留目真伸インタビュー② SUNDREDの現場で今、起きていること - 3つの新産業プロジェクトの立ち上げ経緯と可能性
SUNDRED株式会社の掲げるビジョン、「100個の新産業を共創する」。創業からの約1年間で、すでに12個の新産業がスタートしています。
多岐に渡るその産業は、いずれもネーミングからしてユニークなものばかり。端的には表現しがたいほどに、広い分野にまたがる根幹部分の社会の課題に切り込んでいくプロジェクトの数々が動き出しています。
今回は、そんな新産業のうちいくつかをピックアップし、SUNDREDの試みの真髄とその具体像に迫ります。インタビュイーは、前回に引き続き、代表取締役・CEO、留目真伸氏です。
「美味しくて安心・安全な」魚を「生産」するフィッシュファーム産業
- 今回は、SUNDREDがこれまでに創出してきた、個々の新産業についてお伺いしたいと思います。まずは、本日ご紹介いただく産業について教えていただけますか?
今回一例としてお伝えさせていただくのは「フィッシュファーム産業」「セルフデベロップメント産業」「ユビキタルヘルスケア産業」についてです。
- どれもユニークな名称ですよね。名称だけでは想像のつかないものばかりですが、様々な分野にまたがっていそうで大変興味深いです。順にお伺いしていきたいと思います。
はい。まずは、「フィッシュファーム産業」について。
この事業をはじめたきっかけは、SDGsにもある「海の豊かさを守ろう」というスローガンが起点になっているんですね。ですが、これだけでは環境問題に焦点を置いているのか、はたまた他の問題解決を主眼としているのか、わかりづらい。要は、大きな目的はあるんだけれど、みんなが今日から動き出せるわかりやすい目標が設定されてない。私たちの中では「駆動目標」と呼んでいますが、ここの解像度を高めていく必要があるんですね。
そこで、駆動目標を探るために、SUNDREDが重視している現場で活動している方々との対話を始めてみた。そうしたら、「養殖が重要な鍵を握っている」ということがわかった。さらに、その中で、実は「陸上養殖」が大きなポテンシャルを秘めているということがわかりました。
- 「陸上養殖」ですか。一般的には、あまり聞きなれない言葉ですよね。
日本は「天然神話」が強すぎて、養殖に全くと言っていいほど投資をしてこなかった歴史があります。特に陸上養殖には光が当たってこなかった。この状況から、陸上養殖を成長産業として創出していけるかどうか、これまで継続的に投資と努力をしてきた国々に追いつけるか、日本型の新しい仕組みを創っていけるか、ということが日本の課題なんですね。そういう状況で、どういった世界観の陸上養殖が望ましいのか、そのためにどのようなエコシステムが必要なのかを対話しながら作り上げていくのが、このフィッシュファーム産業です。
- なるほど。魚を工場のような環境で生産するから「フィッシュファーム」なんですね。日本の現在の陸上養殖は、どういった状況なんでしょうか?
陸上養殖をやっている業者さんは国内各地に結構いらっしゃるんです。ただ、初期投資も必要ですし海で獲れる魚よりも当然コストが高くなってしまいますので事業化のハードルが高くて、なかなか成功していくのが難しいんですね。その中で、特例的にうまくいっているのが、浜松市でチョウザメの養殖をしている金子コードさんなんです。
- チョウザメですか?
陸上養殖のチョウザメから、世界最高品質のキャビアをつくっています。金子コードさんは名前の通り電話線の会社ですが、製造業として培ってきたノウハウを活かして、工業製品のように分析と研究・改善を繰り返し、品質の高いキャビアをつくることに成功し、エリザベス女王や世界の著名人たちが参加する場にキャビアを提供しています。
- すごいですね。
どうして彼らはうまくいっていて、他の事業者では難しいのか? これからのSociety 5.0のパラダイムに相応しい陸上養殖のあり方はどのようなものなのか? 金子コードさんの実践をもとに、多様なインタープレナーの方と対話を重ねていくうちに、日本型の陸上養殖産業に必要な要素が見えてきたんですね。そこで、それらを参考にあらゆる生産者・事業者の方が陸上養殖で成功できるように、彼らの成長を支えることができるプラットフォームを事業としてつくっていこうと、2020年4月に「さかなファーム」という会社を設立しました。SUNDREDで初期からインタープレナーとしてプロジェクトをリードしてきた原さんが代表に就任しています。
- 今後、フィッシュファーム産業が目指していく方向性は、どのようなものになるのでしょう?
この産業で提供していきたいことは、「陸上養殖の技術・ナレッジの集約」と「本当に付加価値の高い魚・商品を開発していく」という2軸です。前者ははコントローラブルがキーワードです。先ほどご理解いただいたように、フィッシュファームは要は、魚の工業化を意味しています。品質の高度化・均質化、生産の安定化が大切ですし、味に関してもフィードバックをもとに研究者と一緒になって分析を進め、改善のサイクルを高速で回していくことができる体制の構築を進めています。
- おいしさの追求という要素も入ってくるのですね。
養殖産業と言っても、生み出すものは「食料品」なので、いかにおいしくできる、人を幸せにできるかということがとても大事です。そして、これが2つ目の軸につながるのですが、世界的にもレベルが高いと言われる日本の食を支える「シェフ」の存在を重視しています。彼らのフィードバックを活かしながら、どうすれば付加価値の高い商品として提供でき、お客様にも喜んで頂けるのかを考えていきます。
- なるほど。幅広い領域に関わる方が、同じ方向を向いていくためのプロセスが成功しているんですね。
一番時間がかかった部分がまさしくそこです。「陸上養殖産業で何を実現したいか」「どんな産業であれば、どんな世界観であれば共感できるか」ということを、現場の皆さんのリアルな声を聞きながら擦り合わせすることが肝心なんです。たとえば、大きい工場で一元化していくのか、各地方に点在する小規模生産者の方々のネットワークに基づく産業なのか。一人の頑固オヤジによるクラフトなのか、コミュニティとして衆知を集めるクラフトなのか。その答え1つで、目指す形や、さらに巻き込んでいくプレイヤーも変わっってきます。
- たしかにそうですね。
さらにそれを深掘りしていくと、「そもそも食ってなんだろう?」というところに行き着きます。「食」って、我々の根源的な欲求の1つだし、生きてる理由にさえなる大切なものじゃないですか。「栄養を摂る」という以上の価値があって、「おいしいものを食べながら人とコミュニケーションを取る」「世界・地球と共生していく、繋がりを感じ、恵みに感謝していく」といった、心身的な価値さえも包括している。これは、この後にお話しする、SUNDREDが掲げる新産業創出のための4象限とも重なってきます。
データ活用で「学び」と「成長」の新次元を切り開くセルフデベロップメント産業
- 「セルフデベロップメント産業」についてはいかがですか?
これは、弊社が産業のアイデアや領域を固めるときの軸にしている、4象限のモデルの一角を担うべき産業領域です。この4象限を我々は「HASEモデル(ヘイスモデル)」と呼んでいます。
- どんな内容でしょうか?
「ヘルスケア(健康)」「セルフデベロップメント(自己開発)」「アセット(資産・財産)」「エンバイロメント(環境)」の4つに分類しています。前者2つは現代社会で新たに求められてきた「心身的な充足感」を満たすものであるのに対し、後者2つは、従来の産業が満たしてきた物質的な充足感に対応するものです。このマッピングを意識することが新産業のテーマを考える中ではとても重要なのですが、中でも「セルフデベロップメント」は、学習・教育・キャリアアップ・転職・MBA(Master of Business Administration)などの領域や、自己啓発といったジャンルにまたがるものです。SUNDREDでは、心身的な領域のサービスを成長させていくためにはデータの存在が重要ではないかと考えていますが、セルフデベロップメントについては現在は全くと言っていいほどデータが蓄積されておらず、連携、活用もされてないんです。
- どういうことですか?
例えば学校の成績や自費で通った英会話スクール、それ以外にもさまざまな「学び」と「成長」を私たちは得ているわけですが、それがデータ化されていなかったり、データ化されていたとしても相互に連携したり統合したりするデータ基盤が存在しない、ということです。
- なるほど。
このデータ基盤がないとなにが問題なのか。相関と因果関係がわからず、投資ができない、サービスもつくれない、高度化していけないという問題があります。どのような学びの機会にどれくらいお金と時間を投資すると、どのような成果が得られるのか生活者にとっても非常にわかりにくいし、メリットも実感しにくい。だから自己投資が進まない。例えばかつて、MBAというのは投資に対するリターンがわかりやすかったんです。MBAを取得すれば高い報酬がもらえるとか転職が可能になるとか。でも、今やMBAすらもこれだけ変化が激しい状況の中で直接的な効果が見えにくくなっている。
- たしかにそうですね。
一方、SNSでマウントがとれるような、わかりやすい“実利”を提示するオンラインサロンが隆盛と衰退を繰り返している。しかしオンラインサロンでは、何が学べたかということをクリアにすることは難しいです。このような状態を変えていくためにも、精緻なデータ化とそれを蓄積するための基盤をつくることが急務だと思っています。そのような基盤があれば、各事業者ごとの連携も進み、より本質的で重層的な学びと成長につながるのではないかと考えています。
- なるほど。「セルフデベロップメント」とひと言で言っても、単に教育に関するアイディアだけでなく、データ基盤のような異なる発想を入れて新しい産業をデザインしていくんですね。セルフデベロップメント産業は幅広い分、他の産業とのコラボレーションも考えられそうですね?
そうですね。例えば、弊社ですでに展開している「ユビキタスヘルスケア産業」との関連性は強いです。医療業界のインタープレナーたちと議論する中で、「プレコンセプションケア」や「スマートエイジング」といったキーワードが出てきました。前者は正しい知識と理解に基づく妊活領域で、女性やそのパートナーが、将来の妊娠についてしっかり考えながら各自のライフプランに向き合うこと。後者は、100年人生の後半においても健康で活き活きと社会参加をしたり、そのための社会的取り組みを整えたりすることを言います。これはまさしく、自己のライフプランと切っても切り離せない領域という意味で、セルフデベロップメントとすごく密接な関係にある産業だと感じており、これらの産業プロジェクト化も進めています。
「どこでも高度な医療を受けられる」社会を目指すユビキタスヘルスケア産業
- 今ちょうど「ユビキタスヘルスケア産業」についてもお話が出てきましたが、こちらについてもお伺いできますか?
「ユビキタスヘルスケア産業」は、どこにいても高度な医療・ヘルスケアのサービスを受けられる社会的な環境を整備していくことを目的にしたものです。この産業のトリガー事業として、デジタル聴診器の「ネクステート」というプロジェクトを支援しつつ、エコシステム全体の構想も具現化しています。このような話を聞くと「遠隔診療を実現するんだ」と思われるかもしれませんが、それだけではありません。本格的な医療の領域を病院の中だけでなく外に広げていくとともに、ライトなヘルスケアの領域とも接合できたらと考えているんです。やはり、現代で求められている心身的な領域に深く関わっています。
- なるほど。こちらも範囲が広いですね。
心身的なサービスというのは、いわゆる「無形のサービス」です。無形のサービスをつくるためにはデータが大切になる。心身の状態をデータ化し、さまざまな事業者で連携し活用することで、新しい質の高いサービスをつくることができるようになるんです。医療の世界では電子カルテが出てきたり、「パーソナルヘルスレコード」といった形でデータの統合が行われてきたり、データ基盤が整ってきているんです。すると、個人個人にフィットした精緻なサービスのデザインが可能になっていきます。
- これからの時代は、ますます個々人に最適なヘルスケアの技術が求められそうですよね。
データと技術が蓄積されてくると、健康でいる方法についても、いつからどういうアクションを始めるべきかが明確に見えてくるはずです。医療における技術の導入も進んでいきます。例えばデジタル聴診器のようなアプリケーションが普及すれば、伝送技術や通信技術も飛躍的に進歩していと思います。また救急医療においてドローン技術が導入されるといった形で、新たな産業領域とも繋がっていく。医療の専門家の方が病院の外で多様な産業分野と融合しながら新たなイノベーションを起こしていく。そういう面白さも感じています。
- なるほど。多岐に渡る新産業の具体的な展開例が、よくわかりました。ありがとうございます。次回は、SUNDREDさんが今後目指していく、自社の在り方と社会を変えていく方向性について、お伺いしたいと思います。
留目真伸インタビュー①
留目真伸インタビュー③
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SUNDRED / 新産業共創スタジオでは2月17日〜19日にカンファレンスを開催します。
インタープレナー、企業およびその他の組織、起業家・スタートアップ、それぞれの観点から新産業の共創について考えていくとともに、具体的な新産業共創プロジェクトについても皆さんとディスカッションしていく機会とさせて頂く予定です。是非ご参加下さい。
2月17日(水)
【テーマ】ライフデザインのトランスフォーメーション
【キーノート】対話で生まれる新しい人生デザイン
【新産業セッション】
セルフデベロップメント産業 / フライングロボティクス産業
2月18日(木)
【テーマ】新産業の科学 - エコシステム発想の事業開発 -
【キーノート】4象限モデルからの新産業創出
【新産業セッション】
ハピネスキャピタル産業 / プレコンセプションケア産業
2月19日(金)
【テーマ】起業家は新産業の夢を見るか?
【キーノート】事業創出・起業の新しいカタチ
【新産業セッション】
ユビキタスヘルスケア産業 / フィッシュファーム産業
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