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父の幕引き ① 手術

2020年5月14日

その日 は刻々とやってくる

まだまだ先のことだと
高を括っていたのに

3月の娘の卒業式の時だから
20日ごろだったか

一緒に食事をした

父から
最近、血尿が出てる
と聞いた

え?なんですぐに病院へ行けへんの!?

10日ほど先に
いつも定期的に通ってる内科の予約があるから
その時についでに診てもらおうと思って、、
だそうな

父の住む地域で
コロナの感染者が初めて出たと
騒がれている時だった
日本中からマスクが消え
高騰している時だった

あれから
ウイルスが広がり
世の中は戦々恐々としていくことになるとは

そんな中、
父の身体を
具(つぶさ)に調べる検査が始まった

コロナの影響があったのかなかったのか

入院はずいぶん先だな
と思ったくらいの日程に決まった

だから、病状は軽いんだ
と勝手に理解した

それでも通院のまま
毎日のように検査は続いた

病院から帰って
ご飯の用意に洗濯に犬の散歩、、
一人で暮らす父は

「入院した方がマシや」

とぼやいていた

血尿はどんどん濃くなっていった

20年前の手術の再発かとも疑われ

1ヶ月ほぼ毎日通いの検査

ようやく入院したのは
血尿が出だしてから
1ヶ月半経っていた

コロナの影響で
面会はできない

入院時と手術の日だけ
付き添える

もちろん検温して
マスク着用

これが常識的になっていくんだろうか

父の入院目的は

膀胱にできてる腫瘍の切除
全身麻酔で、内視鏡手術で取る
(疑われた再発ではなかったらしい)

その腫瘍が良性か悪性かは
取って調べてみないとわからない
取ってから一週間くらいで結果がでる

10時から手術と聞いたので
朝9時に病院へ到着

新米の看護婦さんによると
12時半から手術だという

あれ?10時ではないんですか?

父はそんなの聞いてないという
しかし
父の聞き間違えだろう
うん、それしかない

耳も遠く
思い込みが激しくなってきているから

待つのは全然平気な私

談話室でゆっくりしとくよ
年季の入ったコンセントもあるし

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父の自宅から徒歩10分もかからないこの病院

アレとコレを持って来てほしいと
頼まれていたので持参する

ご飯のお供に
梅干し、高菜とジャコの瓶詰め、
大好物の鰹の酒盗
そして、服や下着の追加

その中の一つを見つけて
コレじゃないという

もぉー
時間あるから何度でも徒歩で往復するけどさ

2度目に合格が出た
言わせてもらうと
コレはトレーナーでもスエットでもなく
ロンティーですけどね!ふん!

スニーカーのかかとを踏んで履いていたので
気を利かせて持っていったスリッパ
見せると
スリッパは危ないから禁止されてるらしい

捨てていいと言われたけれど
また父の家に戻しに往復するはめになった

やれやれ、いい運動した
途中横切る大きな公園は
手入れされた色とりどりの花が咲き
改めていい環境だと知る

父にも愛犬にも最高の環境なんだと知る

病院の売店のファミマで
カフェラテを買い
固いソファに落ち着いた

父となんというわけもない話をした
11時を回ると
そろそろ着替えに、、、と父は消えていった

12時前、看護婦さんに呼ばれて
ベッドに横たわる父を手術室まで見送る儀式

沈黙のエレベーターで
5階から3階の手術室へ

待ってるよ

心配をよそに
予定通り90分ほどで
手術は終わった

時間が早すぎたり延びると危ないと聞くから
ホッとした

看護婦さんに呼ばれ
手術室へ向かう

何度目だろうこの感じ
ホッとするような 

生体検査に出さないと
まだ答えがわからない中途半端なこの感じ

20年前の父
10年前の姉
9年前の母

みんなの手術に立ち会った

こちらでお待ちください
と椅子に座らされる
すぐに
手術着に帽子とマスク姿見の
執刀医と見られるお医者さんが出てきた

壁のホワイトボードに
絵を描いてわかりやすく教えてくれた

膀胱にあった腫瘍は全て切り取った
思っていたよりこの1ヶ月で
急激に大きくなっていて
膀胱の外側の筋肉とその上の脂肪近くまで
深く切り取った

ということだった

手に持った10センチほどの3つの容器
透明の液体に浸かった赤いホルモン
白い粒、青白いカケラ、、、

今回はブツそのものは見せられないだろう
とゆるーく構えていたのに

見せられたーーー!

膀胱のカケラ

出されたら見る

人の体の内側、臓器なんて
珍しいから
マジマジと見てしまう

これでしばらく焼肉食べられへん
ホルモンなんて食べられへん

とはならないのが私のいいところ

ベッドに横たわりガラガラと運ばれて
父が出てきた

かける言葉が見つからない

夢うつつの父

また沈黙のエレベーターに乗って
3階から5階へ

病棟入口でバイバイ

手術は終わった

無事に終わった

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