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#4時の雫_水の音(1/3)

時の太鼓

 夏至を迎える季節となりました。今年もはや半分が過ぎるのですね。今年は梅雨入りが早かったせいでしょうか、暦と季節感のずれに奇妙な感覚を覚えます。とはいえ、暦は暦。日々、暦は刻々と同じペースで打たれてゆきます。
 刻まれる時といえば、私がかつて住んでいた近所には古い神社があり、毎朝6時になると時を告げる太鼓の音が聞こえてきました。実はこの太鼓の音、私が引っ越した当時は、毎朝、お囃子の稽古をしていると勘違いしていました。住まいは都心にありながら古い慣習の残っているところでした。そのなかでもひときわ大きな行事が5月の例大祭だったのです。地域ごとに神輿をかつぎ、町を練り歩くのですが、その規模は比較的大きく、朝8時に神社を出発する神輿に合わせて、一時的に道路が通行止めとなります。先頭をきるのは、馬(当初、神社に献血車が停まっているかと思いきや、馬が出てきたときは驚きました)。そして神輿をかつぐ人々。町には夕刻まで掛け声と太鼓の音が鳴り響きます。白法被に白足袋の出で立ちで老若男女が神輿をかついでゆく姿は壮観です。太鼓の音に耳を澄ませては、近づいてきた神輿をマンションの上階から眺めていました。以来、太鼓の音を聴くたびにお囃子かと思っていたのでした。しかし、調べてみるとこれは時の太鼓なのだそうで、平安時代から受け継がれているとのことです。毎朝、6時に窓を開けるとトコトコトコという静かな太鼓の音色をそっと捉えるべく耳を澄ましていました。1000年以上も前から変わらぬ音が町に響いているのだと思うと、なんとはなしに安堵するのでした。

水を太鼓で表す

 この季節は雨も多く、窓を開け放って戸外の音を楽しむことはできませんが、室内から雨音を聴くのも季節ならではの楽しみです。
 日本語には雨に関する語が非常に多彩であり、少し辞書を紐解いただけでも次のような語があり、雨の読み方によって3タイプに分かれています。
(A)大雨、小ぬか雨、鉄砲雨、通り雨、長雨、にわか雨、、、、
「さめ」として音がつづまったものには、
(B)霧雨、小雨、春雨、氷雨、村雨、、、
(C)豪雨、穀雨、慈雨、瑞雨、涼雨、冷雨、、、
(『明鏡国語辞典』第3版 大修館書店)
(A)は「あめ」、(B)は「さめ」、(C)は「う」と読ませまるわけですが、感覚としては「あめ」と読ませる(A)がもっとも具体的で生活感が強く、「さめ」と音のつづまった(B)は(A)よりも歌語的、「う」と読ませる(C)は抽象的もしくは天気用語といった位相を感じさせます。
 この感覚を音に表し、様式美を確立させたのが歌舞伎かと思います。演劇学者の河竹登志夫氏は次のように記しています。
                     (時の雫_水の音(2)へ つづく)

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