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そこにない物語を、探さないで。

観ると少しぐったりする。
けれど不思議と安らかな気持ちになる。


ミュージカル「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」は、私にとってそういう作品だ。


今月13日から25日まで再演が行われたこの作品を、幸いにも拝見する機会に恵まれた。

初演を見た時と、受け取り方が結構変わって
そんな自分自身にとても驚いたので
せっかくだから記録に残しておこうと思う。


※ネタバレを思いっきり含むので、知りたくない!という方はお気をつけて。

あらすじは以下の通り。
(引用元:「HORIPRO STAGE 「ストーリーオブマイライフ」公式HP

この作品は、故郷を同じくする2人の男、トーマスとアルヴィンの友情の物語である。
トーマスは、長年の友であるアルヴィンの死に対して弔辞を書くために、自分の心の中に広がる空想世界でアルヴィンとの出会いからの転機を一つ一つ語っていく。
アルヴィンは、その追憶の旅の中でトーマスを導くために、彼の心の中にある物語を探し回る。


2年前の初演を拝見した時は、音楽の美しさにぐっと引き込まれつつも
どこかうまく消化できない部分があって、モヤっとしたまま終わった。

日本初演で前情報が少ない上に、1回だけで理解し切れなかったことも
理由かもしれないけれど。


特に、最期に何があったのか教えてくれ、と
アルヴィンに迫るトーマスに対して

「その場にいなかったことを思い出すことはできない」
「そこにない物語を探さないで」
とアルヴィンが語りかけるシーン。


確かにそうかもしれないけど。
無理に知ろうとしなくてもいいんだ、というニュアンスも感じ取ってはいたけれど。

じゃあトーマスはどうやって生きていけばいいの?って思った。

その場にいなかったから、わからないことはわからないんだって、本当に諦められる?
ずっと「なんで」「どうして」を繰り返しながら生きていくんじゃないの?
それって、とってもしんどくない?って。


結局、なぜアルヴィンがいなくなってしまったのかはわからないまま、
観客の想像に委ねられるところも
余計に消化不良感を印象付けたのかもしれない。




今回も再演とはいえもちろん物語は同じなので、
結局アルヴィンがなぜいなくなってしまったのか
その真相がわからないことに変わりはない。

でも。

その場にいなかった時のことを知ることはできなかったとしても、
君は、君の言葉で物語を紡いでいけるはずだよ。
物語は、君の周りにある。
そこにない物語を、探さないで。


そんなアルヴィンのメッセージが、
今回はなんだかすとん、と胸に落ちた。

アルヴィンとのやりとりを通して、
トーマスはちゃんと歩き出せたんだろうな、って
素直に信じられた自分がいた。




なんで今回はすとん、と入ってきたんだろう、と
最初はとても不思議だった。

でも、そのうちに
私自身が、このアルヴィンのメッセージに、
とても救われていたことに気が付いた。

誰かと私の間に、”その場に居合わせなかった”瞬間があって、
その結果、欠けてしまったピースがあったとしても良いんだよ、って。
それまで紡いだ時間は、ちゃんと物語として残り続けるんだよ、って。


初演と再演の間に、実際に大切な人を亡くす経験をして、
あらゆる「一緒にいられなかった」瞬間を思い返して後悔しながらも、
前を向くために、幸せな思い出ばかりを思い返して、時にはそれを笑い話にして。

この作品を見ていたら、
そうやって過ごしてきたことを、どこかでずっと後ろめたく思っていたことに気づかされて。
同時に、そういう自分を、アルヴィンの言葉が赦してくれたように感じたのだ。



これは事実。ストーリーじゃない!


その場に居合わせなかった出来事は
事実として、誰かの言葉を借りて語ることはできても、
ストーリーとして、自分の言葉で語ることはできない。


だからこそアルヴィンは

自分の最期に何が起きたのか、に囚われるのではなくて、
お互いがその場に居合わせた瞬間瞬間を、
自分の言葉でストーリーとして紡いでいってほしい。
そして、前へ前へ歩みを進めてほしい。

これから生きていくトーマスに、
最後にそう願ったのかもしれないな、と思う。


だとしたら、それは決して「無害で無邪気な軽いひと押し」じゃなくて
命を賭したかもしれないほど、真剣なひと押しで。
きっと、「愛」そのものだったんだろう。


だからこそ、その意思を受け取ったトーマスは
物語を終わらせる決心をつけられたのかもしれない。





そんな風に考えながら、再演となった今回の舞台を観ていると、
前よりも、ぐわんぐわんと心揺さぶられるものがあって。


終盤の曲「雪の中の天使」で
冒頭の柔らかいクラリネットの音色が聞こえてきただけで
うるっときてしまって

そのあと雪が光を浴びてきらきらと舞い降りる中で、
ようやく完成した物語を幸せそうに歌う2人を見ていたら
もうどうしようもないほど涙が止まらなかった。

元々好きだったこの曲が、もっともっと大切な曲になった瞬間だった。



今回も、完全に消化できた、というわけではない。
見れば見るほど、深まる疑問もある。

アルヴィンとトーマスにしかわからない何かがあって、
私が考えたことと真相は遠くかけ離れているのかもしれない。

でも、そうやってあらゆる思考を巡らせることを
そっと許容してくれる懐の深さが、この作品にはあるように感じる。


だから、
トーマスはこれからどんな物語を紡いでいくのかな。と思いを巡らすことも
どうか、許してね。



もう上演は終わってしまったけれど
これからも繰り返し繰り返し、再演されることを願って。

そして切実に、日本人キャストver. のCDの発売も願って。
このミュージカルが持つメッセージを必要としている人は
私のほかにもたくさん、いると思うのです。






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