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ステラおばさんじゃねーよっ‼️①カイワレ

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️ ぷろろ〜ぐは、こちら。

🍪 超・救急車


ぁあああああああああああああああんぃや。

大きく伸びをして出た声が雄叫びにならず、ジェンダレスな声にカイワレは涙目になった。

はあ、変わり映えのない朝が来た。

もう僕は、寝たい。

徹夜明けのカイワレは、長らく保温されたままのコーヒーメーカーに力なく手をのばした。

なんだかなー、爽やかな朝の「初出社」の、イメージとかねぇ。

カイワレはさっきまで書いていた原稿の中身が、腑に落ちないまますすけた味のコーヒーに口をつけた。

カイワレは、フリーのライターである。

特に代表作と呼べるものが無い、いわゆる無名の文筆家だ。

普段は、月刊誌の単発企画記事やWEB記事、計十数本を執筆し、生計を立てている。

ギャラが割高なので、ある時は有名人が著作物を出版する際のゴーストライターになったり、ある時は芸能人が主演する映画やドラマの宣伝のための提灯記事をWEB上に掲載する煽りライターになったりもする。

そしてカイワレは、自分の名前を世に出したい!と強く思う野心家タイプでもなかった。

ただ社会に、時代に、人に、緩やかに関わっていられればそれでいい…と妙に達観する、欲の少ない若者だった。

⭐︎

ライター生活も、今年で6年め。

自分の意図とは異なるモノを書くのは慣れ過ぎているはずなのに、今回のカイワレは、《ぷろろ〜ぐ》の中身が、まったくしっくりきていない。

計3回の男性誌広告内での連続もので、販促商品は、電化製品のコーヒーメーカー。新卒社会人から中堅ビジネスマンの男性をターゲットに、この商品を訴求できる物語を構築せねばならない。

職業柄、昼夜逆転、通勤にしばられないカイワレには、定時勤務のサラリーマンこそ、「非日常」で、「初出社」の経験は、皆無。

まったくピンとこないせいか、描く世界も酷く稚拙で、自分でも呆れていた。

爽やかな朝を【ブッ壊す】、ハードロックなエピソードを組み込むか。

冷えきって、苦味しかしない褐色の液体をふたたび口に含みつつ、カイワレは半分寝ている頭で考えを巡らし、メモに箇条書きしてみた。

日常に【非日常】が起こる、とは?

①いきなり、隕石が落下して来るようなとんでもない天災が降り掛かる。

②いきなり、災害レベルの悪天候になる。

③ いきなり、家族や友人等の不幸の報せがある。

④いきなり、住宅設備インフラが壊れる。(水が出ない、ガスが出ない、電気が来ない)

⑤ いきなり、凶悪犯罪に巻き込まれる。

⑥いきなり、自国で戦争が始まる。

【いきなり】の枕詞で唐突感が増すのは、とてもいい。

この箇条書きの中で、カイワレが【書きたい】物語の始まりには、どれがふさわしいのか。

徹夜明けのよどんだ思考の海に、カイワレ自身が溺れかけている。

ひと眠りし、一旦リセットしよう。

そうしよう。

カイワレはベッドにもぐり込むとすぐに、泥土に埋もれるように、ずふずぶと沈んでいった。

…夢のなかへ。

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