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【突然交通事故にあった長男の闘病日記】4月14日(木) 21日目:step down

事故から3週間。

長男の病室に行くと、目を開けた長男が医療用のソファに座っていた。
手に被せてあった医療用ボクシンググローブは外されており、手が自由になっていた。

しばらくすると、Oral and Maxillofacial Surgery を担当したdoctor の一人がやってきて長男の頭に刺さっているホッチキスを外しにきた。
結構な量(30個以上?)あるので外すのも大変だ。
痛みがあるのか、長男の顔が不機嫌だ。
あまりに痛みが出て頭を動かし始めたので、残り1/3のホッチキスは後ほど外すことになった。

昨晩、担当看護師に携帯電話が欲しい、と言ったので長男の携帯電話をもってきた。
長男にサッカーの試合の再放送をアプリで設定して渡した。

しばらく見ていたが疲れたのか途中で見るのを止めていた。

その後、自分で携帯のアプリをいじっていた。
時間が経ちロックされた携帯は長男がパスワードを覚えているのか自分でアンロックしていた。

trauma team の doctor の巡廻。
doctor が長男に
「どんな感じだい?」
と聞くと、親指を立てて”グー”の合図を出していた。
内診後、doctor からリハビリに行けるお墨付きをもらった。

声が出せないのでイライラしているが、携帯を使って私たちと会話をし始めた。

ie ni kaeru

とタイプした長男。
「私も一緒に帰りたいよ。でもお医者さんのOKが出ないから家には帰れないのよ。 」

acchan no ie ni iku

acchan とは私の姉の名前。
日本に帰省した際はいつも立ち寄る私の姉の家。
そして長男は手を開いてクルクル回し、車を運転する動作をした。
「あっちゃんの家は日本だから車では帰れないよ。飛行機じゃないと。今はコロナで大変だから飛行機の予約を取るのも大変よ。」

obachan no ie ni iku

同じく車を運転する動作をし、私を指す。
「私が運転しておばあちゃんの家に行くの?おばあちゃんの家も日本だから車では無理よ。」

ima

今すぐに行きたいらしい。
ごめん、長男。痛いほど気持ちが分かる。
とにかく今いる病院から出たい、その気持ち。

「私も17歳の時に3週間病院に入院してたから気持ちは良くわかるよ。病院にいると退屈だもんね。」

すると長男は首を横に振った。
自分の気持ちは分かってない、という意味だった。
私の入院と長男の入院とは全く違う。
長男の入院の方が何十倍、何百倍も辛い。

涙が出た。

ベッドの上なのでトイレにも立てないが、自分で尿瓶を使って尿を処理できるようになっていた。

夫が話し始めると、口の前で人差し指を立て「ダマレ」とサインを出す。
夫は長男を励ますつもりで話しているが、たまに大げさになる。
”ウザい”と思ってるのかもしれない…。

”寒い”というサインを出したので、家から持ってきていたブランケットをかける。
少し落ち着いてきた。

リハビリ施設はベッドの空きが出来次第移動できるが、まだのようだ。
その前に、今いる Neurotrauma Critical Care Unit から Neurotrauma Intermediate Care Unit に step down することになった。

一歩前進。

Neurotrauma Intermediate Care Unit の部屋が空いたので、その部屋の掃除が終わり次第、数時間後には移動すると連絡。

部屋の移動前に私と夫は家に帰ることにした。
すると長男が携帯を出し「電話しろ!」とサインを出した。

「私の携帯に電話するの?」

そうらしい。
長男の携帯に私の連絡先が入っているはずだが、連絡先アプリの存在が記憶にないのかもしれない。
私の携帯に電話をさせて後でリダイヤルする予定なのだろう。

病院を出て私の運転で家に帰る途中、夫の携帯に長男から着信。
(後で知ったのだが、先に私に電話をしていたが運転していたので気づかなかった)
夫はビックリした。
長男は夫の携帯番号を覚えていたらしく、夫に電話をかけてきた。

もちろん長男は声が出せないが、なんとか言いたいことが聞き取れたのか、気持ちが分かったのか、夫が長男をなだめる。

電話を切った後に夫が長男にテキストメッセージを送った。
すると、長男から
「I really would like to leave .... (略) ボクはお父さんたちが帰ったと同じように早くこの部屋から120分以内に出たい」
との内容だった。

夫は
「120分以内 と言っている意味が分からない」
と言っていたが、看護師が数時間以内に移動と言っていたのでそのことを指しているのだろうと説明した。

まだ長男は記憶を回復しているステージなので、色々情報が錯乱しているようだ。
しかし、携帯も使えるし、夫の携帯番号も覚えている、日本の家族のことも理解しているし、英語も日本語もどちらも使いこなせている。

人間の脳は不思議だ。奥が深い。
今後、リハビリの過程でどのように長男の記憶が戻っていくのか興味深い。
今はパズルのように記憶を紐解いている過程なのかもしれない。

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