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30秒だけください 2

 にゃあー
「んっ…何だよ…」
僕はユメの声で目が覚めた。まだ開ききっていない目をこすって、目を開けると、布団の上にユメが寝そべっていた。(なんだ…寝てるじゃん…)そう思いながら、僕も目を閉じた。(…あと5分だけ…)

 「そらー!起きてー!7時だよーっ!!」
ママの声がした。僕は眠い目をこすりながら起き上がる。気が付くと、布団の上にはもうユメはいなかった。(あれっ…ユメどこ行った?)そう思いながら辺りを見回すと、部屋にある時計が目に入った。
 「え゛え゛っ!?もう7時ー?」
「そうだよ。さっき言ったでしょー」
(うっわ…またやっちゃった…)これだから僕は遅刻が多い。てか毎日遅刻。
「いってきまーす」
食パン少女とまではいかないけど、僕は朝ギリギリという青春の毎日を過ごしている。…でも、明日からは夏休みという青春の毎日を過ごすことになる。楽しみだなー…どこ行こう?やっぱ海〜?いや、家でダラダラかもなー…キャンプもしたいなーー…

 そんなことを考えていると、もう学校が見えてきた。僕は安定の遅刻なので、当然誰もいない。そんな中、下駄箱の扉を開ける音だけが響いた。僕は靴をしまい、上履きに履き替えた。そして、すり足で廊下を進んでいく。あちこちの教室から先生の声が聞こえる。僕は少し足を早めた。─ガラガラガラ。みんなこの音には慣れていて、振り向く者はいなかった。先生がチラッとこっちを見て、
「おはよう」
と言うだけだ。まあその方が気が楽だけど。てか、最終日なのによく授業やるな。僕は、ぼーっと窓の外を見ていた。窓からは、みずみずしい空と、わたあめのような入道雲が見えた。(わたあめ食いてえな…夏祭りもいいよな…)僕の頭の中はそんな妄想ばっかりで授業の内容は全く耳に入ってこなかった。そして気がついたらチャイムが鳴っていた。

 2限からは、通知表だの宿題配りだの掃除だの放送集会だので忙しい。まあ、それが終わったら休みなんだけど。(あー夏祭り行きてえ…誰と行こう?)またそんな事を考えながら過ごした。正直、あっという間だった。
「なあ堀田、お前夏休み予定あんのかよ」
帰り道、友達の熊川が話しかけてきた。
「あー…7月は特に何もねえな。8月は帰省だけど」
「そっか…じゃあ、一緒に海行かね?」
「えっ行きたい!」
「じゃあ決まりだな。丁度うちのおじちゃんが誘ってくれてさー」
 こうして、僕の夏休みの予定が一つ埋まった。けど、9割方暇だ。帰省って実家行くけど着いてからが暇。特にやることが無い。まあ、課題なら山ほどあるけど。僕は、楽しみにしていた夏休みが楽しいかどうかちょっぴり不安で、立ち止まって空をぼーっと眺めていた。僕の心とは裏腹に、ギラギラと晴れた空だった。


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