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「地球最後の日、僕がシフト代わってあげるね」

例年より今年は大幅に梅雨入りが遅いみたいで、雨は降れど今日は昼間には炎天下だった。まるで梅雨明けのように夏の温度が少しだけ近づいて、それはそれで毎年の如く真夏は緊張する心と身体になっちゃったから、もうちょっとだけ、もうちょっとだけこの隙間の季節を楽しませてくれよ。そう心で唱えて、寝ぼけまなこで公園へ向かう。
朝に起きて走るはずだったけど案の定三度寝して、最高気温の炎天下の公園を駆け抜けた。買ったばかりのバケハには後ろがメッシュになっていて、それはもう快適で、今年こそは夏フェスでも行きたいよなでも行けないよなと、颯爽にゆるいバラードを爆音で聴いて早歩きで住んでる街を駆け抜けた。チグハグな全ては絶妙なバランスで交じり合って、休日の汗に溶けた。

昨日はダイタク大さんに夜空けといてくれと言われ、何も聞かず指定されたパチンコ屋に夕方に行くといつもの後ろ姿。ダンビラ大原とキンボシ有宗。
そこではじめて今夜に大原と有宗が参戦することを知る。
2人が乗り打ちしてるのを横目でグッと我慢して、今度のロフトのライブでかけたい音楽を延々と悩む。ギリギリで大当たりを引き結果トントンになって、あぶねー!と皆で合唱したところで、今夜はニューヨーク嶋佐さん家でしゃぶしゃぶをすることを知る。唯一知ってた大原が「知らずに来たのかよ!」と僕と有宗に言うが、知ってても知らなくてもどっちでもいいんだ。何があるんですか?なんて聞かないよ。無粋じゃないか。今夜空けといておいてくれ、そう言われたら心臓だけ持ってくんだよ。だってそうだろ。


先に大さんと合流して、4人で瓶ビールの大瓶が500円黒霧島350円きんぴらごぼう300円板わさ300円タバコ吸い放題の最高酒場で乾杯する。信じられないよ。黒霧350円なんて、地元福岡でももう中々お目にかかれない。ひとしきり呑んで、今夜のしゃぶしゃぶが金目鯛だと知り、歓喜の万歳。初めてだよ金目鯛のしゃぶ。スーパーの買い物、我慢できない僕ら後輩は牛肉と豚肉もお願いしますと、結局全部ぶっ込みの子どもしゃぶしゃぶ。デザートのおやつにドリトスとポテチも買って準備万端。僕らは皆しっかりアラフォー、それでも地球は周る、アラウンドアース。あざーす。


嶋佐さんのお家に行き「韓国ご馳走様でした」とこの世界じゃないと有り得ない挨拶をして、改めて乾杯して金目鯛しゃぶ。美味の果て。なんだこの合法的な飛び方のススメ。なんでもないような明日にも忘れるような話でゲラゲラ笑って、美味い美味いと叫び、いつも通りすぎる夜はまたしても思い出になりきる前に生活に溶けた。


6月8日。久しぶりの無限大ホールでの単独公演「銀河ゆめゆめ」が無事に終わった。元々3月にやる予定だったが中々スケジュールや条件が合わず、6月になってしまった。前回の単独とは違い今回は1回限りの公演で、90分でネタは6本。主催はともかく単独を無限大でやるのは2015年とかそれくらいぶり。確か2回目の単独「ギムレットには早すぎる」以来9年ぶり。きゅきゅきゅ9年ぶり??義務教育終わっちゃったよ。ルミネや沖縄や外箱や色んなところでやったけど、無限大ホールはそんなにも久しぶり。


今回の単独のタイトルは「銀河ゆめゆめ」
いつもの日常の続きのような設定のネタはやめて、今回はとにかく想像を飛ばして、壮大にSFに好きにやっちゃおうとのことで、銀河というワードを使った。

ゆめゆめは

[副]《副詞「ゆめ」を繰り返して意味を強めた語。「努努」「努力努力」などとも当てて書く》
(あとに禁止を表す語を伴って)決して。断じて。「—忘れるな」


と辞書にあり、「ゆめゆめ忘れるな」は、「決して忘れるな」という意味あいがある。初単独のタイトルは「お前の宇宙に入れてくれ」だったから、初単独のあの初期衝動を、情熱を、決して忘れないように、そういう想いで銀河ゆめゆめと付けた。


僕はこういうタイトルを考えたりするのが死ぬほど好きで、めちゃくちゃこだわりたいのに、完全無欠の優柔不断者なもので、確定するまでに時間がかかりすぎる。タイトルなんて早く決めないと告知も出来ないし、フライヤーやグッズやら何やら早く決めるにこしたことないのに、またもやギリギリまで大粘りしてタイトルとテーマに時間をかけすぎてしまった。日記なんかもタイトルが決まんないと全然書けない。
しかし今回のタイトルはとても気に入ってる。努力努力でゆめゆめって呼ぶのも好きだし、出囃子も「夢で逢えたら」だし、フジファブリックの「銀河」も好きだし、宇宙も好きだし、福岡名物の努努鶏という冷やし手羽先も大好きだし(これ本当酒好きの人美味すぎるから是非)、何をかくそうアイロンヘッドのナポリさんが大絶賛してくれた。


「いいタイトルやなぁ。言いやすいわぁ〜言いやすい!銀河ゆめゆめ!ぎーんが、ゆめゆめっ!!ゆめゆめ!!!ここは速く言いたいなぁ。銀河、、、ゅめゅめ!!もう、めめやな!!!!」


そう言って笑って楽屋で何度も連呼してくれた。この人はマジで銀河。銀河無二。


そして今回は絶対にグッズのデザインをあの人にお願いしようと決めていた。福岡の大学生の頃からの先輩、おほしんたろうさんだ。おほさんは大学時代、アマチュアのお笑いライブで一緒にやってた頃からの付き合いで。おほさんは福岡を主戦場にネタはもちろん、イラストや文章や漫画や全表現でセンス抜群で、出会った頃からずっと面白くて大尊敬してる先輩。福岡に帰る際もいつも呑ませてもらっていて、今回絶対お願いしたいと思っていたら快く引き受けてくれた。
とにかく宇宙でどうのこうのと僕が投げたざっくりすぎるアイデアに、秒で3パターンも提案してくれて、あまりの可愛さに速攻全パターン使わせてください!と懇願した。完成したデザインのグッズはTシャツ、アクキー、ステッカーと全て最高で。僕はおほさんの描くイラストとワードが丹田に鳴り響くほどに好きで、LINEスタンプもおほさんの創った5種類を常日頃から乱用してるから、これには秀樹感激ハウスバーモントカレー大辛!ハチミツはマヌカハニー!歯が溶けるほどお願い!!YMCAのリズムで全部バンザイ!!
今の僕には嬉しさを表す言葉がこれしかない。



最高タイトルに最高グッズ、世界観はこれでバッチリ決まってあとはネタを詰めるだけ。よっしゃよっしゃ、と満足に一息つくのも束の間、いや肝心なのはネタなのよ。ネタを最高に仕上げなければ。


真っ先にラストコントでやった「タクシー」の設定が思いついて。タクシーの運転手がスペースポリスの仕事に巻き込まれて色んな宇宙の星を旅するという、完全なSF。とにかくサウナとサラリーマン金太郎のガチ勢の僕は、サラリーマンがいろんな星を周って結果整い、「サラリーマンをなめんじゃねえ!!」と叫ぶのがやりたいというアイデアから始まった物語。完全にSF。SFなのかこれは。しかし開いた脳みその奥底の夢遊を実現出来るのがコント。これに負けじと他のコントも、想像を飛ばして飛ばして宇宙まで飛ばして、口を開けて真夜中の公園を歩きまくって、早朝のファミレスで致死量のカフェインにまみれて、気づけば全部が単独のラストコントになりえそうな壮大なネタばかり出来てしまった。



これは、きっかけも多ければ、衣装も小道具も音も、大変だぞ、、、と作家仲間たちにも頭を抱えさせてしまった。しかしもう銀河鉄道は6月8日に向けて走り出した。ハロー今君に素晴らしい世界が見えますか。僕にはプレッシャーで追い詰められてる顔が見えるよ。案の定、アゴにニキビが4つ出来た。両目にはものもらい。僕の生まれた街じゃ、目もれって呼んだ。なんだよ目もれって。調べても一向に出てこない。全部は幻かもしんない。



ライブ終わりに手売りもして、心臓の皆や沢山の人が力をくれて、おかげさまでチケットは完売。満員御礼で当日を迎えることが出来た。



オープニングコントは「I LOVE YOU」
夏目漱石は月が綺麗ですねと訳したのは有名だけど、人にはそれぞれのアイラブユーがある。19才のバイト先の娘に恋するさえない少年のアイラブユーは何だろう。愛ってなんだ。恋と愛の違いはなんだ。ラブワゴンに乗っても別れるじゃねえか。恋よりも愛が上っぽいのに、恋人と愛人じゃ意味合い全然違うじゃん。じゃあ恋の方が上かもな。そんなのただの言葉だよ。ぐるぐると色々考えて出たのは、



「地球最後の日、僕がシフト代わってあげるね」


これしかないよ。地球が最後の日に、人生が終わってしまうその日に、好きな娘の為にバイトのシフト代わってあげる。これが1番の愛じゃないか。好きな人が好きな人と会えるように。



本当に地球が滅亡するとかしないとかそんなのはどうでもいいよ。肝心なのはその娘が言ってることを信じて、その娘の為を思って、休日の予定全部キャンセルして、バイトのシフト代わってあげるんだよ。そんなことしか出来ないから、出来ることをやるんだよ。



想像しただけで尊すぎて涙が出る。僕だったら、完全に自分もズル休みして、仲間たちとしゃぶしゃぶする。金目鯛も牛も豚も鶏も、蟹もいっちゃう。地球最後の日なんだから。



会場のお客さんにもちゃんと伝わってよかった。愛が伝わったのか、哀愁が伝わったのか、馬鹿馬鹿しさが伝わったのか、何が届いたかはそれぞれだけど、銀河の隅っこでどうしようもなく叫んだのが愛だったのは確かだ。




そしてオープニングVの映像が流れる。おほさんの激カワイラストがアニメーションで流れる。前回もVを創ってくれた山北さんに、銀河ゆめゆめというタイトルと宇宙というざっくりしたイメージだけ伝えたのに、出来上がってきたVがまさかの、ラストコントの車が宇宙船になる描写が、台本と繋がっていて驚いた。流石すぎる。同じ音楽を愛してきたからに違いない。



2本目のコントは魔女の森。魔女とその森に住む子どもの話。これも無限大ホールの大画面ありきの大きい仕掛けをして、映像や音や照明をふんだんに使って楽しく出来た。リハや台本でも一切入れずに本番だけ、魔女が鼻歌を口ずさむシーンを入れた。のぶきよにも言ってなかったから、何してんの!?と袖で戸惑ったらしい。
これは僕の中だけの裏設定で、魔女ロザリーが赤ん坊のリアムに子守唄のようにずっと歌っていた鼻歌。エンディング曲の銀河ゆめゆめを鼻歌で歌っている。いつかリアムはあの森から旅立つ。思い出は忘れても、貰った愛は決して忘れない。のぶきよはこのネタが1番好きだと言っていた。わかるよ、好きだよな俺たちは結局。これもラストコントにするかギリギリまで悩んだ。



3本目は、創造主。
一組のカップルの、トランプの罰ゲームからの暴露話。これもネタ作りの段階でめちゃくちゃアイデアが出て、作るのが楽しかった。ロマンチックからこの世界の皮肉まで。彼氏役の僕は終始キムタクの精神でやらせて貰った。現実では絶対にあり得ない。いくらツンデレが効果的だとしてもあんな言動を彼女に出来るはずがない。現実じゃひたすらに「ごめんごめんごめんごめんなさい。申し訳ございません。私めは次は何をすればいいでしょうか?」1ミリも強くいけることはない。あれはもうキムタクを憑依してこそのもの。しかしここは反応あるだろうなと思ったボケのところが、思った以上に大爆発して、のぶきよがノリに乗っていた。これが生の醍醐味だよな。



4本目は結婚式。ある家族の、父と娘の話。僕は今回の単独でこのネタが1番好き。愛と狂気と覚悟の物語。しかしこれはもう、早着替えやナレやセットの転換、音照明、もうスタッフの皆さんの力あってこそのもの。キングオブコントで優勝するんだったらこんなネタで優勝したいけど、その時はもうユニットとして10人組で出ないと絶対に成立しない。父の最後の一言が1番気に入ってる。これももうラストコントで良い。なんでラストコントじゃないんだ。



5本目は、卒園式。これはもうスペシャルコント。初めて単独でゲストを呼んでコントをした。記念すべき初スペシャルシークレットゲストはトニーフランク。熱弁仲間のトニー。やるのはもちろん熱弁師。プラスのぶきよ。熱弁の相手は保育士の先生たち。今までダイタク生誕祭の余興、オズワルド卒業式の余興、対象の相手がいることを前提とした余興芸で、ガヤに芸人たちがいて初めて成り立つ芸。しかしせっかくなので、どうにか出来ないかなということでトニーに相談したら快く承諾してくれて、急遽コント。
相手は僕が1番この世で尊敬してる職業、保育士の先生。あんな責任やプレッシャーもあって、勤務内容の激務はもちろん、持ち帰り残業も多くて休みもなく大変で、それでも子どもたちに愛を持って向き合ってくれる大人はいないよ。僕の初恋は紛れもなく保育園の先生。死ぬほど好き嫌いが多くて、毎日毎日給食一切食べずに困らせてばかりだったのに、優しく寄り添ってくれたのはもう30年も前のこと。それでもはっきりと覚えてる。あの頃のお返しにと、熱弁させてもらった。後半はもう何故か中国語で愛を叫んでた。会場のお客さんもトニーが出てきた時に沸いてくれて、会場の温度が上がった。途中で声が飛びかけるも、なんとか身体中からしぼりした。愛を叫ぶのに、声が小さいなんてそんなダセェことないよ。お客さんもコールアンドレスポンスしてくれて、コントでこんなことは滅多に無いけど、というか絶対に無いんだけど、確かに僕らは「我愛你」でひとつになった。
あとで保育士のお客さん達から、嬉しい感想が沢山届いた。現職の皆さんに届いたのが本当に嬉しい。コントでこれが出来たことがとても嬉しい。コントであの日の感謝と愛を伝えられたことがとても嬉しいのだ。すぐにチンジャオロース食べましたって声も聞けた。最高だよな、嬉しい美味しいピーマン大好き。



そしてラストコント、タクシー。なんでさっきのがラストじゃないんだよ。致死量の汗を噴き出し、声は飛びかけてるのに、まだラストコントが待ってる。20分近くある。なんでだよ。マジでラストに熱弁師でよかったろ。でも決めたんだよ、ラストはタクシーって。もう車は銀河鉄道を乗り換え、ガイコツが踊ってる。HPはもはや赤から透明になっている。やるしかねえよ。



20分、タクシーの運転手とスペースポリスと名乗る宇宙人とのとある事件の犯人探しの宇宙旅行。色んな星を旅して、着いた最後の星は惑星ロザリー。オープニングコントの少年は人生を経て経て、銀河の果てでまたしても地球を救った。この世界が 平和なのは、今日のご飯がいつものように美味しいのは、今日もどっかの誰かのおかげかもしんない。この街にいつものように咲く花は、どっかの星じゃ宝物かもしれない。雨が嫌いなあの娘が紫陽花を好きなのは、どっかの誰かが恋をしているからかもしれない。


ラストコントのラストのセリフを言い終えて、映像が流れる。銀河ゆめゆめ。僕が作詞して、トニーに作曲、唄をやってもらった。はじめはゆったりとしたフォーク調の歌の感じでお願いしたのに、詩を見たらこのメロディが降ってきましたと、とんでもないロックを持ってきたトニー。最高だよお前は。おかげで、全部が繋がって、全部が混じり合って、1つの歌になった。
映像が終わって、再び曲が鳴る。2人で舞台に飛び出てお辞儀をした。あの時のお客さんからの拍手の音の歓びをなんと呼ぼう。あの胸の高鳴りをなんと呼ぼう。単独の醍醐味だよなぁ。あの永遠の一瞬のために、お笑いをやってよかったなぁと心から思う。美しい夜だった。みんなで創ったんだ。そういう夜にしてくれたのは、いつも応援してくれて、観に来てくれて楽しんでくれるお客さん方で。ありがとうを全世界の言葉で叫びたい。あなた方1人1人に熱弁したいよ。ギターかき鳴らしてハーモニカ吐息でぶっ壊して叫ぶよ。本当にどうもありがとう。ゆめゆめ忘れないよ。



「銀河ゆめゆめ」

あじさい通り抜ければ君の好きな
僕は食べないパン屋のレーズンパン
ポケットの星 昼間に飛び出して
布団からはみ出した優しさは
君の得意料理のスープに溶けたよ
この坂道を下れば海につくだろう

君にもらったあの帽子は
遠くに飛んでいった
僕はそのまま自転車止めない
晴れた日にきっと誰かが被る
銀河ゆめゆめ 
忘れないよ 君のでたらめな鼻歌も 
ゆめゆめ 忘れないよ
幻も全部 

この街の景色も銀河ゆめゆめ 忘れないよ 波の音を
君のでたらめな鼻歌を


読んでくださった皆さんありがとうございます。サポートは全てこれからの血となり肉となり人生となります。応援していただけたら最愛です。そしてここからはよりプライベートの日記です。そして特別に、単独から台本を2本「結婚式」「タクシー」を上げたいと思います。単独の裏設定や考察も併せて。是非是非に覗いていってください!!

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読んでいただきありがとうございます。読んで少しでもサポートしていただける気持ちになったら幸いです。サポートは全部、お笑いに注ぎ込みます。いつもありがとうございます。言葉、全部、力になります。心臓が燃えています。今夜も走れそうです。