-第5章- 検証 「インディーズにおけるアナログゲーム開発環境と実践」

第5章 検証

5−1 アンケートに関する考察

 前章までに制作した「Wacryll」ver2.0について10〜50代の男女32名に対して行なったアンケートについてまとめる。


5−1−1 アンケート内容

 プレイヤーの主観評価で、ゲームとしての総合評価、ルールの難易度、プレイ時間について5段階評価していただいた。また、それぞれの評価に対して、自由に記述していただく欄を設けた。

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5−1−2 アンケート結果

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5−1−3 考察

・ 全体評価について

 ルールについてアンケート回答者30名の約67%の19名が「面白かった」と答えた。よって、一定の評価を得ることができたと考える。


・ ルールに関して

 Wacryllのルールについてアンケート回答者32名の約75%の24名が、「ややシンプルに感じた」「シンプルに感じた」と答えている。これは、当初のコンセプトで挙げていた「ルールがシンプルであること」の条件について、一定の評価を得ることができたと考える。以下に、シンプルに感じた方とシンプルに感じなかった方のコメントを2つずつ抜粋する。

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 シンプルに感じなかった1つ目の理由として「壁」という表記を使っていることへの違和感なのではないかと考える。ブリタニカ国際大百科辞典によると、壁について「建物の仕切りとなる平板状の部分をいう」と記載している。また、「壁」は「仕切り」として利用されてきたため、「高さ」を伴っている場合が多いと考えられる。しかし、Wacryllのゲームボードにおいては壁と呼ばれるような仕切りは存在していない。その存在していないものに対して「壁」と表記することの違和感が、ルールへの理解を妨げていた可能性がある。そのため、「壁」よりも「端」という表記の方が良かったのではないかと考える。

 シンプルに感じなかった2つ目の理由として、アンケート調査で普段のボードゲームを遊ぶ頻度などを聞いていないため、理由は断定できないが、アブストラクトゲームの慣れが少なかったことが考えられる。特に、Wacryllのルールの基となった、「オセロ」「はさみ将棋」「チェッカー」の3つのゲームをプレイしたことがあるかどうかが、影響を及ぼすと考えられる。似たようなゲームをどれだけやっているかによって、ルールへの理解度は大きく変わる可能性が考えられる。


・ プレイ時間に関して

 Wacryll のプレイ時間についてアンケート回答者32名の約75%の25名が、「ちょうどいい」「やや短く感じた」と答えている。これは、当初のコンセプトで挙げていた「短い時間でプレイできること」の条件について、一定の評価を得ることができたと考える。以下に、ちょうどいいと感じた方とやや長く感じた方のコメントを2つずつ抜粋する。

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 プレイ時間を長く感じてしまう1つ目の理由として、1回のプレイ時間は10〜15分と短いが、長考してしまうことで体感時間が長く感じてしまうことが考えられる。これについては、ゲームに負けないように考えていく過程で何パターンも頭の中でシミュレーションすることが労力になってしまったのだと考える。しかし、ルールについて「ややシンプルに感じなかった」と答えた6名の内、プレイ時間が「やや長いと感じた」と答えたのは1名だけであり、それ以外の方は「ちょうどいい」と答えていた。よって、ルールのシンプルさとプレイ時間の体感時間の相関関係は少ない可能性が考えられる。考えてしまうことの労力が、プレイ時間の体感時間を長く感じさせる原因なのではないかと考える。

 プレイ時間を長く感じてしまう2つ目の理由としてまた、「自分がコマを動かす」→「相手のコマを取る」→「相手が自分のコマを取る」→「自分が取ったコマを置く」→「相手も取ったコマを置く」という一連のこう着状態が続くと、長く感じてしまうことが挙げられる。それはゲームが進んでいる印象があまり無く、自分が有利なのか不利なのかの判断がしづらいためだと考えられる。こう着状態が続いてゲームが進んでいないと感じてしまうと、自分がゲームの「序盤」なのか「中盤」なのか「終盤」なのかという判断がしづらいため、徒労に感じてしまう可能性が考えられる。


・ 見た目について

 アクリルの透明感を出すために基本となる色を水色とし、コマのアクリルの色の組み合わせから「赤」と「オレンジ」の色にしていた。しかし、アンケートの自由記述において以下のように答えてくれた方がいた。

2Pしかないので赤と黄色より赤と青の方が、判別がしやすいと思いました。

 詳しく伺うと、この方は、若干の色覚異常を持っている方で、赤とオレンジは厳密な混同色ではないと前置きしたうえで、コメントをしていただいた。

 ここで、色覚異常とは、柳田(2002)は以下のように書いている。

「「色覚異常」とは色に対して全く感受性がないことを指すのではなく、特定の範囲の色に対して混同が起きる現象を指している。その範囲の色のバリエーションに対しては、区別がつきにくいということである。」

 また、混同とは「区別がつきにくい」ということである。以下に、シミュレーターでWacryllの写真を変換し、色覚異常を持っている方から見たWacryllの写真を載せる。

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 筆者は、色を感じる錐体と呼ばれる細胞が全て揃っているC型色覚と呼ばれる色覚である。しかし、赤い光を感じる錐体が弱い(もしくは他の錐体と似通っている)P型色覚、緑の光を感じる錐体が弱い(もしくは他の錐体と似通っている)D型色覚など、様々な色覚があり、その人たちから見た場合、通常の見え方よりも色の区別がかなり難しい。

 C型色覚は、日本人男性の約95%、女性の99%以上を占めている。P型色覚の中には2種類の見え方があり、それはP型強度とP型弱度がある。また、D型色覚の中には2種類の見え方があり、それはD型強度とD型弱度がある。この合計4種類のP型色覚とD型色覚を合わせて、日本人男性のほぼ5%を占めており、日本人の約99%程度がC型色覚かP型色覚かD型色覚に分けられる[31]。

 ものの見え方について考慮してWacryllを作っておらず、単純なアクリルの色の組み合わせで色を選定してしまっていたが、赤とオレンジでなければならない必然性はない。結果として、自分のコマと相手のコマの区別がしづらいため、ゲームのプレイがしづらいということになる。そうならないように、2人対戦のゲームであまり色を使わないゲームを作る際は、色の選定をできる限り配慮すべきであると考える。


5−2 研究手法に関する考察

 本研究は、以下の研究手法で行なっていた。

① アナログゲームを制作するプロセスで、プロトタイプを作り、そのプロトタイプを固定のメンバーにテストプレイしてもらい、フィードバックを得て、改善を繰り返し行った。
② アナログしたゲームを100個制作し、市場に出した。そして、完成したゲームを展示会に出展し、アンケートにて評価を行なった。

 ②については、他の項で検証しているため①について検証する。①の固定のメンバーでテストプレイを行い、フィードバックをもらうという手法は、インディーズという環境においては有用であると考える。それは、インディーズという環境が会社などのまとまった組織と違い、常にまとまった人と作業を行うことが少ないためである。サークルの規模は、勿論サークルによるが、「ペンとサイコロ」によるアンケート調査によると124名の回答者のうち、約42%の53名が1人で制作している。ゲームのアイデアやプロトタイプの制作は1人でも出来るが、そのゲームの実践的な検証はゲームを複数人で遊ぶことを想定した場合、1人では出来ない。そのため、テストプレイのたびに人を呼ぶという段階が発生する。この人を呼ぶというプロセスは簡単なように見えて、とても難しい。よって、本研究での制作プロセスにおいて、固定メンバーでテストプレイするという行為は、前述の「人を呼ぶ」という行為のコストを考えずに済むため、その分ゲーム制作に時間を割くことができる。

 しかし、固定のメンバーでテストプレイしてもらうことが良い段階と、新しい人にテストプレイしてもらうことが良い段階の2つがあると考えられる。それは、開発初期段階と開発後期段階である。開発初期段階は、ゲームがゲームの様相をしていない場合も多く、プロトタイプの変遷を相手に理解してもらったうえでフィードバックもらう方が良いが、ゲームルールが決まってきた開発後期段階においては、細かい微調整が必要になってくるため、新しい人にテストプレイしてもらうことで、新しい視点が増えることが良いと考える。

 よって、開発初期は固定メンバーを決め、開発後期は新しい人を呼ぶということが効果的と考える。


5−3 制作費と販売個数に関する考察

 前章までに制作した「Wacryll ver2.0」について、制作費を比較検討する。


5−3−1 Wacryllの制作費と販売個数

 Wacryll ver2.0を100個作る際にかかった費用をまとめる。また、制作費における原価率などもまとめる。

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5−3−2 考察

 ゲームを販売するためにかかった費用の合計は、111429円である。しかし、この費用はイベントへの参加するための交通費や参加費を加えた費用であるため、単純なゲームの制作費は70628円である。これは、妥当な値段であると考えられる。それは、第3章4項における収益に関するアンケート調査と比較して、一番多い層は1~10万円の赤字であるためである。よって、本研究の最終的な収益が、この1~10万円の赤字の層になったことを考えると、妥当な値段であると考えられる。

 この制作費を下げるための手法としては、「①制作費をあまりかけない」ということや「②作った分を全て売り切る」ということが考えられる。「①制作費をあまりかけない」ことについては、「制作個数を少なくする」ということと「業者に頼まず自分で制作する」ことなどが挙げられる。どちらの手法も考慮すべき手法であると考えられ、市場の動向をしっかり観察する必要があると考えられる。ゲームマーケットを例にあげると、第2章3項における販売個数に関するアンケート調査を見ると、100個前後販売しているサークルがアンケート回答者の約50%であるため、「どれだけ売れるか」と「どれだけ作るか」、そして、「どのくらいのクオリティを出せるか」のバランスを考える必要がある。

「①制作費をあまりかけない」ことと「②作った分を全て売り切る」ことなど、費用に関する施策は、市場の動向をしっかりと考えることが重要であると考えられる。それは、「どのくらい費用をかけて、どれだけ回収できるか」ということに関わってくるためである。また、市場の動向と、その動向に合わせてプロモーションを行うことも重要であると考える。


5−4 外部評価

 2019年1月24日(木)に、フィンランドにあるアールト大学内メディアラボで、ゲームデザイナーとして働き、ゲームデザインを教えているMiikka JunnilaにWacryllをプレイしていただいた。その後、彼にインタビューを行い、ゲームに対しての評価を受けた。以下、彼のコメントを翻訳したものを載せる。

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参考文献

・柳田 多聞(2002)、「学校検診における色覚検査廃止に関する諸問題」、『県立長崎シーボルト大学国際情報学部紀要 第3号』、p191-p196

札幌出身、福岡育ち、東京住みのSunnyと申します。 働きながらボードゲームデザインをしています。いただいたご支援は、ボードゲームデザインに使わせていただきます。