見出し画像

Sam's#2

 7月23日水曜日。バイトがあるため、さおは、朝早くに出かけて行った。みぞれが起きると、ゆうべの赤毛は見当たらず、代わりに背の高い茶髪の女が髪をとかしていた。みぞれはその女に話しかけてみることにした。
「おはよ…」
(やっぱりやめとこう。今は話しかけない方がいいかも。あの人は今、髪をとかしているから、無闇に話かけるのも申し訳ないというか、何というか…)みぞれは、自分にそう言い聞かせた。しかし、心の中では、葛藤が繰り広げられていた。(いや、でも積極的に話しかけた方が仲良くなれそうだよな…まずは挨拶くらいしたらどうなんだ?みぞれ!)中々どうしたらいいか分からないまま突っ立っていると、みかが起きてきた。(やっべ…こんなダサいお姉ちゃん、見られたくねえ…)みぞれは慌てて洗面所へ向かった。すると、茶髪の女は、みぞれに話しかけてきた。
「ん…さおが言ってた子か…おはよう」
(テンション低っっ!!そして全然興味なさそう)みぞれは、彼女の話し方に驚いた。でも、話しかけてくれただけ、いい人なんだなと思った。そして、思い切って聞いてみた。
「ねえ、名前、なんていうの?」
「え、あなみだけど」
(相変わらず冷たいなこの人…)みぞれはすっかり呆れていたが、それでもちゃんと答えてくれたことが嬉しかった。(話し方は冷たいけど、根はいい人なのかもな…)そう思って、少しホッとした。学校では、相手にされないことが多かったから、まず話しかけてくれただけで、嬉しかった。そんな風にみぞれがフワフワ考えていると、みかが顔を洗いに来た。
「おはよー!」
相変わらず元気な声だ。まあ、元気すぎてうるさい事もしばしばあるけれども。(若いって、いいよなあ…羨ましいわ…)みぞれはみかを見てそう思った。若い、というよりは、幼い。幼い頃は、みぞれだって怖いもの知らずだったし、友達も沢山できた。(いつからだっけ、気を使うようになったの)明確には覚えていない。小学校高学年くらいからだったような…曖昧な記憶だ。でも、確かにたどこかで変わったんだろう。大人になったと言えばいいのかもしれないけど、ある意味衰えたとも言える。そういえば、一部の女子に苗字で呼ばれたこともあった。昔は無かったのに。(何だろう、この距離感…)不思議でたまらないが、思い悩んでいても仕方がないと思い、考えるのをやめた。みぞれは食堂へ向かった。すると、テーブルの上に、シリアルとパンケーキ、目玉焼きが置いてあった。【朝ごはん、これ食べてね】さおの置き手紙だ。みぞれは、(忙しいのによく作ったな…)と、感心してしまった。それに対して、みぞれの横で夢中で食べるみか。2人はまるで正反対の性格だ。───Sam's#3に続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?