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首の痛みをもみもみだけで終わらせない

こんにちは、池袋のサンシャイン通り接骨院の経営をしている丸山です。

接骨院に来る患者さんの中でも多く見かけるのが首の痛み。

肩こりみたいなもの

そう捉えてマッサージしたり、ストレッチをしたり

ほぐれてラクになりましたー

またいついつ来てくださいねー

これで終わっているようなら、この記事を読んで頚部痛について考えていきませんか?

カイロプラクティックの先生だと

「首の骨がズレています」

って患者さんに説明していませんか?

米国のカイロドクターはレントゲン写真に線を引いて判断していますよね?

日本ではレントゲン写真は撮影できないので、画像診断は不可能です。

20年ほど前、僕は整形外科クリニックさんと提携していて、レントゲン写真を貸していただけていました。(今ではもう難しいでしょうね)

その時に線を引いて椎骨のズレについての考察をしましたが、

①椎間板変性

②骨棘による椎体の変形

③痛みによる代償的な側弯

主に頚椎のズレと考えられるのはこの3点じゃないかと思われました。

しかし、③以外は触察だけで判断するのは正直難しいなぁと当時思っていました。

なぜなら、①椎間板変性(狭小化)していない人の少なさ、②頚椎の骨棘による変形がこれほどまでに多いのか?また、骨棘が上下の椎体と癒合しているのを目の当たりにして驚愕しました。

椎間板は、40歳未満の被験者の25%および40歳以上の被験者のほぼ60%で、1レベル以上で変性または狭窄していました。無症候性の個人の年齢に関連する頸椎の異常な磁気共鳴画像の有病率は、それらの所見を臨床的徴候および症状と正確に一致させることなく、診断検査の手術決定を予測する危険性を強調している。40歳以上の被験者のうち、5%が椎間板ヘルニアを患っていました。3%、ディスクの膨らみ。そして20パーセント、椎間孔狭窄。ディスクスペースの狭小化、ディスクの変性、拍車、またはコードの圧縮も記録されました。Abnormal magnetic-resonance scans of the cervical spine in asymptomatic subjects. A prospective investigation.
Boden SD1, McCowin PR, Davis DO, Dina TS, Mark AS, Wiesel S
The Journal of Bone and Joint surgery. American Volume, 01 Sep 1990, 72(8):1178-1184 PMID: 2398088

無症状の人の頚椎をMRI画像で診断した結果が上記の引用に書かれています。

40代以上で60%は何かしらの変性が見受けられたということです。

頸椎椎間関節変性の有病率は、おそらく50歳以上の個人で非常に高く、年齢とともに重症度が増す傾向があります。中部および下部頸椎のすべてのレベルがほぼ同じ程度に影響を受けたのに対し、腰椎ではより低いレベルへの変性の増加が報告されました。Morphological changes of cervical facet joints in elderly individualsA. Kettler, K. Werner & H.-J. Wilke European Spine Journal volume 16, pages987–992(2007)

加齢による頚椎椎間関節の変性は腰椎よりも多く、年齢が上がるほど重症度が増すという研究もあります。

こうなると、触察のみで頚椎間の可動性を把握するのはほぼ不可能ですし、40代以上の人の頚椎には椎間板や椎間関節に変性が生じていると理解しておいた方がいいと思います。

カイロプラクティックのアジャストメントは下位椎骨に対する上位椎骨の変位を関節運動を用いてアプローチします。

しかし、その安全性や正当性をどのように担保した上でテクニックを選択すればいいか?となるとリスクと不当性しか見いだせないなと思いました。

そこで、頚椎の椎骨間における機能や力学要素をもう一度考え直してみる必要があります。

頚椎の基礎知識おさらい

頚椎は7つあり、第1(環椎)・第2(軸椎)で構成される上位頚椎と、第3~第7で構成される下位頚椎で成り立っています。

上位頚椎は頭部を支えながら、様々な方向へ動くことができます。このユニット自体が球体のような構造をしています。

環椎は椎体のない輪状の骨、軸椎は歯突起を有する特殊形状の骨で、軸椎の歯突起は環椎の前弓に関節し、椎体を共有する形となります。

下位頚椎は椎間板を有し、椎体を持ち、椎孔から神経根を通し、椎体側面には鉤状突起によってluschka jointを持つ、横突起は前結節と後結節がリング状に繋がり、横突孔となり、C6-C1の横突孔は椎骨動脈を通します。

C7は隆椎と呼ばれ、棘突起が長く体表上触れやすいですが30%の個体は第1胸椎の方が突出しているので触るだけで確信はできません。

頚椎の運動(C3~C7)は椎間板と椎体、Luschka joint、椎間関節によって行われます。

頚椎独自の特徴はLuschka jointが存在することです。10歳くらいになると椎体の側面が盛り上がり鉤状突起となります。頚椎は椎間板と椎体の比率が他の椎骨より大きいため、椎間板上の可動性が高い構造です。

その分、安定機構が必要になります。鉤状突起は椎体の外側面に隆起する突起で、この部分は滑膜性の関節構造をしています。

側屈に対しては可動を制限しますが、屈伸に対しては安定装置の役割をします。

頭部の重心は前掛かりになっています。そのため、頚部は常に屈曲方向へ重力が働きます。Luschka jointがあることで椎間板にかかる圧を減少させてくれます。

頚椎の椎間関節は屈伸時は関節中心を通らない。屈曲時は下方が開き、上方が閉じる。伸展時は上方が開き、下方が閉じます。

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頚椎の椎間関節は屈伸時は関節包靭帯が弛緩することで安定し、黄色靭帯や棘間靭帯、または固有背筋によって制御されます。

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これらの頚椎の屈伸運動のメカニズムを見ても、椎骨のズレまたは、不整列が生じるとしたら

①鉤状突起の骨棘変性による椎間板ストレスの増大

②外力による関節包靭帯の3mm以上の伸張方向へのストレス

③後方の靭帯群の異常および固有背筋の損傷、機能障害

これらのような器質的損傷、変性が引き起こす要因にはなり得ますが、それが頚部痛の原因と特定される決定的な証拠としては乏しいと思います。

そして触察のみでこれらの損傷または変性を触りあてることは不可能であり、生理的前弯だけでこのことを判断できると盲信できることの方が不思議でなりません。

頚椎を構造的に触診するのは非常に困難を極めます。


椎間関節の固有受容器

頚椎のメカニカルストレスについてをもう少し理解するために、頚椎椎間関節の痛みの感覚に対する神経系の作用も考えてみます。

頚椎椎間関節の機械受容器終末についての論文には

頚椎椎間関節包における機械受容性および侵害受容性神経終末の存在は、これらの組織が中枢神経系によって頚椎不安定性や変性を予防するため、椎間関節からの神経入力が頚椎の固有受容感覚と痛みの感覚は重要である。Mechanoreceptor Endings in Human Cervical Facet Joints
McLain, Robert F. MD Spine: March 1994 - Volume 19 - Issue 5 - p 495-501

ということが記されています。

椎間関節の固有受容器は中枢神経系によって監視されています。

ここに痛みを誘発させるような信号や変形や変性などによる機械的なストレスが生じると椎間関節から中枢神経に入力され、筋の収縮や姿位の変化などで表現します。

このような状態になっているとすると、"触察のみ"ではなく、動作やスペシャルテスト、神経学的検査によって複合的に判断する必要が出てきます。

接骨院、整体院ではここまでの知識から精査されることなく、姿勢や筋の硬結、可動域などで判断されていることが多く、医学的な判断がなされていない場合もよく見かけます。

頚椎椎間関節障害の原因

ここでは頚椎の椎間関節障害の原因についても考察していきます。

椎間関節は固有受容器が多く分布しており、位置情報や靭帯の伸張刺激を入力することで関節の安定性に関与していることがわかりました。

頚椎の場合は関節包靭帯の弛緩した状態が正常なので、過度な伸張刺激に対しては頚部の筋の緊張が生じます。

これらはむち打ちなどの外傷や生理的異常などによって関節包靭帯になんらかの変性を伴う場合に起こります。

機械的、構造的には長時間同姿勢、反復運動などによって生じる椎間関節へのメカニカルストレスが炎症を起こすと言われますが、正常な可動性の中で椎間関節が損傷するほどのストレスというのは考えにくいと思います。

椎間板変性による椎骨間の狭小化、肩甲骨や鎖骨の位置による筋緊張による椎間関節への反復ストレスなどが同時に起こっていることで椎間関節への圧と靭帯への伸張ストレスがプロスタグランジンE2受容体であるEP2が後根神経節と脊髄神経内で増加することで炎症過敏性が上昇し、疼痛が引き起こされると考えられます。

頚椎椎間関節障害による疼痛は伸展と疼痛側への回旋、側屈で誘発されます。ただし、椎間関節の関節包靭帯が伸長されると痛みが誘発されることもあるため、屈曲や反対側への側屈などでも痛みが再現されることもあります。

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肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション 羊土社 村木孝行編集

頚部椎間関節痛に関しては

・疼痛発生部位

・可動による疼痛誘発テスト

・事故や損傷歴

・肩甲骨、鎖骨の伸張抑制による疼痛緩和があるか

この辺りが判断基準になり得ると考えられます。

頚椎の神経障害

そもそも頚椎の異常を疑うということは

・神経障害性の疼痛の可能性

・外傷性の損傷の可能性

・器質的異常の可能性

この3つのどれかを疑っているはずです。

頚椎は神経障害による症状を多く訴えます。

神経障害性の頚部痛を疑う場合

まずは頚椎神経の支配領域上に痛みや痺れなどがでていないかを確認しましょう。

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デルマトームは皮膚上の神経支配領域を示したものです。しかし

2013年谷俊一らによる論文には

一般に上肢はミオトーム、下肢はデルマトームの信頼性が高い

と記されています。

上肢の痛みを伴う症状に頚椎の異常を疑うとしたら、筋力の左右差や腱反射、筋電図による検査の方が信頼度が高いようです。

ちなみに頚椎の神経障害を鑑別する上で考えておきたいのは、髄節間の障害と神経根障害があるということ。

神経根障害の場合は一側性であることが初発時では多く、脊髄症との鑑別に有力な症状です。神経根障害は運動線維の前根と、感覚線維の後根のいずれか、または両者の刺激によって生じます。後根の刺激では神経痛様の刺すような激痛が支配領域に放散します。前根の刺激では筋に局所的な緊張が生じ、筋の感覚神経を刺激し、筋肉痛様の痛みが支配筋に生じます。

これらの症状はいきみ、咳やくしゃみなどで増悪し、頚椎運動によっても増悪する。特に伸展、症状側への側屈は誘発する動作になります。

神経根症状の初発症状は頚部および肩甲骨周囲部への疼痛、C5、C6では肩甲骨上部と上腕外側、C7では肩甲間部と上肢後側、C8では肩甲間部、上肢内側が多く、C7の場合、大胸筋部に疼痛が見られる場合もある。

感覚障害も神経根症状は一側に見られます。自覚的な痺れは支配領域と一致しない場合もあるが、他覚的な感覚障害はC6は母指、C7は中指、C8は小指におこる。C5の感覚障害は肩よりもやや下方外側にあります。

神経根症状において腱反射は低下または消失します。C5、C6は上腕二頭筋腱反射が、C7は上腕三頭筋腱反射が、C8は手指屈筋の反射低下が見られます。

脊髄症の場合は神経根痛を伴わず、上肢の痺れから初発する事が多く、首や肩甲骨に疼痛を伴わない場合も多い。症状はあっても首や肩がこる程度です。

神経根障害が単一の高位に起こるのに対し、脊髄症の場合は上肢感覚障害の範囲が広範な傾向にあります。

C3/4椎間では上肢全体に、C4/5椎間では手の全体に、C5/6椎間では母指を除く四指に感覚障害を認めます。進行すると下肢の感覚障害へとつながることにもなります。

髄節障害によって上肢では髄節性の筋力低下、筋委縮が見られます。障害髄節レベルの腱反射は低下、障害よりも下位のレベルでは亢進することが原則。C5/6の髄節間障害だと、腕橈骨筋腱を叩打すると腱反射は起こらず、手指屈曲が起こります。

Hoffmann 徴候陽性となり、頚椎性脊髄症の感度は58%、特異度は78%である。

神経根症 谷 俊一, 木田 和伸, 武政 龍一, 池内 昌彦, 田所 伸朗、 頚椎症性脊髄症の診療ガイドライン2010.4

このように感覚障害、筋力障害、腱反射などから神経根性なのか、脊髄性なのかを判断します。

頚椎症性脊髄症のガイドラインによると、50歳代に好発し、男性が女性の2倍とされます。

頚髄症の治療は鍼灸、マッサージ、整体、カイロプラクティックなどの代替療法が有効とする科学的根拠はない。

自然経過による報告もほとんどなく未治療で改善することはまずない。保存的治療例151例の平均7.5年の調査で改善21%、不変23%、悪化9%。手術による改善が最も有意である。頚椎症性脊髄症の診療ガイドライン2010.4

頚椎の神経根症検査法

スパーリングテスト 感度50% 特異度83% 頚椎神経根症候群

頚椎伸展テスト 感度44% 特異度90-97% 頚椎神経根症候群

ウェインナークラスター

これらは神経根の圧迫または伸張による疼痛の誘発テストです。

頚部神経根症の治療

頚部神経根の治療を接骨院、整体院で行う場合は何が信頼できるのでしょうか?

保存療法では理学療法を推奨されていますが、頚椎の牽引についてはコクランレビューで有効性の十分な証拠はみつかりませんでした。

頚椎カラーによる固定は理学療法よりも効果的でないという低レベルのエビデンスがあります。頚椎カラーによる固定が牽引よりも効果的でないという非常に低レベルのエビデンスがあります。

ほとんどの頚部神経根症の人は時間と共に改善します。経過は良好であることが多く、頚椎カラーと理学療法は短期間のフォローアップで有望な結果を示しています。

頸部後根神経節のパルス高周波治療が、臨床的および神経学的検査によって評価されるように、慢性頸部神経根痛を有する限られた数の慎重に選択された患者に疼痛緩和を提供する可能性があるという以前の臨床監査の発見と一致しています。

※Cervical Radicular Pain
Jan Van Zundert MD, PhD, FIPP Marc Huntoon MD Jacob Patijn MD, PhD Arno Lataster MSc Nagy Mekhail MD, PhD, FIPP Maarten Van Kleef MD, PhD, FIPP
First published: 07 January 2010               ※The Effectiveness of Conservative Treatment for Patients With Cervical Radiculopathy: A Systematic Review
Thoomes, Erik J. MMT*,†; Scholten-Peeters, Wendy PhD*,†; Koes, Bart PhD*; Falla, Deborah PhD‡,§; Verhagen, Arianne P. PhD*
The Clinical Journal of Pain: December 2013 - Volume 29 - Issue 12 - p 1073-1086 doi: 10.1097/AJP.0b013e31828441fb  ※Pulsed radiofrequency adjacent to the cervical dorsal root ganglion in chronic cervical radicular pain: A double blind sham controlled randomized clinical trial
Author links open overlay panelJanVan ZundertadJacobPatijnaAlfonsKesselsbIngeLaméaHansvan SuijlekomcMaartenvan Kleefa

このようにありますが、運動に追加した機械的牽引が頚部神経根症の治療に効果的だったという論文もあります。

これには高品質の否定できるエビデンスがないことと、この研究に参加した患者に非特異的頚部痛の患者が紛れていることを主張しています。上肢の神経障害を伴う頚部痛にサブグループ化された患者を対象とした研究によると運動に機械的牽引を加えることで疼痛の改善が大幅になされたとあります。

また、この研究に用いた運動は肩甲骨の運動や頚部屈曲運動であり、特に深層の頚部屈曲筋に作用するものです。

Exercise Only, Exercise With Mechanical Traction, or Exercise With Over-Door Traction for Patients With Cervical Radiculopathy, With or Without Consideration of Status on a Previously Described Subgrouping Rule: A Randomized Clinical Trial
Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy
Published Online:February 1, 2014Volume44Issue2Pages45-57

頚部神経根症の治療は肩甲骨部または頚部深層の屈筋の運動指導が効果的なようです。痛みをコントロールできるように動くというのは疼痛治療の基本のようですね。

頚部の筋

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頚部浅層の筋です。

背面から側面にかけての筋は両側の収縮で頚椎伸展および頭部後屈です。

片側の収縮で屈曲や回旋をします。

これらの筋の伸張性の欠如は頚椎の屈曲運動を妨げ、肩甲骨や鎖骨を上方へと引き上げることで椎間関節内の圧を高め、屈曲時の靭帯の伸張ストレスを高めます。

これにより、頚部痛の原因にも挙げられます。

【僧帽筋】Trapezius muscle

僧帽筋上部の平均筋線維伝導速度(CV)は、慢性的な首の痛みのある人(平均±SE、4.8±0.1 m / s)の方が対照被験者(4.4±0.1 m / s; P <0.05)よりも高かった。さらに、時間の経過に伴う運動誘発性のCVの低下は、患者グループで増強されました(P僧帽筋上部の特性と上肢の動的収縮中の経時変化は、コントロールに関して慢性的な首の痛みを持つ人々のサンプルでは異なります。これは、僧帽筋の痛みを伴う人々で以前に確認された組織学的および形態学的変化に関連している可能性があります。             Muscle fiber conduction velocity of the upper trapezius muscle during dynamic contraction of the upper limb in patients with chronic neck pain

慢性的な頚部痛の患者は平均筋線維活動速度が高い。このことから、ある一定姿位での作業が続くことで賦活された僧帽筋は頚部痛患者では、そうでない人よりも筋の疲労が早くなることを示しているかもしれません。

片側性疼痛群の「正常」側の筋肉血流は、腕の仰角、肩のトルク、およびEMG振幅の増加で通常の増加を示しました。痛みを伴う側では、筋肉の緊張と倦怠感の増加中に、血流を増加させる能力が損なわれているように見え、両側の痛みのグループのどちらの側にも一貫した増加はありませんでした。

片側の僧帽筋の痛みがある場合、正常側の血流は増加しますが、痛みを伴う側は筋肉の緊張、倦怠感がある側の血流は減少したそうです。

精神的な負荷や肩の静的な持続負荷をかけることで、肩の筋への血流量が増大し、皮下への血流量が減少することも分かっています。

Effects of psychophysiological stress on trapezius muscles blood flow and electromyography during static load
Sven-Erik Larsson, Romy Larsson, Qiuxia Zhang, Hongming Cai & P. Åke Öberg
European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology volume 71, pages493–498(1995)

頚部痛は僧帽筋の微小循環とも関係性が深く、静的な負荷や精神的ストレス、慢性化した頚部痛の有無なども僧帽筋の血流量に影響があります。

【胸鎖乳突筋】Sternocleidomastoid muscle

首の痛みを訴える患者と正常な患者の胸鎖乳突筋と斜角筋の疲労性を研究した論文では、II型線維(速筋)の活動が正常な人に比べ、首の痛みを訴える患者は多く、よって疲労しやすい。

Myoelectric manifestations of sternocleidomastoid and anterior scalene muscle fatigue in chronic neck pain patients            Clinical Neurophysiology Volume 114, Issue 3, March 2003, Pages 488-495

胸鎖乳突筋や僧帽筋は筋のstiffnessが痛みと関係があると考えて介入するセラピストが多いと思います。

首の痛みのある患者の僧帽筋上部、肩甲挙筋、胸鎖乳突筋の硬さは、無症候性の参加者と比較して高かった。さらに、痛みと障害の重症度は、慢性的な首の痛みのある患者のこれらの筋肉のこわばりとは相関していませんでした。Neck Muscle Stiffness in Participants With and Without Chronic Neck Pain: A Shear-Wave Elastography Study Journal of Manipulative and  Physiological Therapeutics Volume 41, Issue 7, September 2018, Pages 580-588

という結論が出ています。

首の痛みを訴える患者の頚部筋肉はたしかにstiffnessであるが、そのことと重症度、疼痛とは相関がない。

ということは「徒手でゆるめる」という行為自体はあまり痛みの緩和に影響がなく、短期的な介入効果くらいはあるが、筋緊張を起こす要因を改善する必要性があります。

ということは胸鎖乳突筋や僧帽筋という筋は精神的な緊張からの影響も大きい筋なのかもしれません。

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頚部痛について胸鎖乳突筋の影響を考察する時に食いしばりについて調べておく必要があります。

異常な食いしばりは頭頚部痛を引き起こすとされています。

また咀嚼の不調和による、頚部痛を伴う顎関節症では胸鎖乳突筋の活動が低下することがわかっています。

このことから、胸鎖乳突筋と頭蓋顔面の筋は関連した機能を持っていると考えられます。

Functional Relationships Between the Masseter and Sternocleidomastoid Muscle Activities During Gum Chewing:The Effect of Experimental Muscle Fatigue Kazuo Shimazaki; Nozomu Matsubara; Masataka Hisano; Kunimichi Soma Angle Orthod (2006) 76 (3): 452–458.

また、胸鎖乳突筋と咬合は足の圧力にも影響があるとされています。胸鎖乳突筋の両側の筋収縮が均等であるほど、咬合時の足の圧力が強くなり、振動が小さくなるという研究があります。

これは私の経験的なことですが、足底のアーチや足底の感覚に対してアプローチをすると短期間頚部の緊張が緩和することがありました。

これらの研究はそういう現象とも関係があるかもしれません。

Occlusion, Sternocleidomastoid Muscle Activity, and Body Sway: A Pilot Study in Male Astronauts
Chiarella Sforza,Gianluca M. Tartaglia,Umberto Solimene,Valery Morgun,Rustem R. Kaspranskiy &Virgilio F. Ferrario
Pages 43-49 | Received 18 Feb 2004, Accepted 18 Oct 2004, Published online: 03 Apr 2014

【後頭下筋群】suboccipital muscles

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後頭下筋群の圧痛は筋膜リリースやトリガーポイントの治療点として頻繁に紹介されます。

しかし、筋膜リリースもトリガーポイントも概念的治療法であり、解剖学的に見て明確な治療効果を示せるものかどうかはわかっていません。

しかし、後頭下筋群へのアプローチは咀嚼筋の圧力疼痛感覚を減少させ、痛みのない口の開度を増加させたという研究があり、環軸関節へのマニピュレーションは三叉神経によって神経支配される領域に痛覚鈍麻効果をもたらせ、機械的特発性の首の痛みを伴う女性に口の開きを増加させたことも報告されています。これらは感作された領域とは対照的に、後頭下筋群での圧痛感受性の変化が示されたという研究です。

また、後頭下筋群の抑制と頚部屈曲運動は慢性頚部痛の改善に有効とされていますが、ハムストリングスの柔軟性とこれらが関係しているという研究があります。

Short-term effects of the suboccipital muscle inhibition technique and cranio-cervical flexion exercise on hamstring flexibility, cranio-vertebral angle, and range of motion of the cervical spine in subjects with neck pain: A randomized controlled trial Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation, vol. 31, no. 6, pp. 1025-1034, 2018 

上部頚椎については姿勢制御、立位のバランス、柔軟性などにも関係が深く、頚部痛のある人の場合、後頭下筋群に萎縮が見られるようです。

頚部痛の人に後頭部のストレッチングや押圧、下肢のマッサージなどで緊張が弛むことをセラピストはよく用いますが、その答えはここにあるように思えます。

それは効果ではなく、一現象でしかありません。

頚部痛に効いているのではなく、一時的な緩和が認められる程度です。

手技による効果をあまり強調しすぎることは、得策ではありません。

【斜角筋】scalene muscles

慢性的な頚部痛の患者は表在性頚部屈筋の疲労性が高いとされますが、疲労と痛みの持続時間については相関性がないとされています。

これは胸鎖乳突筋と前斜角筋の疲労度と痛みの持続時間を調査した結果わかったことです。

頚部痛の初期にこのふたつの筋に疲労感を訴えることから、この推測が生まれました。

最大随意収縮の25%と50%で、SCMとSAの両方の筋肉について、痛みの持続時間とFMN、MRV、またはCVの間に有意な相関関係は観察されませんでした。慢性的な首の痛みのある患者では、痛みの発症期間が長くなったり短くなったりしても、SCMおよびSAの筋肉の疲労性とは相関していないようです。この結果は、痛みの発症後の期間における筋肉の疲労性の増加によって説明できますが、この期間を超えて進行することはありません。この仮説は、5年未満の痛みの病歴を持つ患者のサブグループにおける痛みの持続時間とAS疲労性の測定値との間に有意な相関関係が存在することによって裏付けられています。                         Lack of correlation between sternocleidomastoid and scalene muscle fatigability and duration of symptoms in chronic neck pain patientsLes index EMG de fatigabilité musculaire cervicale ne sont pas corrélés avec la durée des symptômes chez le patient souffrant des douleurs cervicales chroniques non neurologiques Neurophysiologie Clinique/Clinical Neurophysiology Volume 34, Issues 3–4, October 2004, Pages 159-165

慢性的な頚部痛は疲労性が増加しても、痛みの持続時間に影響はありませんが、5年未満の痛みの病歴を持つ患者の痛みの持続時間と前斜角筋の疲労性の測定値とは有意な相関関係があるというところが面白いです。

斜角筋は頚部前面~側方の深層の筋です。

前斜角筋の下、中斜角筋の前方を腕神経叢が通過するため胸郭出口症候群の発症部位としても注目されます。

頚部の神経

頚部には脊髄神経、脳神経、自律神経系に属する末梢神経系が存在する。

頚部に起こる脊髄神経・・・C1-C4髄節から起こる。前枝と後枝に分かれる。

C1-C3髄節で起こる脊髄神経後枝(後頭下神経、大後頭神経、第3後頭神経)では、運動神経線維が後頭の固有背筋に分布し、感覚神経線維が後頚部および、後頭部のC2・C3皮膚分節に分布

C1-C4髄節で起こる脊髄神経前枝では、運動神経線維が頚部深層の筋に分布し、最後は頚神経叢の枝と吻合する。頚神経叢は前頚部と外側頚部の皮膚と筋のすべてに分布する。

頚部の脳神経

・舌咽神経〈脳神経IX〉

・迷走神経〈脳神経X〉

・副神経〈脳神経Xl〉

・舌下神経〈脳神経Xll〉

交感神経幹は自律神経系に属し、脊柱の両側に沿って走る神経束で3つの神経節がある。副交感神経系は頚部では迷走神経に含まれる。

前頚部・外側頚部は後頚部・後頭部とは異なり、すべてC1-C4頚神経前枝の支配を受ける。

短い枝は頚深部層の筋に分布し、頚神経叢を形成し、皮膚や筋に分布する運動神経や感覚神経を分枝する。

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横隔神経

横隔神経はC3-5髄節の前根から起こり、C4が最も大きく関与します。横隔神経は頚部では前斜角筋の前面で胸鎖乳突筋の背面を走行し、胸郭上口を通って横隔膜に至り、横隔膜の運動を支配します。

プロメテウス解剖アトラス 頭頚部/神経解剖 P.122~123

頚部の脳神経と自律神経系

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脳神経の頚部支配は主に咽頭部や舌部の運動と周辺の粘膜における感覚。

交感神経は脊柱側面に並ぶ交感神経節(上頚神経節で終着)

副交感神経は迷走神経が頚部・胸部及び腹部の一部に分布するが、頭頚部ではわずかな枝しか出さない。

頚部痛に関連しやすいのは頚部の回旋時や過屈曲によって後頚部三角が伸張された時に副神経に障害が起こる場合が代表されます。

後頚部三角は胸鎖乳突筋と僧帽筋の間にあり、肩甲挙筋付近を指します。

頚部の神経の解剖学的位置を把握し、その走行と分布、作用する筋や知覚領域を知識として知っておくことは病態の把握に役立ちます。

まとめ

頚部痛について思いつくままに書き連ねてきました。

私も若い頃は頚部痛の人が来院されると、可動域と痛みを確認して上部頚椎のアジャストメントばかりしていました。

しかし、これで疼痛が解消される方ももちろんいましたが、大抵は繰り返すか、継続的に痛みを抱えてしまう人がほとんどでした。

揉む、伸ばす、揺らす、緩める

これを繰り返すだけでは痛みは改善しにくいと感じました。

整形外科で働かせていただいた時に、レントゲン写真を沢山見ました。

椎骨のズレより、椎間板や椎体の変性のあまりの多さに頚椎の操作に慎重になりました。

アジャストメントを止めたのもこの頃です。

触診の曖昧さ、痛みのメカニズム、神経系…

人体の仕組みが解るにつれ、頚部痛を治すという発想より、頚部痛がその人の暮らしにどんな影を落としているのか?

という方が大切だと思いました。

たしかに

マッサージしてあげたら喜ばれます。

しかしそれは
気休めであり、接骨院で保険を使って治療を受けるなどは患者側のモラルとしても問題になります。

では、接骨院で頚部痛にあたるときは何が適切でしょうか?

私は
·検査
·運動
·生活の見直し
·心の安全

これだけでも十分な効果があるのでは?と思います。

徒手は患者とのつながりや信頼の部分で使えばいい

そのくらいであれば、エゴを押しつけることなくアプローチできるのではないかと思うのです。

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