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Sam's#3

 チリンチリーン
ドアの音がした。今、家にはさおがいないので、あなみが出た。
「はーい…って、あきじゃん。何か用?」
「いや、それがさ…」
あなみは途中眠そうだったが、何とかあきの話を聞きとったみたいで、あきはさお家に滞在することになった。なにも知らないみぞみかは、知らない男性が家に入ってきて少し緊張していた。何より、このあきって男、変わっているのだ。少し緑がかった黒髪からは、真っ黒なうさ耳が生えている。(なんだよこの耳…耳4つあんじゃん)あきは情報量が多すぎて、みぞれとみかの頭の中ははてなマークで埋め尽くされてしまった。そんな脳内はてなマークシスターズの存在に気がついたあきは、あなみに尋ねた。
「あれ?この2人は?遊びに来てるの?」
「違う、ここの住人だよ」
それからあきは、みぞみかに話しかけてきた。
「よろしくね、住人さん。僕はあきっていうんだ。きみたちは?」
「みぞれです」
「みかです」
みぞれとみかは、聞きたいことが沢山あったけど、とりあえず名前だけ言うことにしたみたいだ。あきは、あなみと話しながら廊下を歩いていた。
「急に人が増えたな。昨日まで2人だったのに」
「ははは、タイミング被っちゃったね」
(見た目は凄い怪しいけど、悪い人ではなさそう)みかは、ホッとした。しかし、みぞれはまだ緊張が解けていなかった。(どんなタイプなんだろう…ってか、なんて呼んだらいいんだろう??)

一同は、とりあえずリビングにあるソファーに座った。あなみが、
「ほらあき、おチビちゃんたちと話しなよ」
と切り出した。
「えっ、え~っと…」
(ああやばい、困ってる!こういうときって、私が何か言わないといけないのかな)みぞれが頑張って頭を回転させて喋ることを考えている間に、みかが口を開いた。
「ねぇ、あき兄ちゃんは、なんで耳が4つあるの?」
(それだー!)みぞれはやっと思い出したかのように心の中で叫んだ。
「うーんこれはねー…前に治験バイトをやってたときに動物化する薬を飲まされて、耳が生えてきちゃったんだよ。まあ、こっちの方が遠くの音もバッチリ聞こえるし、困ってないからいいんだけどね」
「えーいいなー!みかもうさ耳ほしー!」
「今度百均のやつ買ってあげるよ」
「やだ!!生えてくるやつがいい!」
「だめだよー。危ないバイトやらないと手に入らないんだよ」
「みか、危ないバイトできるもん!」
あきとみかは数秒で仲良くなっている。もう兄妹やん。(あーどーしよー…私だけ乗り遅れた…でも、今から会話に入るのもハードル高くね?)なんて焦っているみぞれに気づいたのか、あなみが話しかけてきた。
「みぞれは、ゲームとかやる?」
「え…うん。やるけど…」
「なら丁度いいわ。一緒にやらん?」
(みぞれ…みぞれって呼ばれた?)みぞれは心の中で何度もあなみの「みぞれ」を繰り返した。家族以外から「みぞれ」って呼ばれたのは初めてだ。昔から女子には「みぞれちゃん」って呼ばれ、男子からは名字で呼ばれていた。あっでも、バスケのコーチからは「みぞれ」って呼ばれてたっけ。でも、ほんとにそれくらいだ、「みぞれ」って呼んでくれたのは。だから、嬉しかった。それ以外の感情は出てこない。ただただ嬉しかった。(私も「あなみ」って呼んでみようかな?)みぞれはそんなふうに心の中で決めていた。
 それからみぞれはあなみと一緒にゲームをした。結果は0勝全敗。(あなみ強っ!?)みぞれはあなみの得意なことも分かって、ちょっと仲良くなれた気がした。そして、次はあきとも仲良くなろうと思った。
------------------Sam's#4に続く


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