心理職として徒然に思ふこと①フィールドワークとデスクワークのバランス
ご無沙汰しております。今回は発達障害やうつとは少し離れて、心理職として勤めてきたこの10余年の私自身が感じてきた所感や業界の流れについて触れていきたいと思います。
・同じ心理職でも格差が
私が学生、院生だった頃、当時の心理職といえばクリニック・医療機関のカウンセラーとして心理検査をしたり初見を書いたりカウンセリングしたり、あるいはスクールカウンセラーとして子どもたちの心のケアを行ったりするのがどちらかといえば主流でした。産業現場で企業の産業カウンセラーとして働く方も一定数いましたが、医療系に比べればまだまだ少数派。
そんな中にあって、私はそのさらに少数派、「現場で心理臨床の知識やテクニックを活かしながら障害児の療育を実践する」という実践派フィールドワーカー的な心理士として社会の荒波に放たれました。
正直、本音を言えばメジャーサイドなクリニックの心理士さん達への憧れや嫉妬心があったこともあります。なぜって待遇面、収入面での差が・・!!
クリニック等では心理検査を実施すると保険点数いくら、という感じで収入になるわけですね(だからといって無駄な検査をしているわけではありません、患者さんの病態像を把握するために必要な情報収集として行われている、筈です)。一方、障害福祉施設等でも心理職を雇うことで加算が付くなど、心理職の専門性を社会に活かす為の制度も整えられていった過渡期でもありました。この辺りは先輩諸氏のフロアー活動の賜物であり、ゼロから積み重ねて、よくぞ現在のような国家資格化の実現まで果たしてくださったと畏敬の念と感謝しかありません。
ただ、クリニック等と異なり福祉施設等での心理職は「どんなに頑張ってその専門性を発揮したり活躍して成果を上げたとしても、それが施設や個人の収益・利益・評価に結びつくわけではない」という大きなハンディキャップを背負っています。丁寧に知能検査を実施して(だいたい1時間半かかります、被検査者さんも大変です)さらに丁寧に検査結果を出して、その結果から読み取れる情報を検査所見に落とし込んで(ここでも1時間半から2時間)そして、検査結果をわかりやすく説明するために面談を実施(ここでも1時間)。場合によってはその結果を学校や職場などの関係機関にもご説明に伺うこともあります(やっぱり1回1時間はかかります)。都合5時間かけても、それが公的機関の立場だったり、入所施設のお子さんの検査だったりすると、1円の収益にもつながりません・・・!!
例えば児童相談所等で療育手帳の更新の為に知能検査をすると、被検査者の方からすれば1時間半かけてわかるのはIQがいくつだ、ということと手帳が何級に更新されました、という情報だけが開示されます。しかしながら上記のような立場で検査を行なった場合には、学校や職場で検査結果の情報を役に立ててもらえるように、という視点で「その方がどんなことが得意」「どんなことが苦手」「どうすれば困りごとを解消できるか」といったプランニングまでして初めて意味のある検査になるわけです。クリニック等で知能検査を実施する時に何千円、時には何万円と費用がかかるのは、こうした丁寧な所見を書くことでその方の生活環境の中で感じられている困り感を解消するための情報提供提案という価値があるからです。これが所属施設のお子さんだったりすると、検査と情報提供の対価は一切なし!なかなか辛いところがありますが、ここがクリニック心理士と現場のフィールドワーカー心理士の待遇差だったのだなぁ、、と今になって気づきました。
一方でフィールドワークタイプの心理職として今も私の血となり肉となった経験があります。それは、保育園や幼稚園のお子さん達(基本初めてお会いするお子さんばかりです)について、園の先生方から関わり方の助言相談を求められるという業務でした。先生達から日々のお子さんの様子やお困りごとの内容等を聞きつつも、基本は今初めて目の前にしたお子さんの様子をごく短い時間で観察し、その中から得られる情報をもとに頭をフル回転させて、先生方に関わり方や指導方法の助言提案を行います。基本、一発勝負です。この提案がうまくいかなければ先生方や園から信頼を得られなくなります。いわば、心理職の威信を賭けた瞬間の勝負がそこに発生しているわけです。
・フィールドワーカーの強みを活かして
この経験を通じて私自身、五感の全てをアセスメントに集中する、というスキルが磨かれました。声色一つ、目線の動きや表情ひとつ、言葉の使い方、体の使い方、お子さんが作ったという作品・・・ありとあらゆる情報から色んな可能性を多角的に考えて、実践可能な限りの支援方法に落とし込んで提案をする。この点は、面談室の中だけで仕事をされている心理士さん達とは異なるベクトルのスキルが磨かれてきたと実感しています。
最近では講座的な事をする機会も増え、学会発表等とはまた異なる当事者の方々を相手に心理療法の実践的なノウハウをお伝えしたりSST的な事をする中でファシリテーターを担う事も多く、一度に複数人を相手に講座をしたり、オンライン上でもそうした事を実践する事があるので、自然とIT的なスキルやツールを使いこなすという事も求められるようになりました。本当に色んな事を色んな現場で実践して経験する事で私自身毎回勉強をさせていただけているので、ありがたく思います。
東日本大震災を機に、心理職のフィールドワークの機運が高まってきました。関係機関に足を運んだり実際に被災地の様子に触れて一人一人の子どもたちのケアに当たったり、という業務に当られている方々にはきっと面談室の中のお仕事では体験する事のない困難やハードルを感じられていることでしょう。
理論や検査だけでも、現場経験だけでも目の前にいるクライエントさんの困り事を解消する事はできません。常に自分自身の専門性・人間性をアップデートしていくことが、この心を扱うというお仕事には求められているのだなぁ、、とつくづく痛感する昨今なのでございます。
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