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留目真伸インタビュー① 新産業をつくるために「現場のリアル」と「共感するストーリー」が必要な理由

SUNDRED株式会社の「新産業共創スタジオ(Industry-up Studio)」がスタートして、約1年半が経ちました。今回からは、SUNDREDに関わるキーマンたちのインタビューや対談をお送りしていきます。
まずは、代表取締役・CEOの留目真伸のインタビューです。これまでの日々の歩みをあらためて振り返りながら、事業を進めていく中でより明確になってきたSUNDREDの在り方や、今後目指していく展望などについて、お伝えできたらと思います。

新産業立ち上げプロセスが確立できた

- SUNDREDとして1年間半歩んでこられた中で、「うまくいった」「成功した」と感じられたことはなんですか?

「100個の新産業を共創する」と銘打ち、スタートしてからのこの1年半で、すでに12個の新産業プロジェクトが動き出すところまで持ってこられたことですね。さらに、最初のうちは試行錯誤が多かったものの、後半ではパターンが見えてきて新規プロジェクト立ち上げまでのスピードも早くなってきました。なので、「100個」という数が案外絵空事ではないと、現実的な展望も見えてきています。

- SUNDREDが確立しつつある新産業立ち上げまでの「パターン」とは、どういったものですか?

大切なキーワードが「エコシステム」「トリガー事業」です。SUNDREDでは新しい産業を考えるとき、その産業が成長し、成熟するためにはどのような事業を掛け合わせればいいのかというエコシステムの仮説を、対話を通じて描いていくんです。このエコシステムは「トリガー事業」「プラットフォーム事業」「アプリケーション事業」によって構成されます。

トリガー事業は、新産業の中でも特にカギになる事業です。SUNDREDでは、このトリガー事業を定め、まずはここの成長に注力する。エコシステムが成立して自律的に産業として拡大していくにはプラットフォーム型の事業とアプリケーション型の事業がバランス良く揃っていくことが重要です。産業化が進まないのは、そのどちらかが決定的に欠けている、もしくは組み合わせとして機能していないことが原因で、SUNDREDではその欠けているピースとなる事業を特定し、それが成長しやすいように関連する事業を集め、組み合わせて提供していきます。トリガー事業が成長していくと、関連する事業群が更に集まり、厚みを増していく。そして、プラットフォーム事業の上に、それを活かして成長するアプリケーション事業が生まれるサイクルが確立される。これがまさに新産業のエコシステムです。

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- 「トリガー事業」は、どのように見出しているのですか?

新規で作り上げていくこともあれば、もともとあったスタートアップの事業をトリガー事業と定めて組み上げていくこともあります。また、その新産業に参画する企業がすでに持っている事業をカーブアウトして、外部で独立させるような形で進めていくものもありますね。

- 新産業づくりには、SUNDREDやトリガー事業の主体だけでなく、さまざまな企業が関わるんですね。

はい。スタートアップや大企業だけでなく、中小企業や行政、アカデミア、はたまた個人での参加など、さまざまな形が考えられます。先ほど申し上げたとおり、新産業をつくりあげるプロセスではプラットフォーム事業や個別のアプリケーション事業が生まれてきます。参画してくださる企業にとっても、新たな事業機会を見出していただきやすい活動形態になっていると思います。

また、新産業づくりとは「新しい投資領域を生み出す」とも言い換えられます。新産業づくりに、特に初期のうちから関わるということは、大きく成長する可能性がある投資案件を早くに見出したのと同じです。その新産業テーマに興味を持ったみんなで投資して、大きく育てていく。これはキャピタルゲイン獲得の側面で見ても、面白いポイントだと思っています。

「意味がわからない名前」だから新しい

- 参画を求める企業に対して、SUNDREDの取り組みってすぐに理解してもらえるものなんでしょうか? 少し難しい印象も受けます。

そこは、たしかに課題ですね。ですので、なるべくわかりやすくお伝えするよう、このようなインタビューにも答えているわけですが(笑)。
「新しい産業を創る」というフレーズは、キャッチーなんですけど具体的な絵がイメージしづらい。加えて、それぞれの新産業の名前もわかりにくいと言われています。ただ、いかんせん、これまでにない新しい産業なので既存の言葉では表現しきれないんですよね。

- たしかにSUNDREDで取り組んでいる新産業の名称を見ると、「ユビキタスヘルスケア」「セルフデベロップメント」など、一見しただけでは内容がわからなくて、とにかくユニークですよね。他では見たことがない!

「ユビキタスヘルスケア産業」というのは、どこにいても質の高い医療やヘルスケアを受けられるようにしたいというコンセプトですが、無理やり既存の日本語で当てはめると「遠隔診療産業」ということになってしまう。しかし、僕らは遠隔診療をやることを目指しているわけじゃないんです。それは手段なので。もっと広く、人々の健康にまつわる課題を解決することを目指しているので、細かいニュアンスがずれるんです。

より、みなさんに伝わりやすく、なおかつ事業の内容を端的に言い表せるような言葉を探して産業名に当てられないか、これは試行錯誤の毎日です。

- そもそも「新産業をつくる」という会社のコンセプト自体がユニークですよね。

僕は以前、レノボ・ジャパンの社長を務めていましたが、主力商品であるPCはシェアも高止まりして、成長するビジネスではなくなってしまったんです。で、何か新規事業をつくらなければならないと考え、取り組んだのが「タブレット」という製品。これはシンプルで、単価も安いものでした。
ただ、じゃあ簡単に売れるようになるかというと、まったくそんなことがなくて。タブレットは新たな付加価値の創造のためにユーザーエクスペリエンスやバリューチェーンを変えていく中で初めてその役割が決まっていくんです。まさにデジタルトランスフォーメーション(DX)そのものと言っても過言ではなく、個社だけで考えていてもダメで、目的そのものから複数の企業やスタートアップと対話しながら共創していかないといけない。この経験や気付きが、新産業づくりの発想につながっています。

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- なるほど、実体験からの学びがあったんですね。

DXって、絶対に一つの会社だけではなし得ないんです。産業構造やサプライチェーンなどの全体にかかわる人たちが一斉に変わって、初めて起こせる変革なんですよね。だとしたら、会社や業界の垣根を越えて手を組み、同じ目標に向かって進んでいかないと達成できないわけです。
ただ、これまでの日本はそういう場面で、個別の業界や会社の利害を優先し、自分の都合を主張するだけで、一つにまとまることができなかった。だから、日本からは新しい産業が生まれなかったんだろうと思っています。

- わかります。

本当は、大勢の人が関わるからこそ「何のためにそれをやるのか?」という目的意識をしっかりと共有することが重要で。そのような調整役、推進役を務めていくことがSUNDREDの役割の一つです。

- SUNDREDでは「インタープレナー」という人材像も提唱していますよね。

はい。インタープレナーは、新しい価値を生むために自らが所属する組織の枠を越えて活動する人で、新産業づくりの担い手です。これもレノボでのタブレット事業から得た学びが活きています。

- どういうことですか?

先ほど申し上げたように、タブレットの事業化はとても難しく、これまでにやったことがないような複雑な仕事になりました。少なからぬ人たちが途中で音を上げ、諦めてしまったんです。そんな中、最後まで残ってくださるのは、会社の看板とか都合とかに関係なく「この事業は面白そうですね!」と言ってくれた個人だったんです。結局のところ「やりたい!」という人がいて、初めて成り立つものなんですね。

- 会社を超えた個人のつながりから新産業が生まれてくるんですね。

タブレットってすごくシンプルな商材ですが、他の製品や社会の環境と繋がったソリューションを創っていかないと売れない。逆に、繋がりを創ることで、ものすごく大きなパワーを持って、業界をトランスフォームするようなことさえ実現できるわけですよね。そしてその共創は、会社というよりも、会社の中にいる目的志向の個人同士の対話がもとになっている。そこに新しい時代における新しい価値創造の可能性に対する実感を僕は持ったんです。それをもっと大きな範囲で実行していけないかなと考えたことが、新産業づくりに行き着いたきっかけでしたね。

- まさにオープンイノベーションの理想形のような気がします。

僕はよく、「会社人」ではなく「社会人」、つまり「一つの会社の”会社人”に留まるよりも、みんなで繋がって社会の課題を解決する”社会人”になろう」といった話をするのですが、まさにその思想と繋がっていると思います。自分が所属する会社という枠で会社の利益だけを考えるポジションに留まらずに、個人個人が、所属先の名前やスキルを活かしながら全体で繋がり合うことで、より大きな力を発揮して変革を図っていくことができますよね。

- 会社員であっても、会社を辞めなくても「社会人」という意識を持つことは可能ですね。

また同様の理由で、SUNDREDや新産業に関わるメンバーの集め方についても、「ジョブ型」ではなく「パーパス型」でありたいと思っています。日本企業の雇用のあり方としてジョブ型がいいのかメンバーシップ型がいいのかという議論がありますが、SUNDREDはパーパス型です。

- どういう意味ですか?

ある新産業をつくるとき、ジョブ型の考え方だと必要なスキルを持っている人を集めるということになると思います。そうではなく「この課題を解決したいと強く思う人」という観点でまず集まり、そこに集まったメンバーが「ここで、自分ならば何ができるのか」という姿勢で取り組んでもらいたい。これもSUNDREDのいうインタープレナーなんだと感じます。

頭がいい「だけ」の人では新産業はつくれない

- この1年間を振り返って、他に気づいたことはありますか?

2つありますね。1つは「頭のいい人を集めれば新産業はつくれる」と思っていたんですが、それは誤解だったということ。実際はそうじゃなかった。

新産業をつくるためにエコシステムを考えるというと、どうしてもその産業について深い洞察があったり、大局的に構造を描ける人、つまりは「頭がいい人」が必要なんじゃないかと思っていたんですね。ですが、例えばユビキタスヘルスケア産業でいうと、そんなことより何より「現場のリアルな声」が大事であることに気付かされました。

- 詳しく教えてください。

僕たちは、ユビキタスヘルスケア産業のトリガー事業として「ネクステート」というデジタル聴診器というデバイスを見出しています。で、このネクステートを育てるためにどのようなプラットフォーム事業が必要で、エコシステムをデザインすればいいかを考えるわけですが、そこでは「遠隔診療」ということが議論の前提になってしまっていた。遠隔診療が次の時代の医療のスタンダードになると言っている識者は多いし、そのためにもデジタル化を進めていくことそのものが必要と疑わなかったんですね。

- たしかに。

しかし、現場のお医者さんの声を丁寧に聞くと、皆さん遠隔医療そのものに反対しているわけではいないんです。やはり、どうしても直接診察しないと発見しにくい不調というものが存在するし、患者さんの中には対面じゃないと嘘をつく人もいて、遠隔ではそれが見抜けないなんて話もありました。いかに遠隔であったとしても医師が不安に思わないレベルの診察環境を再現できるのか。机上の議論だけでは出てこない観点で、今のユビキタスヘルスケアはこれらの声を拾いながら進めています。

- SUNDREDが「対話」を重視していることがよくわかるエピソードですね。

そして、これが2つ目のポイントにも繋がるんですが、「ロジックではなくて、ストーリーが大切」という気づきです。先ほどの例のように、ロジックだけで考えないということは、「机上の空論」になることを避ける意味合いもあるのですが、実際にうまく産業としてプロジェクトを機能させていくためには、大勢の人の心に届く「ストーリー」が必要だということですね。おそらく、遠隔診療という、ある意味で冷たい感覚を覚えさせるロジックだけであれば、多くのお医者さんや患者さんまで巻き込んだ動きはつくれないのだろうと思います。

たくさんの人が同じ目線を向いて、共通の課題を解決していこうというのだから、一朝一夕ではできない。現場の人たちを巻き込んで、時間はかかっても対話を重ねながら、熟成させていくプロセスが大切なのだと、今は思っています。

- ありがとうございました。次回は、より詳しくSUNDREDさんの取り組みについて知るために、具体的な個々の産業について、お話を伺っていきたいと思います。


留目真伸インタビュー②

留目真伸インタビュー③

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SUNDRED / 新産業共創スタジオでは2月17日〜19日にカンファレンスを開催します。

インタープレナー、企業およびその他の組織、起業家・スタートアップ、それぞれの観点から新産業の共創について考えていくとともに、具体的な新産業共創プロジェクトについても皆さんとディスカッションしていく機会とさせて頂く予定です。是非ご参加下さい。

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2月17日(水)
【テーマ】ライフデザインのトランスフォーメーション
【キーノート】対話で生まれる新しい人生デザイン
【新産業セッション】
セルフデベロップメント産業フライングロボティクス産業

2月18日(木)
【テーマ】新産業の科学 - エコシステム発想の事業開発 -
【キーノート】4象限モデルからの新産業創出
【新産業セッション】
ハピネスキャピタル産業プレコンセプションケア産業

2月19日(金)
【テーマ】起業家は新産業の夢を見るか?
【キーノート】事業創出・起業の新しいカタチ
【新産業セッション】
ユビキタスヘルスケア産業 / フィッシュファーム産業

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