-第3章- 調査 「インディーズにおけるアナログゲーム開発環境と実践」
3−1 アナログゲームの歴史
アナログゲームの歴史は古く、盤上遊戯として多くの人に遊ばれてきた。その起源は、サイコロのように何かを振ってその結果に従うという占いであると考えられており、増川宏一は以下のように書いている[1]。
「人類の祖先がまだ幼く、自然現象について十分な理解ができなかった時代から、人々は何らかの判断をしなければならない場合にいくつかの方法を試みていた。おそら数十万年か少なくとも十数万年を経て、この方法に1つは定着した。たぶん人々は、今から数万年前には、表裏の明らかな木ノ実、動物の歯、貝、小石、木片などを判断のために使っていたのであろう。これらを放り投げて落ちた位置や表裏の出方で物事を決めていたと推定される。」
つまり、アナログゲームの原型の古くは信託を授かる儀式などであった。そこから氏族の指導者は、サイコロをふって盤上の駒を進める儀式を催すようになった。これは、古代エジプトの壁画に一人で盤にむかっている王の姿として残されている。時代を経て、神と向き合っていくという行為から、神の代行者として具体的な相手と盤上で駒を競い合わせるようなレースゲームが生まれ、儀式から遊戯へと変わっていった。こういった盤とサイコロを使う盤上遊戯がアナログゲームの最初の型と考えられており、中でも古代エジプト文明では、紀元前3500年頃のものである「セネト(図3-1-1)」などが古代のレースゲームとして遊ばれていた。
図3-1-1 セネト [2]より転載
レースゲームが長い間遊ばれていく中で、様々な種類にゲームは枝分かれしていき広い地方へ伝えられていった。インドでは、紀元前300年頃、正方形の盤を使い、それぞれの駒がサイコロによって異なった動きをする「チャトランガ(図3-1-2)」という戦争ゲームが誕生した。このゲームはサイコロによって駒の動かし方が変わるというものであるが、時代が進むにつれサイコロが使われなくなり、駒の動き方が決まっていき、現在のチェスの原型が生まれた[3][4]。
そういったように、様々なルールの掛け合わせ、または代用していくことで、様々なゲームが生まれていき、現在のアナログゲームに続いている。
図3-1-2 チャトランガ [5]より転載
図3-1-3 初期アナログゲームの系統図 ([1][3][4]より筆者作成)
3−2 アナログゲームの大別
3−2−1 ジャンルについて
アナログゲームの中には、様々なジャンルのアナログゲームがある。ゲームマーケットにおいて出展するサークルがどのようなジャンルのゲームを出展するかをチェックする項目があり、本研究では、ゲームマーケットが分けている以下の5つのジャンルに大別してまとめた[6]。
ボードゲーム / カードゲーム / テーブルトークRPG / シミュレーションゲーム / トレーディングカードゲーム
本研究ではその中でも、ボードゲームに注目する。ボードゲームの中には、様々なジャンルのボードゲームがあり、ジェリージェリーカフェという世界中のボードゲームが遊べるレジャー施設が分けているジャンルに大別してまとめた(図3-2-1)。
図3-2-1 ボードゲームのジャンル分析 ([7]より筆者作成)
3−2−2 本研究で制作したゲームについて
本研究では、ボードゲームの中でも、短い時間で遊ぶことができ、ルールがシンプルな2人用アブストラクトゲームを制作した。なぜなら、リバーシやチェスなどのようなルールがシンプルなアブストラクトゲームが親しみやすく、遊びやすいと考えたためである。また、ゲームのテストプレイ必要な人数を減らし2人用にすることで、プロトタイプ制作をしてフィードバックを得るというプロセスをしやすくするためである。
3−3 現代のアナログゲーム
現代に遊ばれている2人用アブストラクトゲームをいくつか取り上げる。
3−3−1 チェッカー
12世紀の南フランスで生まれたゲーム。自分のターンに、自分のコマを斜め前の2方向に動かし、相手のコマを全て取るか、動かせるコマが無くなったらゲームが終了する。対岸の列に進むことができた場合、後ろにも進めるようになるため、いかに相手にコマを取られずに対岸へたどり着けるかが重要となる[8]。
図3-3-1 チェッカー [8]より転載
3−3−2 コリドール
フランスで1997に発売されたゲーム。自分のターンに、自分のコマを1マス動かすか、壁を1枚設置するかを選びながら、誰よりも先に対岸の列にたどり着いたプレイヤーが勝利するゲームである。自分の進路いかに確保しながら、相手の進路を妨害していくかを考えていく必要があり、何手か先を見通すのが重要となる[9]。
図3-3-2 コリドール 現物を著者が撮影
3−3−3 ガイスター
ドイツで1982年に発売されたゲーム。良いおばけと悪いおばけのキャラクターを模したコマ8体を使い、良いおばけを守りつつ、悪いおばけを相手に取らせながら、ゲームボード対岸の出口を目指すというゲームである。悪いおばけをむやみに取ると負けてしまうため、相手のコマの動きからどのおばけかを推測するため、心理的な読み合いが必要となっている。
図3-3-3 ガイスター 現物を著者が撮影
3−3−4 Totem
フィンランドで2016年に発売されたゲーム。トーテムを模したコマ4体を使い、カラー札に書かれた色に基づいて進ませていき、4体全てを対岸にたどりついたプレイヤーが勝利するゲームである。どのタイミングで、どこまで進ませるか、いつカラー札を変えるかを常に考える必要がある。
図3-3-4 Totem 現物を著者が撮影
3−4 アナログゲーム市場について
インディーズのアナログゲーム市場の調査はあまり形式立って行われているのは少ない。その中で、「ペンとサイコロ」というアナログゲームサークルが報告しているものを取り上げる。彼は、ゲームマーケットにおける出展者のゲームの販売個数や損益についてアンケート調査を実施している。そのうち、ゲームマーケット2017秋でのアンケート結果についてまとめる[9]。
図3-4-1 ゲームマーケット2017秋 出展者の参加回数に関するアンケート結果
(回答数:82)([9]より著者作成)
図3-4-2 ゲームマーケット2017秋 出展者の販売個数に関するアンケート結果
(回答数:82) ([9]より著者作成)
図3-4-3 ゲームマーケット2017秋 出展者の売上金額に関するアンケート結果
(回答数:82) ([9]より著者作成)
図3-4-4 ゲームマーケット2017秋 出展者の収益に関するアンケート結果
(回答数:82) ([9]より著者作成)
図3-4-5 ゲームマーケット2017秋 出展者の参加回数と収益に関する相関関係 (回答数:82) ([27]より著者作成)
「ペンとサイコロ」は、最終的にアンケート結果の相関関係(図3-4-5)より以下のようにコメントを残している[。
「はじめてのゲームマーケットでは、7~8割のサークルは赤字な訳です。そこから赤字サークルは撤退し、またはノウハウをつけて、4回以上参加経験のある中堅サークルでは6~8割が黒字化していると。ノウハウの蓄積か、ただの生存者バイアスかはこのデータだけではわかりません。」
ゲームマーケット2017秋の一般出展サークルは802サークルであり、仮にこの出展サークルが全て1人で運営されているとしても802人の一般出展者がいる。最小単位で考えて、全体の10%である82名からの回答しかないので、「ペンとサイコロ」の報告に統計的なことは言えない。しかし、初参加から7回参加までの「徐々に赤字が落ち着いてくる」という事実は、生存者バイアスを差し引いても、現実味のあるグラフであると考える。
アナログゲームのインディーズ環境であるゲームマーケットにおいて、先述したインディーズの定義の2種類どちらの場合であっても(「プロを目指す前の状態を示す言葉」と「プロを目指していない状態を示す言葉」)、制作費というものは非常に重要な要因となっていると考えられる。それは、プロになる/ならないに関わらず、制作活動を続けていくうえで、活動資金がないと制作ができないからである。つまり、インディーズ環境を調査するにあたって、制作費を考えずに制作し発表することは、現状を調査することには繋がらないと考える。
参考文献
[1]小林 昌廣・増川 宏一・木下 直之・ 柳瀬 尚紀(1994)、「ゲームのデザイン 盤上の魅力」、INAX出版
[2]「古代エジプト博物資料 日本語表記集」
http://mdwntr.seesaa.net/article/435609935.html (2019/1/1 閲覧)
[3]増川 宏一(2010)、「盤上遊戯の世界史 シルクロード 遊びの伝搬」、平凡社
[4]永田 恵子(2009)、「建築書系道具雛形における将棋盤の設計論 および歴史的特質」、『日本産業技術史学会会誌 16』、p21-p42
[5]「日本将棋連盟」
https://www.shogi.or.jp/history/world/chaturanga.html (2019/1/1 閲覧)
[6]「ゲームマーケット」
http://gamemarket.jp/ (2018/12/30 閲覧)
[7]「ジェリージェリーカフェ」
https://jellyjellycafe.com/games (2018/12/30 閲覧)
[8]「チェッカー」
http://sekaiyugi.com/games/checker-1.html (2019/1/17 閲覧)
[9]「ペンとサイコロ –pen and dice- BLOG」
http://roy.hatenablog.com/entry/2017/12/20/125017 (2018/12/30 閲覧)
札幌出身、福岡育ち、東京住みのSunnyと申します。 働きながらボードゲームデザインをしています。いただいたご支援は、ボードゲームデザインに使わせていただきます。