見出し画像

旧東ドイツ人とDIY

旧東ドイツ人は何かとDIYしたがる。共産圏育ちというあまり物質的に恵まれなかった環境で、ないものは自分で作っちゃおうという、ドラクエビルダーズのビルダー君のような見上げ根性なのかもしれないけれど、世の中にはある一定数、不器用な人間というのもいて、そういう奴まで「俺はデキる!」と信じ込み、自分で解決しようとするから困ったことになる。

先日、キッチンの蛇口から水がちょろちょろ漏れていることに気がついて、気づけばカルキであちこち白くなっているし、「そろそろ替え時だよね」なんて家で話していたら、旦那がホームセンターに行って蛇口を買って来るという。

へえ~、一人で交換できるんだ(私には出来ない)、なんて思って仕事を任せたのがよくなかった。ドイツ語には「zwei linke Daumen haben」(左の親指が二つついている)という表現があって、どちらも利き手ではない、いわゆるぶきっちょな人のことを指すのだけれど、旦那が正にこのタイプであることを知っていながら阻止しなかったのは、今思えば間違いだったと思う。家族だからって盲目的に信用してはいけないことが、世の中にはある。

ホームセンターに売っている30ユーロくらいの普通の蛇口を買って来て、私が留守にしている間に修理は済ませていた。ところが、「あー、お湯と水逆につけちゃった。今日はとりあえずこのままにしておくけど、また今度直す」という。水をひねるとお湯が出て来る。お湯をひねると水が出て来る。ちゃんと仕事出来てないやーつ。いわゆる旦那クォリティーだ。

しばらく、「赤」が水で「青」がお湯という逆転生活をするはめになったが、習慣というものはなかなか抜けにくいもので、水を出したつもりが60℃のお湯が出てきてアヂヂッ!と叫ぶことかれこれ数回。不便極まりない。

一週間ほど経ってまた週末がやって来たので、「蛇口直してくれない?」と頼むと、元々そうするつもりだったと言う。私と息子は別段手伝うこともないので、ビルダーズ2のムーンブルク編を攻略していた。すると、突然もの凄い水音がした。

何事かと思ってキッチンに行くと、シンクの下からもの凄い水流で水が噴き出ている。旦那は全身ずぶ濡れで近くのごみ箱とかボウルとかに手当たり次第水を貯めつつ(でもすぐ一杯になる( ´,_ゝ`)、勢いよく噴き出す水を必死に手で押さえつけながら、

「お隣さん! お隣さんを呼んで来い!」

と叫ぶ。私と息子は靴も履かず玄関の外に飛び出した。ちなみにこのお隣さん、いつも共用玄関の近くで煙草を吸っているし、声が大きいから私は嫌いなんだけど、ハウスマイスター(管理人)をやっているので、おそらく水回りには詳しい。あまり世話になりたくない人物だったが、背に腹は代えられないので彼に来てもらったところ、フツーに頭上の元栓を閉め、水は止まった。初歩的過ぎて何かのコントみたい。志村けんのコントって、よく水が噴き出したり金だらいが落ちたりするけど、絵ヅラ的にはまさにあんな感じだった。

が、呆れかえったのはその後。お隣さんが帰った後、旦那が、「元栓! 元栓のことなんてすっかり忘れてた! クッソ! これってまさにtypisch Akademiker(※直訳すると「典型的な学卒者」。ここでは、学歴ばかり高くて簡単な修理も出来ない人のことを指す)だな!!」なんていまいましげに呟いていたんだけど、単なる学士卒のくせに、おこがましい!! 私とて言語学修士卒だけど、自分のことをAkademikerと名乗った瞬間なんて一度もないぞ。そういうことはせめて博士号くらい取ってから言えよ(-_-;)

自分のことをAkademikerとか言っちゃうのもダサいしおこがましいけど、AkademikerだからDIYが苦手なんじゃなくて、元栓閉めて作業しないのは単なるバカじゃろ。。しかも、水とお湯はちゃんと出るようになったんだけど、このパニックで何か配管を間違えたらしく、今度は食洗器の水が止まってしまった。チーン…。

出来ないのに自分でやろうとするのも問題だと思うんだけど、旧東ドイツ出身の奴らってミョーに自信満々でDIYしたがるんだよな。私の知り合いにも、夫婦で家を建てる、というか「自ら作る!」と宣言して、ウン年間も賃貸アパートに住んで家賃をムダに払いつつ、週末はビルド作業するものの、いつまでたってもトイレも風呂も出来ず、結局諦めて土地ごと売った奴がいたっけな。

不器用な人は無理せず、業者に頼みましょうね。

補足:これを書いた後にふと思い出したんだけど、去年の夏、耐えがたい猛暑で、ドイツの一般家庭にエアコンなどというものはないので、「エアコン 作る」でヤフー検索したことがあった。ドイツ暮らしが長くなると、ときどき日本人の感覚を忘れそうになる。恐ろしいことだ…。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?