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30秒だけください 3

 ミーンミンミンミンミンミンミー
ミーンミンミンミンミン…ミンミンゼミがよく鳴いている。朝からよく鳴くもんだな。僕はポストから新聞を取ると、しばらく蝉の声を聞いていた。(暇だなー…夏休み…)僕はこのとき、この夏休みが僕にとって最後の夏休みになることにまだ気が付いていなかった。

 僕は家に戻ると、手を洗ってパンを焼いた。カリカリのトーストにトロトロの目玉焼き。これが僕のお気に入りの朝ごはん。かなり昔、おばあちゃんが作ってくれていたことがあった。それがきっかけで、好きになった。(そういえば、おばあちゃん元気かな…一年ぶりだもんな…)僕は、早くおばあちゃんに会いたかった。こうやって楽しみなことを待っていると、時間の経つのが遅く感じる。楽しみなことの前の嫌なこと全部、すっとばしてはやくその日になればいいのに。僕は、貴重な時間をそんな風に思っていた。 

 お昼すぎ、僕はユメと一緒に昼寝をした。扇風機の涼しい風が心地よかった。途中でユメが乗っかってきたけど、それすらも気持ちよかった。というより気にならなかった。多分、眠っていたのだろう。僕は夢を見ていた。夢の中で、ユメは苦しそうにしていた。病気にかかったらしい。僕は苦しむユメをこれ以上見たくなかった。それなのに、その夢は続いた。僕は不安と恐怖で泣きだしそうだった。家には僕とユメ以外誰もいなかった。どうすればいいか分からないまま、僕はただ病に苦しむユメを見ていることしかできなかった。
「そらー?そら大丈夫?何か悪い夢でも見た?」
ママの声がした。気がつくとそこは、いつもの自宅のリビングだった。隣を見ると、気持ちよさそうに眠るユメの姿があった。(夢だったのか…?)僕はそう思いながらユメを二度見した。やっぱり寝てる。僕は少しホッとしたものの、衝撃的な夢に未だドキドキしている。それに、何だか体が熱い。なんだろう、いつもより頭が重いような…僕は、おでこに手をあてた。(熱ある…)測ると、38.7℃あった。僕は、自分の部屋に戻り、ベットに横になった。あんな涼しい部屋で薄着で布団被らずに寝てたら、そりゃあ風邪ひくに決まってる。ママから聞いたけど、僕は結構うなされてたらしい。まあ、あんな悪夢見たんだし無理もない。(何より、ユメが無事でよかった。あとは、あれが正夢じゃないといいけど。正夢だったらどうしよう!?まだユメ、うちに来たばっかなのに…)僕は寝っ転がりながら色々と考えていた。けれど次第に、考えるのもしんどくなってきた。

 僕は目を覚ました。いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。時計を見ると短い針が6を指していた。僕は結構長いこと寝ていたらしい。でも、まだ眠たかった。(今日はもう何にもやりたくない…)僕はもう一度熱を測ってみた。ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。体温計を見ると、38.3℃に下がっていた。そんなに下がった感じはしなかった。しばらくすると、僕はまた寝てしまった…

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