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「精神0」とラーメン

中国に留学していた時の友人から連絡があり、同級生が監督・編集・撮影をした映画があると聞いた。早速翌日、仕事を早めに切り上げ、シアター・キノへ足を運んだ。狸小路の奥、雑居ビルの2階にあるミニシアターだ。シネコンでは上映されない往年の名作やマニアックな作品を観ることができる。友人から聞いた映画のタイトルは「精神0」。監督名は想田和弘氏。観察映画だという。観察映画・・・。初めて聞くジャンルだ。つまりドキュメンタリー。アメリカのドキュメンタリー映画監督フレデリック・ワイズマンの影響を深く受けていると聞いていた。映画館には仕事帰りのサラリーマン、ちょっと風変わりな学生、少しお洒落なご婦人たちが数人いた。席は約100席ほど、真ん中よりちょっと前に座り、映画を鑑賞した。話の骨子はこうだ。岡山県に住む82歳の精神科医が引退を決意する。患者たちは動揺する。社会的には生きずらい患者たちはこの精神科医の前になると雄弁に語りだす。この先生に固執しているのだ。長尺のカット、BGMなし。異常なまでの人間のリアルさが前面に出ていた。これは役では演じられない。話は中盤でその精神科医と妻との話に切り替わる。ここでも長尺のカット、BGMなし。ただ忙しなく動く先生の息遣いだけが耳に入ってくる。私はこの映画を観ても、監督の意向やメッセージを考えないようにしようと思った。しかし、見終わった後、人間は無意識に人と関わり、人に固執しながら生きていくのだと改めて感じてしまった。映画の最後、先生とその妻が先祖の墓参りの帰り、二人繋いでいる手のアップで突然終わる。まるで逃れられない、老いと死から逃げるような余韻を残していた。映画館を出ると雨が降っていた。なぜだか突然ラーメンが食べたくなった。またシアター・キノへ行ってみよう。https://seishin0.com/

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