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痛みと姿勢の関係性

多くのセラピストが痛みの改善のために姿勢指導を行っていると思います。
しかし、ただ姿勢を良くする事が痛みの改善に繋がっているわけではありません。

患者さんは痛みの原因を知りたがります。そして、それを姿勢の悪さという日常習慣に帰結している方が殆どです。

痛みの改善を目的にすると
①姿勢の分類
②痛みの発生リスク
③機能評価
④改善指導
という流れが必要になります。

そして、そこには改善に向かうための指標が必要です。

前提として痛みは個人の感覚であるため、姿勢との関連性があるかどうか?という点でははっきりしにくいという事実を把握しておくべきでもあります。

ただ、姿勢を読み解く中に痛みを和らげるヒントは隠されています。

それを解読する鍵となる知識を一部お伝えしたいと思います。

姿勢分類

まずは不良姿勢のパターンとその要素となるものを簡略的に説明します。

概観的に判断するとなると見えている部分、触れることができる部分でしか判別できません。

その中で姿勢分類はひとつの外観的な要素になります。

姿勢分類の代表的なものとしてKendallの姿勢分類を紹介します。

Kendallの姿勢分類

この姿勢分類は矢状面から見た外観的な姿勢を4つのパターンに振り分けたものです。

矢状面から眺めた姿勢の臨床的な意義は

①前後の筋バランス
②重力と重心
③アライメント

この3点から推察できることです。

不良姿勢にとって前後の筋バランスは痛みとの関連がある要素でもあり、上位交差性症候群に代表される前後のインバランスは
①深層筋の萎縮
②代償動作による表層筋の過活動
③受動的姿勢による関節や靭帯への負荷
などを引き起こし、痛みに影響します。

姿勢による前後の筋バランス

また、重心の不安定さは体性感覚を鈍らせ、バランス感覚の低下や運動準備の遅れ、動作の緩慢さが生じやすくなります。

アライメントとして見ると
①脊柱の弯曲異常
②肩甲骨と胸郭
③骨盤と腰椎または股関節
④膝
といったポイントがあり、4つの姿勢における共通点にもなります。

アライメント

姿勢の分類でひとつの指標になるのがアライメントです。
アライメントとは隣接する骨と骨の整列・配列とその協調性です。

脊柱の形状モデル

脊柱、骨盤のアライメントは姿勢の特徴のひとつであり、矢状面または背面から触知することで観察できます。

視覚的にはレントゲンなどの画像撮影が必要ですが、肩の左右差や股関節や膝の角度を見て外観的に想像することはできます。

アライメントを触察する中でポイントになるのは
・ランドマーク
・筋の左右差

この2点です。

また、肢位の変化によって筋の影響やランドマークの位置関係に変化があり、そこを基に推察することもできます。

ランドマークの位置情報は脊柱の弯曲の形状を計る上で基準になります。

頚椎・・・C5
胸椎・・・T6-7
腰椎・・・L3

これらが弯曲の頂点であり、そこをポイントにして弯曲がどのような弧を描くのかを見ていきます。

例えば、胸椎の過剰な後弯になるとT6-7を基準点として上下の割合が1:1に近づくほど過剰になります。

胸椎は上部の方が弯曲が強いため、その比率が等しくなるほど弯曲の長さが長くなると考えられます。

脊柱起立筋について

脊柱のアライメントを保つ上で知っておきたい筋肉のひとつが脊柱起立筋です。

姿勢維持には抗重力筋という重力に対し対抗する筋のグループがあり、その根幹を担う筋がこれです。

抗重力筋

脊柱起立筋は脊柱を挟むように3つのラインがあり、内側から棘筋・最長筋・腸肋筋と言います。

これらは各筋3つずつ、4セクション(筋束)に分かれており、それにより運動連鎖が可能になります。

脊柱起立筋は腰痛の人の場合、FRPという現象が見られなくなります。

FRPは屈曲弛緩現象といい、屈曲時の脊柱起立筋はある角度になると筋が弛緩するという現象です。

腰痛患者の場合はこの現象が見られず、運動恐怖などの誘発因子にもなっていると考えます。

また、脊柱起立筋は腰部において、左右の立脚に対する脊柱の動きとも関係しています。

不良姿勢の場合、脊柱起立筋が萎縮し、機能低下を起こしている場合もあり、腰痛とともに活動が低下するとこのような特徴的な運動に影響が生じる場合もあると考えています。

例えば、slump座位の状態では脊柱起立筋は活動が低下し、萎縮しやすくなります。

uprightの立位では逆に筋の活動が高くなります。

姿勢の安定機能が低下することで姿勢維持筋の活動低下をもたらし、更に痛みは筋の過剰な攣縮や動きの遅延を引き起こすことで不良姿勢を助長することになります。

コアスタビリティ

ここで考慮したい姿勢の要素としてコアスタビリティという機能の理解です。

コアスタビリティは3つのサブシステムを有する姿勢機構であり、様々な組織の複合的な協調システムです。

コアスタビリティに働く3つのサブシステム

この3つのサブシステムは互いに監視され、脳のフィードバック・フィードフォワードによって状況や環境によって姿勢を効率的に安定させようと働きます。

このシステムの中心には腹横筋と呼吸があります。

呼吸は姿勢維持にとって非常に重要な要素のひとつであり、呼吸機能の低下は腹横筋や横隔膜の働きを弱めます。

腹横筋の起始部は横隔膜の一部や腸骨筋とも筋膜で連結しており、そのため呼吸と股関節の屈伸、骨盤のリズムは相互的に連動するものです。

このように腸骨筋の作用から腹横筋の働きを推察することもできます。

腹横筋と腸骨筋

腹横筋の機能低下は腰痛の人にとっては関係が深く、この筋の機能低下により多裂筋や脊柱起立筋の過剰な収縮を認めることがあります。

また、コアスタビリティの低下は代償的な動きを助長させ、腰部や頸部に物理的なストレスや負荷をかけることにもなります。

痛みによるコアシステムのアンバランス

痛みはコアシステムのバランスを崩す要因になります。痛みがあることでサブシステムの協調性が欠け、痛みの回避行動や代償動作が増えます。

痛みによるコアスタビリティの崩壊

アライメントもコアスタビリティもお互いに働き合っていますが、痛みや機能障害などの影響が様々な変化をもたらします。

これは心理的にも肉体的にも働くため、姿勢というのは情緒的な要素も含まれると考えます。

痛みによる不良姿勢は様々な影響をもたらす

そして痛みを抱える患者には姿勢の4つのポイントを観察することで分析できることがあります。

・代償動作
・姿勢感覚
・筋バランス
・動きの遅延

この4点です。

痛みを抱える患者の姿勢観察のポイント

外観的な評価はあくまで仮説であるため、正確性に欠けはしますが複数の事実を考察することで正確性を高めることができると思います。

痛みのある患者の姿勢を観察するということ

痛みを抱える患者に対して、姿勢を観察し、指導を行うというのは正しい姿勢を取らせることが必ずしも優先されるわけではありません。

姿勢の不安定さは筋力だけの問題ではなく、日ごろの癖や習慣、筋バランス、セルフイメージなど包括的に考えることが必要です。

姿勢を改善すれば治るという発想ではなく、姿勢は回復や改善に導くために沢山の情報を集めることができる"象"です。

身体をコントロールしたり、維持する機能のひとつとして理解を深めていくと面白い発見があるかもしれません。

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