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夏がそうさせた

今日は免許更新に行く予定だった。高校卒業して18歳の最後の春休み、友達みんなで地元の自動車学校で取った。ちなみに福岡じゃ車校というのが当たり前だけど、こっちで教習所というのが普通らしくて、車校つっても全く伝わらなくて。地方の違いがこんなところにも出るんだな。マックとマクド。絆創膏にリバテープ。ちなみにちなみに福岡じゃマックとリバテープ。東北の方はまた違うのかな。

その免許更新も、車とは無縁のトーキョー若手スタイルな為、車に乗ることなんて年に1回あるかないかで。しかもちょうど、平成と令和の切り替えの時に更新時期が被っていて、気づいた時には期限が1年も過ぎていた。まさかの免許失効。だらしなさすぎて嫌になるよ。こんな勿体ないことあるか?あんな30万も出して車校行ったのに。ハァーと肩を落として周りを見渡せば芸人仲間に普通に結構いた。身近だと、男性ブランコ平井に相席スタート山添さんも失効してる。なんだかちょっと納得できるメンバーで安心する。にしてもだらしなさが過ぎる。おかげで33歳で改めて東京の教習所に通うことになった。つってもそもそも10年以上運転してるから慣れてるのか、教習の先生とお喋り盛り上がりすぎて
地元のツレとドライブしてる感じになってつい片手運転してめちゃくちゃ怒られたことが今では懐かしい。

そんなこんなで、免許更新つっても初回講習からやらなくてはいけなくなって、初回となると、遠くの府中や鮫洲で2時間は講習受けないといけない。更新なんて新宿で30分で終わると思ってんだけど、そうなるとなんだかんだで移動込みで相当時間がかかるし、今日明日で絶対新ネタ作ろうと思ってたので、急遽免許更新の予定を変えた。Googleカレンダーには

🔥🔥😡13日免許更新絶対行け😡🔥🔥

と1か月前からメラメラで書き込んでたのに、これだからダメだよな。しかし新ネタの方が大事だ。俺は東京に車転がしに来たのか。そうじゃねえだろ、俺はお笑いしに来たんだ。そう鼓舞して、時速36kmのトートバッグにノートとペンと又吉さんの新刊と水着を詰めて午前中には家を出た。新ネタを夜までに作って、そのあとは区民プールでトレーニング。最高の1日だ。

最寄りの駅近くのファミレスに着いたら、早速の行列に面食らった。夜しか来たことなかったけど、昼間こんなに何十人も並ぶのかよ。デニーズだぜ。申し訳ないけど、もっかい言う。デニーズだぜ!!

しかしこっちは車校を蹴ってまで新ネタ作りに来てる、帰るわけいかない。しっかり並んで入店。まずは読みかけの、大事に読んでる又吉さんの新刊をゆっくり読む。コーヒーをブラック、二、三杯呑んだら次は紅茶だ。ダイエットしてるからジュースは飲まない。ここのジンジャエールが破壊的に美味いのは知ってるよ。でも我慢する、もう大人だから。そう言ってたら1時間も経てばブルブル身体が震えだす。空調が強すぎる。わかってたはずだ、家出るまえ羽織るもの持ってたが絶対いいって。なんならカーディガン持って畳んでバッグに入れたのに。なんで出しちゃったんだよ。おかげで寒すぎて全然集中出来ない。隣のテーブルではノースリーブのお姉さん達がキャッキャと冷たい桃パフェを食べてお喋りしてる。向かいじゃタンクトップのおっちゃんが新商品の冷やし中華を美味しそうに駆け込んでる。僕はと言うとずっとホットドリンク飲んで震えてる。大人の男の寒がりは本当にダサい。でもしょうがねえよな。暑いのは全然大丈夫なんだよ。寒いの苦手なんだよ。八月生まれ真夏の真ん中に生まれちゃったからさ。しょうがねえよな。子ども出来た時どうしよう。暑がりの親父より寒がりの親父の方が弱そうだもんな。思春期の息子にケンカ負けねえように鍛えとかなきゃな。

とりあえず店を出て、身体あったまるまで街を散歩した。外は意外にも曇りで、最近の炎天下とは違い過ごしやすい気温で。イヤホンから流れるnever young beachが心地よい。夏の散歩のネバヤンは最高だ。
喫茶店にでも入るかと商店街を歩いていたら、嘘だろ。あの焼き鳥屋が空いてるじゃないか。地元で有名な老舗のお持ち帰りの焼き鳥屋で。引っ越してからずっと狙って伺ってたけど、大将ご夫婦もけっこうご老体か体調からの店休日も多く、中々タイミングが合わなくて。そんな時に焼きたてだよ〜という優しい声に甘いタレの香りが絡みついて全身に絡みつく。いいかげんにしてくれよ。実は2日前から16時間ダイエットというのを始めてて、ずっと辛いけど食べるの我慢してて、今日は夜20時からじゃないと食べれないんだよ。まだ15時だぞ。いいかげんにしろ!ネタ書くんだろ!ちゃんとしろ!!

「すいません、全種類1本ずつください」

気づいたら公園でロング缶持ってテーブルに焼き鳥を広げていた。

罪悪感か、糖質ゼロのビールを無意識で選んでいた。公園入り口の近くのテーブルでは、鬼の形相でノートパソコン開いたお姉さんが仕事していて、一つ飛ばしたテーブルに全部捨ててどっか遠くにでも行こうか、と言わんばかりに遠くを見て抱きしめ合ってる大学生の男女。真ん中で焼き鳥で一杯やるには気まずすぎて、遠目のポツンと空いてたテーブルに落ち着くことにした。

テーブルにはノートとペンと又吉さんの本とロング缶と大量の焼き鳥。イヤホンからはネバヤンが聴こえる。曲の途切れる間を、蝉の声とグラウンドから聞こえる野球少年が繋ぐ。夏がそうさせた。夏がそうして欲しかったんだ。


BMXに乗った中学生であろう3人がやってきた。お気に入りの自転車なんだろう。いろんな技を練習してる。1人の子が木の根を超えて大きなジャンプをした時、発泡酒を流し込んだ僕と目が合った。まさか空中でこんな訳わかんねえ炎天下外ネタ書きおじさんと目が合うとは1ミリも思わなかっただろうな。良いジャンプだった。

呑んで食べたからには絶対ここで新ネタ作るぞと汗ダラダラで意気込んでいたら、賑やかな声が聞こえてきた。近くの幼稚園児の子達が、5台のカートでやってきた。


「ぽっぽぽ〜鳩ぽっぽ〜豆が欲しいかそらやるぞ〜」


6人乗りに5台。30人の園児たちが鳩ぽっぽ大合唱しながらやってきた。先生たちはいつものように当たり前のように、鬼ごっこを始まる掛け声をかける。真ん中のテーブルで座る焼き鳥おじさんの周りを園児たちが走り回る。異常な光景。流石にロング缶を一気に飲み干し、バッグに入れた。代わりに又吉さんの小説を大きく開き、ただの読書を愛する青年。子どもたちの教育に何も悪影響はありません。僕の趣味は休日野外読書です!!即座に多大に保育士の先生たちにアピールした。

最初から眼中になかったのか、何も問題なく園児たちと遊ぶ先生たち。保育士の方々は偉大だ。愛のみ。あまりに眩しくて、残っていたぼんじりとレバーを駆け込んで、その場を離れた。ぼんじりとレバーの良さなんて君たちは知らなくていい。

いよいよネタどこで書こうかと思ってたら、グランドから歓声が聞こえた。誰かがサヨナラホームランでも打ったのだろうか。

興味本位でバックネットまで観に行くと、試合は地元の中学校同士の練習試合か。7回の表で、12対9という乱打戦だった。これは面白そうだなと、ちょっと観て行くことにした。僕より先にバックネットから観ていたおじいちゃんがいて、軽く会釈をした。


「買い物帰りですか?」

「いや、、そうです。ちょうどスーパーの帰りで」


さっきまで園児たちの真ん中で焼き鳥にビール引っ掛けてましたとは言えず、スーパーでビール買ったのは嘘じゃねえしなと、買い物帰りの若者を装った。


「野球はいいですなぁ。あなたもやってたんですか?」


意外にもおじいちゃんと話が進み、2人で試合を観ながら話した。どうやらおじいちゃんは昔、少年野球の審判をしていて、こうして野球を観るのが好きでたまに散歩してここまで来るということ。おじいちゃんは4人兄弟で、10個上にお姉ちゃん、3個上にお兄ちゃん、そして5個下に弟がいる。ここは昔グランドなんか無くて、砧や等々力まで行ってたこと。背筋もピンとして綺麗な服を着たハキハキと喋る元気なおじいちゃんだった。初めてあってこんなしっかり家族構成聞くことなんてめったにないよな。


あまりに元気だったんで、お歳を聞いたら


「昭和6年生まれかな」

「へぇー昭和6年ですか、、昭和、、え、6年!?」


まさかの56上。御歳91歳。91なんて僕の婆ちゃんより上だ。びっくりしすぎて、

「全然見えないわお父さん!めちゃくちゃ若いっすね!!」と興奮してちょいタメ口で話してしまった。56上に。56上にタメ口はダメだ。これは恥ずかし申し訳ない。

「これ聞いて長生きしなくちゃと思ったかい?でも長く生きなくてもいいよ。姉ちゃんも兄貴も弟もみんな先いっちゃってさ、僕1人だけ生きて。寂しいだけだよ」

そう言っておじいちゃんはゆっくりと静かに笑った。


返す上手い言葉が見つからなくて、何も知らん若造が上手いこと言ったとてな。そう思ってたら、バッターの少年が大きいファールを打った。


「あぁ〜惜しい!切れちゃったか、、」

「野球好きなんですね」

「野球好きなんだよ!昔、審判をやっててね、、」


おじいちゃんは嬉しそうに、また少年野球の審判やってた話をしてくれた。嬉しそうに話すおじいちゃんはとても可愛くてキュートで懐かしくて、自分のじいちゃんばあちゃんと重ねて、なんだかとても嬉しかった。

9回裏、ゲームセットまで一緒にバックネットで試合を観た。その間、審判をやってた話を4回聞いた。僕が住んでる所も、おじいちゃんが住んでる所も、4回ずつ。多分おじいちゃんの中でも鉄板トークである


「昔、茶沢通りは生活用水で小さな川みたいになってて、僕たちがちっちゃい頃遊んでると、僕のお母さんがそろそろ雨降るから危ないわよ!ってさ。雨の日に怒る雨おばさんとして街で有名だったんだよ!!!」


と大笑いしながら話してくれる雨おばさんの話は6回ぐらい聞いた。職業柄、話を聞くのは大得意だ。ライブ中の芸人仲間の鉄板トークをさも初めて聞きましたみたいなリアクションを10年以上やってきたからか、とんでもない聞き筋肉がついていた。後半は中身も知ってるため、絶妙なパスや相槌が打てたからか、おじいちゃんも軽快に話せて、最終的にめちゃくちゃトーク仕上がった。もしタイムリープ出来るなら、誰かの鉄板話をもっと分厚くアツアツに出来るんじゃないだろうか。コント犬で鉄板リベンジャーズやろうかな。


試合が終わり、少年たちがグランドを整備する。アクエリアスが喉に流れ込む。


「もうこの試合で終わりかな今日は。雨が降る前に帰らなきゃ。でもまたここで会うかもね」

「また会いますよ、僕らもたまにここで野球やってますから」

「そうか、じゃあまた会えるね」


そういって記念に写真を撮ってバイバイした。めちゃくちゃ良い顔でピースしてくれた。僕のじいちゃんばあちゃんはシャイだったのか写真の中でピースしてた記憶が無いけれど、おじいちゃんは思いっきり気持ちいいピースをしてくれた。

帰り際に、お家どこだって話から雨おばさんまでもう一度ベストアルバムで聴いた。

トークがとことん仕上がった。少しだけ帰り大丈夫かな?と心配したけど、片手に持って飲んでた缶がお茶かと思ってたら、森永のミルクココア飲んでたから大丈夫だろう。若いっすね〜というと、ニカっと笑ってスタスタと元気に歩いて行った。今日僕は、地元に56上の先輩が出来た。

 

さあこっからネタ作るか、てな感じな時にランパンプス寺内から連絡あって飲もうとなって、もう今日はしょうがねえ、とことんやるかって気分になったけど。シャワーがてらちょっとプールで泳いで合流するわって約束したら、張り切って泳ぎすぎたのか疲れすぎて帰ったらベッドで五時間気絶してた。気づけば今日は終わってた。

🔥🔥😡ヒカルしっかりしなさい😡🔥🔥

もう2度と来ない昨日の予定に書き込んだ。

それでも今日はこれでよかった。これがよかった。寂しくても悲しくなんかないよ。生きてたら今日みたいな日があるからさ。



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