小説:そんな私の光る刻(とき)③今、そして今の後へ

③今、そして今の後へ

 慶輔的には、オーバーワークの上で人と接することは
自他ともにかなりの危険を伴うことは今回の1件でしっかり経験を積んだ。
 そんな中、曲がりなりにも慶輔への接し方で
ひかりの対人的なバランス感覚の素晴らしさに気づけた点、
また慶輔自身が体調を整えてカムバックしてから、
その後のひかりの件を含めた実情を、
離れた立ち位置で暖かく観ることが出来る環境に対し
感謝の念が絶えることはなかった。
 なにより、そもそも結果、ひかりの時給は上がったし、
ひかりがダブルワークでなく縁月の翔1本で残りの学生生活のアルバイトを
おこなおうとし始めたこと、
それは、本来やる気のある子がアルバイトの主要メンバーになって
バイト活動自体が、
アルバイト生各々の今後のバイト卒業後の社会人生活で
羽ばたく糧となってほしい、
と思っていた慶輔の初志貫徹にもつながることで、
慶輔への他人からの心象がたとえ悪くなるにしても
結果オーライだと思えたのである。
 また、本来皆が勘ぐるまでの思い入れはなかったにせよ、
慶輔のひかりへの親心的思いやりの気持ちが
(屈折はしながらも)伝わったことを
「肯定的に」とらえようとしたとき、
残りの卒業までの共有時間内で
職場でのひかりとの接点をどのように良いものにして
ひかり自身の、そして慶輔自らや公のためにどう開拓するのかが、
大切な今後・未来なのかな、とも思えているのであった。
 自らが危めたひかりの傷は、
できるだけ誤解の糸を解きながら
及ばずながら慶輔自らが癒せたら幸いだな、
そしてより良い各々への価値観=光る刻へとつなげたい、
そう思っているのが今の慶輔そのものであった。

 対して、午後10時33分、週末土曜の鍋屋の作業が終わり、
ほっと一息ついたひかり。
客はあと1卓となっているが、
店長が今日の労をねぎらいながら言葉をつづけた。
店長:「ひかりちゃん、おつかれさま、あとは大丈夫だから。
    ゆっくり身支度して、今日はあがっていいよ。」
ひかり:「承知しました。では、着替えてあがります、お疲れ様です。」
店長:「おつかれさま。」

 実際深夜まで黒崎駅界隈の電車は走っているが、
なるべくなら早く帰れるときは
それに越したことはない。
 1階の更衣室で身支度を整え、
ファッションミラーで自らの姿を確認するひかり。
『よし、この姿なら決まってるぞ、私。』
週末の夜である、誰が見ているかわからないし、
その点の抜かりこそないようにしっかりしているひかりは
『私、しっかりとした大人だよね、うんっ。』
と鏡の中の自らに自問自答して更衣室を出た。
 2階に上がる階段の、吹き抜けの外付近は
やはり初冬の外なだけあって、肌寒い。
『もう、縁月の翔ももうすぐ閉店時刻よね。』
シルバーリングがまぶしい腕時計をみると時刻は午後10時42分。
『もし他店を回覧していなかったら社長に、
 そして帰りぐらいはきちんと青野さんにも挨拶しないとね。』
そんな心境の下、縁月の翔の引き戸を開けたら、
いきなり慶輔にかち会った。
慶輔:「ひかりさん、おつかれさまです。」
ひかり:「あっ、青野さん、おつかれさまです。」
久々に普通に慶輔と会話ができた、と思ったその時、
慶輔:「ひかりさん、この紙の中のQRコードで
    店のレビュー書いてもらえる?、前にお願いしていたもの。」
といわれてひかりは、折りたたんだ紙を渡された。
ひかり:「あっ、はい、わかりました。」
会話が途切れる前に早々に別れる二人。
というより、縁月の翔はまだ客が何卓か残っているようで
慶輔はまだ忙しいようだった。
事務所でタイムカードに打刻して、
社長の不在を確認してからひかりは足早に店を退出した。
『レビューの紙、って言っていたけど何か厚いな。』
本来レビューの申請用紙は1枚だけなのに、複数枚紙があることを確認し、
ひかりはQRコードのレビュー申請用紙の下の紙をめくった。
、、、付箋が貼ってある。
付箋:<こちらの小説を読んでいただき、感想聞かせてください
   【小説:そんな私の光る刻(とき)】>
『うん?』と思ったひかりの瞳に、上の題名が飛び込んできたのだった。
(完)


サポートにつきまして、ご一考いただいた上での参加、誠にありがとうございます。 サポート内容に対してより一層の記事・文面を作成し、精進してまいります。 今後ともよろしくお願いいたします。