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「アルテタが準備した2つの守備」20-21 PL 第36節 チェルシー×アーセナル レビュー

モチベーションになるかどうかは一旦置いといて、来シーズンのカンファレンスリーグへの出場に向けて少しでも順位を上に上げておきたいアーセナル。暫定順位は9位。今シーズンは残り全勝を目指して戦わなければならない。対するチェルシーは暫定順位が4位。来シーズンのCL出場権獲得に向けて勝利を上げておきたいところ。今シーズンはトゥヘルに監督が交代してから好調を維持し、CLでは決勝にも駒を進めている。互いに状況は大きく違うとはいえ、勝たなくてはならない今節のビッグロンドンダービーとなった。

プレミアリーグでの前回対戦時レビューはこちら

■ チーム概要

【HOME】
・チェルシー(監督:トーマス・トゥヘル)
フォーメーション:3-4-2-1
【HOME】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:3-4-2-1

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ホームのチェルシーは過密日程が続いており、週末にレスターとのFAカップ決勝が控えていることを考慮してか、数名の選手を入れ替え。とはいえ選手層は厚いチェルシー。豪華なメンバーがスタメンに名を連ねる。
アーセナルはジャカ、ダビド・ルイスを怪我で欠くものの、前節をターンオーバーで乗り切ってことでそれなりにフレッシュな顔ぶれ。注目すべきは久々の3バックシステム。アルテタは、トゥヘル率いるチェルシーをリスペクトした采配で挑んだ。

■ 前半①:準備していた1つ目の守備

久々の3バックシステムを採用したアーセナル。ただ、ティアニーを左CBで起用していた可変システム、いわゆるティアニーロールと呼ばれたあの3バックとは異なり、今回はティアニーを左WBで起用。ビルドアップの際にも大きな可変は見受けられず、チェルシーに対してしっかりと守備から入る。そういった戦術を採用していた。

互いに3-4-3のシステムでミラーゲームとなった今節。自分の前には必ずマークすべき相手、またはマークされる相手がいる形となる。1対1で真正面から対峙するか、反対にどこかを捨ててどこかに狙いを定めるか。アーセナルが取った戦術は後者。狙いを定めたのはチェルシーの左CBのズマのところ。チェルシーのビルドアップに対してオーバメヤンは左側からプレスを行い、チェルシーからすると左サイド、つまりズマのサイドへ誘導。ズマにボールが出たタイミングでウーデゴールがズマの利き足である右足側を切る形でプレス。縦のコースはサカが散るウェルにマークしており、ズマに思うようなビルドアップをさせない。ビルドアップをサポートしに来るジョルジーニョにはエルネニーがぴったりマンマーク。もう片方のCHギルモアには逆サイドのスミス=ロウが絞ってマークにつく。トーマスを中央に余らせてプレスを回避された際にも刈り取れるように編みを準備する狙い。

ズマ側へ誘導する狙いは早い段階から功を奏する。前半9分ごろ、早速このプレッシングからボールを奪いチャンスにつなげる。しかし、反対に最初の決定機を迎えたのはチェルシーだった。良いプレッシングからチャンスを作ったあとの前半10分、アーセナルはボール保持でミドルサードからファイナルサードまでなかなか進めずDFラインへボールを下げてやり直し。マガリャンイスからDF中央のマリへ下げたパスが弱いと見るCB間のパスを狙われてしまうこととなったアーセナル。マガリャンイスの弱かったパス、マリの準備不足など原因は複数ありそうだが、ここ数試合はマガリャンイスからのパスが引っかかるシーンが多く見られる。ここは課題だろう。

相手の決定機から運良く逃れられたアーセナルは、愚直に狙いの守備を実行する。そして前半16分にようやくこの狙いが実を結ぶ。ズマへのウーデゴールのプレスでビルドアップを阻止。ズマとジョルジーニョがパス交換でエルネニーのプレスを回避し、再度ジョルジーニョがパスを受けた際に今度はスミス=ロウがプレス。連動したプレスに慌てたジョルジーニョはGKケパへバックパスを選択。ケパはビルドアップの逃げ道を作るためにゴールを空けてポジショニングしていたものの、そこまでは見えていなかったジョルジーニョはゴールに向けてバックパス。ケパが慌ててボールを掻き出すがこぼれ球をオーバメヤンが拾い、中央でフリーになっていたスミス=ロウへ。そのままゴールへ流し込んでアーセナルが先制。狙い通りのプレスからミスを誘発しリードに成功した。

ズマのサイドへ人数をかけてボールを奪取する狙いだったこの戦術。人数を片側に割いている分、逆サイドにはスペースが空いている。21分ごろ、狙い取りズマへプレスを実行するも、逆サイドのアスピリクエタへロングキックで展開されてしまう。アーセナルの守備スライドが間に合わず、前にスペースが空いていたアスピリクエタはそのまま深い位置までドリブルで持ち込みペナルティエリア内のポケットへスルーパス。マイナスへ折り返したパスを最後はマウントがシュートするも、ホールディングがこれをブロック。なんとか決定機を阻止した。アーセナルの狙いに対して一つのデメリットが露呈したシーンだったが、そのデメリットを踏まえた上でもズマのサイドへの誘導は効果的だったし、メリットの方が大きかったと言える。

■ 前半②:ゴールを許さない2つ目の守備

チェルシーのビルドアップに対して片側へ寄せつつマンマークディフェンスでミスを誘い、先制に成功したアーセナル。とは言え、すべて狙い通りにいくとは限らない。チェルシーがミドルサードまでボールを運んできた際には、潔くプレスを諦め撤退守備に移行。人につくマンマークからスペースを埋めるゾーンディフェンスへ。この切替は非常にうまく行っていた。

撤退守備時は、両サイドを深い位置へ下げて5-4-1で守る。5バックで5レーンを塞ぎ、中盤の4枚は中央を締めつつ左右にスライドしながら中へボールを入れさせない。3-4-3のシステムであればベーシックな守備戦術。ただ、前線でのプレッシングも実行していることから大変なのは撤退守備へ切り替えた際の運動量。特にCHの位置から前線のプレッシングに参加しているエルネニーは撤退守備に移行する際に大きく戻らなくてはならない。試合を通して高い運動量を維持できるエルネニーを今節起用した狙いはこういったところにも見られた。

何度かピンチを迎えるも、5-4のブロックで人数を割いて最後のところで踏ん張りを見せるアーセナル。守備では思ったように守れていたものの、ボール保持では思うようにチャンスを作れない。3-2でのビルドアップだが、ミラーゲームということもあり上手くボールを前進させられないアーセナル。ウーデゴールがビルドアップをサポートしに降りてくるが、それだと前に人数が足りずファイナルサードでシュートまで持っていけない。

試合はチェルシーがボールを保持する展開が続いたものの、アーセナルが深く守りしのぎ切り、0-1で前半を終える。

■ 後半:プレスに対するトゥヘルの回答

1点ビハインドとなったチェルシーは、後半の頭から交代カードを切る。CHのギルモアを下げてハドソン=オドイを投入。マウントがポジションをCHに下げ、ハドソン=オドイはマウントのいたシャドーの位置へ。

マウントがCHに入ったことで明らかに変わったのが、ズマへボールが出たときのサポート。チルウェルは高い位置を取ってサカを引きつけてズマとの間にスペースを作る。そのスペースにはマウントが入り、中央ではジョルジーニョもパスコースを確保。ズマに多くの選択肢を与えることで、ウーデゴールがプレスを絞りきれない形に。このトゥヘルの采配により、前半ほどアーセナルのプレスがハマるシーンは無くなり、更にチェルシーがボールを握る展開となっていた。

66分にはチェルシーのCKからプリシッチが押し込み同点ゴールと思われたが、ハヴァーツが触った時点でプリシッチがオフサイドポジションに。VARにより取り消され、アーセナルのリードは変わらない。撤退守備で中央はしっかりと締めるアーセナル。サイドからクロスは上げられるも決定機までは作らせない展開が続く。

クロスを上げる展開までは持ち込めるチェルシー。それならと、トゥヘルは65分に2枚目のカードを切る。ハヴァーツを下げて高さのあるジルーを投入。直後の66分にはアーセナルがサカを下げてベジェリンを投入。撤退守備が長引けば対人守備が得意でないサカが不利になる。ということでベジェリンを投入したように思える。更に78分、トゥヘルは最後のカードを切る。アスピリクエタを下げてシエシュを投入。システムも4-2-3-1に変更してサイドに厚みを持たせる。

終了間際の89分、交代で入ったシエシュからの対角クロスをズマが打点の高いヘディング。これはクロスバーにあたり、こぼれ球を今度はジルーが右足でボレーシュート。しかしこれもクロスバー。ギリギリのところで凌ぐアーセナル。アディショナルタイムは6分。ズマを上げたままのパワープレーに出たチェルシーの猛攻もなんとか凌ぎきり、今シーズン2度目のビッグロンドンダービーは、0-1でアーセナルが守り勝った。

■ 試合結果

Chelsea 0 × 1 Arsenal

■ 得点
16分:スミス=ロウ(アシスト:オーバメヤン)

■ 交代
45分:ギルモア → ハドソン=オドイ
65分:ハヴァーツ → ジルー
66分:サカ → ベジェリン
78分:アスピリクエタ → シエシュ
79分:オーバメヤン → ラカゼット
88分:ベジェリン → チェンバース(負傷交代)

■ 試合ハイライト

■ あとがき

CL決勝へ駒を進めたチェルシー。現段階のチーム力では明らかにアーセナルよりも格上。アルテタはチーム力で真っ向から勝負に挑んでは負けてしまうと考えたのか、チェルシーに対してしっかりと守備から試合に入り、見事に勝利を収めた。

ただ、決定機は明らかにチェルシーの方が多かった。ハヴァーツが初めの決定機を決めていれば、結果は全く違ったものになっていた可能性が高い。狙い通りとは言えミス絡みでの得点しか奪えず、それ以外に決定機らしいシーンはほぼ作れなかったアーセナル。同じ戦術で10回戦ったなら、残念ながら勝てるのは1〜2試合ぐらいではないだろうか。

一発勝負ならまだしも、リーグ戦で今節と同じ戦い方を継続しても勝ち点を積み上げていくことは難しいのではないかと感じる。そういった意味では、今シーズンの残り、そして来シーズンに向けて何か積み上げが出来たのか?と問われると正直微妙なところ。

前回のビッグロンドンダービーでは、ヤングガナーズの活躍で勝利を収め、チームとして調子を上向かせられるきっかけになった試合だった。今節も同様に勝利は収めたものの、今後につながる「戦術的な何か」を掴めたかと言うと残念ながらそういったものは無さそうだ。

これで今シーズンも残りは2節。来シーズンへ向けて残り2戦をしっかりと勝ち、何か良いきっかけを掴み取って欲しいと願うばかり。


見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista