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軒先の小さな住人が私に教えてくれること。

ウチの実家の軒先にはもう何年も前からツバメの巣があり、毎年春に新しい住人がやってきてはパートナーを探し、子供を産んで巣立っていくそうです。「そうです」と伝聞表現を用いているのは、母から聞いた話だからで、私は帰省しても実家にいるのは三週間くらいだし、季節もバラバラなので、ツバメが入居してから巣立っていくまでの過程をこの目で追ったことはまだありません。

隠居生活を送っている母にとって、ツバメの一家は一種のエンタメというかドキュメンタリーというか、あまり世話をしなくていいペットみたいなものなので、彼女は入居から巣立ちまでを事細かに観察し、「今日のわんこ」ならぬ「今日のツバメ一家」の様子を、私がここに来て以来、毎日事細かに教えてくれるのでした。

今年は一件目のツバメファミリーが二、三日前に巣立っていき(それも、忽然といなくなったらしい)、昨日あたりから、新たなシングル入居者が空き家となった物件を内見して、近くの電線付近でパートナーを探している模様。性別はよく分からないのですが、パートナーが見つかると、二人は(コイツらは、母の話を聞く限り非常に人間っぽいので、ここでは敢えて二人と書きます)家をリフォームし、キチンと住める状態にして、メスが卵を産むんだそうです。

その後、オスとメスが交互に自宅警備をしながら、虫やら何やら捕まえてきては子供達に与え、やがて巣立ちの日が来るそうで。
前に入居していた家族のように、朝、玄関のドアを開けたら全員巣立っていたということもあれば、ちょっとトロい子、ドン臭い子が、ご近所の屋根や電線に止まり、巣の近くでしばらく飛ぶ練習をしてから旅立つなんてこともあるそうです。私がツバメだったら、おそらくすぐには上手に飛べずに、しばらくは巣と電線の往復の毎日だろうな…。万年体育2で、持久走もビリ前だったし、運が悪ければ猫に食べられるかもしれない。

そう、野生の世界は敵だらけ。毎日がサバイバルなのです。そんな中でも、子供を産んで育てたい!という思いは彼らのDNAに奥深く刻まれているのか、24時間のシフト制で片方が子守をしながら、朝も夜も、雨の日も風の日もエサを探しに行くそうで、母曰く、先日の大雨の夜も片親が出勤していたんだとか。冷たい横殴りの雨に打たれて、黒い羽根を重く湿らせながら、子供のために必死にエサを探しに行くツバメ。最近齢で涙腺がユルユルなのに、こんなの想像するだけでもうヤバい!(´;ω;`)エモすぎるよ…。

「つばめも人間も皆同じよ」これ、母の口癖なのですが、ちょうど締切前の状態で日本に来てしまった私も、日々の糧のためにせこせこPCに文字を打ち込んでいるわけで、軒先の小さな住人達を見かける度に、私もガンバらなきゃと背筋が伸びる思いです(ホントかァ?笑)。

私たちが生きているこの世界線はどういうわけか、人間であろうと鳥であろうと、幼少期を過ぎれば、ボーッとしていても勝手に衣食住が提供される仕組みにはなっていないらしい。
なんと世知辛い、と若干の眩暈を覚えながら、再び玄関の戸を閉めて、私は私の戦場、ちゃぶ台の前のノートパソコン前へと戻って行くのでした。


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