「自閉症」の歴史シリーズ④自閉症と心の理論

こんにちは、お久しぶりです。しばらくプライベートの事情により更新が滞っていました。今回は自閉症と心の理論についてお送りします。

・サリーとアン

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自閉症業界(どこにあるのかは知りませんが)では有名なイラストなのでご覧になったことのある方も多いかもしれませんね。これはサリー・アン課題という、誤信念課題と呼ばれる課題で有名なイラストです。誤信念課題とは、他者の思考の誤りについてその人の視点に沿って思考を追従することができるかどうかを確かめる課題です。課題の内容は次の通りです。

『サリーちゃんはボールをカゴにしまってその場を離れました。そこへアンちゃんがカゴからボールを取り出して、箱にしましました。そんなことを知らず戻ってきたサリーちゃん。サリーちゃんはボールがどこにあると思っているでしょうか?』

という内容。もちろん、事実としては「箱の中にある」わけですが、サリーちゃんはカゴにしまってからその場を離れたので、戻ってきた時にもカゴの中にボールがある、と思っているはずですね。ところが、自閉症のお子さんと非自閉症のお子さんとで比較研究した結果、自閉症のお子さんは「サリーちゃんはボールが箱の中にあると思っている」と答える確率が高かったそうです。

なぜそう考えたのか、詳しくご本人たちに尋ねてみたところ・・・

「アンちゃんがボールを箱にしまったからだ」との答えが。つまり、事実としてアンちゃんがボールを箱にしまった事を被験者であるお子さんたちはみんなが知っているわけですが、サリーちゃんはその場から離れていたためにアンちゃんがボールを移動させた事実を知らない、という視点に気付いていなかったのです。一方、非自閉症のお子さんたちはその視点に気づき、「サリーちゃんはボールがカゴにあると思ってる、なぜなら自分でそこにしまった事までがサリーちゃんの知っている事実だからだ」という事を理解して答えることができました。

このような研究結果から、S.B.Choenという学者は自閉症の中核障害(主な症状)について「心の理論の問題にある!」と考えました。

・心の理論ってなんだろう?

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心の理論とは、主に生物の分野で研究されてきた概念です。動物は、直感的に他の生き物の考えや気持ちを理解することができる、という概念になります。

チンパンジーを例にした研究では、チンパンジーが他のチンパンジーに対して同情や憐憫、哀れみ、共感の気持ちを持ち合わせていることが明らかとなりました。まず2匹のチンパンジーを隣り合わせのオリに入れて互いの状況がわかるようになっている環境の中で、一匹には餌を豊富にあげて、もう一匹にはごくわずかな量しかあげないようにしました。すると、餌をわずかしかもらえなかったチンパンジーは恨めしげにもう一匹のチンパンジーの方を見つめます。豊富に餌をもらったチンパンジーは、はじめこそその餌を喜んでいましたが、隣のチンパンジーが恨めしそうに見つめているのに気づき、相手の餌の量が自分よりも少ないことに気がつくと、豊富な餌を相手のチンパンジーに分け与えたのだそうです。このことから、チンパンジーには言語表現等を介さずとも直感的に他者の感情が理解できることが明らかとなりました。

このような研究はゾウや馬など他の哺乳類でも類似の実験が行われ、やはり同様に『哺乳動物は直感的に他者の感情を理解することができる』と考えられるようになりました。この、直感的に理解する、という点が心の理論の肝心要の部分となってきます。

・二次の誤信念課題

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実は上述のサリー・アン課題ですが、思春期以降の自閉症の方では正答率が高まってきます。ということは、自閉症の方は思春期以降になると心の理論をもち、他者の気持ちを想像することができるようになるのでしょうか?

この疑問に挑んだのが「アイスクリーム課題」と呼ばれる2次の誤信念課題になります。アイスクリーム課題では誤信念が二重に張り巡らされています。まず図のように、ケンくんと花子ちゃんが遊んでいるところへアイスクリーム屋さんがやってきます。花子ちゃんはアイスクリームを買おうと思うのですがお金がありません。そこで花子ちゃんはお金をとりにお家へ戻ります。アリスクリーム屋さんは「午後もこの公園にいるからまたおいで」と花子ちゃんに伝えます。ところがアイスクリーム屋さんは花子ちゃんがお金をとりに戻った後、急に気が変わって教会に行くことにしました。そこでケンくんに「教会に行くからさっきの子が戻ってきたら伝えておいて」と伝言を頼みます。ケンくんはその事を花子ちゃんに伝えるために花子ちゃんの家に向かいました。一方その頃、たまたま移動の途中で花子ちゃんと会ったアイスクリーム屋さんは花子ちゃんに「ちょうどよかった、今から教会に行くところなんだ」と伝えて、花子ちゃんも教会でアイスクリームを無事に買うことができました。さて、花子ちゃんの家についたケンくんですが、花子ちゃんが既に出かけた事を知ります。ケンくんは花子ちゃんに伝言を伝えるためにどこに向かうでしょうか??

というのがアイスクリーム課題の概要です。ケンくんは花子ちゃんとアイスクリーム屋さんが途中で出会った事を知りません。なので、ケンくんは花子ちゃんに伝言を伝えるために、もう一度公園に戻る、が正解です。

さてこの課題。サリー・アン課題をクリアできた自閉症の方は正統できたでしょうか・・・??

答えは、No。サリー・アン課題を正答できた方でも、こちらのアイスクリーム課題は正答することがほとんどできなかったそうです(9割以上不正解)。ではどうして、サリー・アン課題は正答できたのにアイスクリーム課題は不正解だったのでしょうか。

実はこのアイスクリーム課題、私も自閉症の診断を受けた成人の方に直接聞いてみたことがあります。結果はやはり不正解。論理立てて説明したり、図を書いて説明をすることで理解に至る方はいますが、類似の二次の誤信念課題を提示するとやはり不正解。ご本人たち曰く、言われてみればそうかと気づくけど自分では思い至らなかった、とのことでした。

ここに、心の理論の課題が隠れています。つまり、サリー・アン課題を正答できるようになった思春期以降の自閉症の方々は、実は「登場人物の視点に立って物事を考えた」のではなく「論理的思考・推論の機能を使うこと」によって正答していたのです。ところが、誤信念が2重3重となるとその論理的推論では他者の考えや気持ちを理解することができなかった、というわけです。

こうした心の理論による「直感的に他者の立場や視点に立って物事を考える、感情を読み解く」という能力の難しさが、自閉症の方々のいわゆる「空気の読めなさ」「ひとの気持ちが分からない」といった生きづらさに繋がってくると考えられるようになりました。

後年、これらの誤信念課題を使った研究では脳画像研究も行われるようになり、その中では自閉症の方々が誤信念課題を考える時と非自閉症の方々が誤信念課題を考える時では脳の中で活性化している部位が異なることが明らかとなりました。やはり上述のように、論理・推論によって自閉症の方々がこの誤信念を考えていた、ということが証明されたのでした。


本日のお話はここまで。

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