を渡されるわで、カイワレには衝撃的な1日だった。
深夜24時をまわりやっと、カイワレは施設の空部屋のベッドに入った。
しかしほとんど眠れぬまま、朝を迎えた。
「たいちゃん、またね。何かあったら連絡してね」
聖は子供たちを起こさないようにささやいて、かがんで靴を履くカイワレの背中をさすった。
「お世話になりました。また連絡します」
睡眠不足もあって、カイワレの声はささやくよりも弱々しかった。
はい、と背後から手渡された紙袋をのぞき込むと、手作りの大きなおにぎりが六つも入っていた。
「ポーちゃんとケンカにならないように、多めに作ったよ」
「ありが…と」
ぐっとこみ上がる感情で、声がいきなり途切れた。
カイワレは聖に顔を見られぬよう口に手を当て、2、3度大きくおじぎし、歩き出した。
駅まで向かうバスの中、窓に顔を寄せ、まだ見ぬ実母と聖、ふたりの母に対してカイワレはふと、つぶやいた。
「お母さん」
そして都会へ向かう電車に乗っている間、気を失うように眠りについた。
⭐︎
いつものように異空管を急降下し、夢の世界へ。
そこは空のような、海のような、広大で何もない場所。
白い布を身にまとったカイワレは、裸足で歩いている。
地平線の上を、ただひたすら真っ直ぐに。
ぼうっと浮かんでは消え、消えては浮かぶ小さな光を目印にして。
何のために歩くのかも分からないし、それほど哀しくもないし、楽しくもない。
喜びも、怒りもない。
おだやかに流れゆく時間の中で、自分らしく歩くようなフラットな夢。
ずっと歩いて行きたい。
この世界の、この道を。
何の感情も感じられない安寧な夢に、身をゆだねた。
⭐︎
「神也町〜、神也町〜」
頭の奥に強く響いた駅のアナウンスで、完全にカイワレの眠りは中断された。
神也…町…、降りなきゃ。
寝ぼけ顔のカイワレは、車内の人混みをグイグイかき分け、何とか駅のホームへと抜け降りた。
駅からの帰り道には、雪が散らつきだした。
傘もないので、ダウンジャケットのフードを目深にかぶった。
フードをかぶると、何かに守られているようで安心した。
そして日常の景色が視界に戻ったのもあって、色々と用件を思い出していた。
仕事依頼は、さっきメールチェックしたけど急ぎのものはなかったな。
ポーちゃんとひかりさん、ちゃんと帰れたかな?帰ったら、聞こう。
あ、そう言えば@くろけっとさんへDM、送ってなかったな。
【わかりました。】
と簡単な返事はしたものの、すぐにDMを送る必要性も感じていなかった。
この、濃厚過ぎた2日間。
カイワレは心身ともに疲弊しまくっていて、興味程度のものにかまけている余裕は、正直なかった。
唯一の救いは、さっき電車で夢を見た気がするのに、寝醒めに残るいつもの疲労感がなかった事だった。
家に帰ってあたたかいお風呂に浸かりながら、昨日あった事や、夢の買い取りの件をゆっくり考えよう。
気づけば、雪は本降りになっていた。
一方通行の道を避け、いつもより遠まわりした。
少しずつ白くなってきた道についた足跡を見送りながら、自宅を目指した。
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