【保護者&教員向け】AIができなさそうでできること、できそうでできないこと
こんにちは、トキワです(Twitter:etokiwa999)。
この4月からは宇都宮市の私立星の杜中高で先生になります。授業名はデジタルデザイン。10年間のIT業界での経験と、社会問題の研究をベースに、子どもの好きなことから社会で必要なスキルを学びます。
今回はその立場から、突如現れた新たなAI、その名も「生成AI」を保護者と教育関係者向けに分かりやすく解説します。私自身、この3か月ひたすら使っています。
※ちなみに私のコンピューターサイエンスの知識は簡単なOSを自作できたり、簡単なオセロゲームをC言語で書けるぐらいです。
今回のイノベーションはText to X
普通に紹介すると、「こんなこともできます」「あんなこともできます」と書くことになりますが、それはいったん置いておいて、まず一番コアになる部分を解説します。
今回の「生成AI」というのは名前のとおり、AIが何かを認識する(猫の画像を見て「猫だ」と認識する)だけではなく、何かを作れるようになった、ということです。
じゃあどうやって作れるようになっているのか?それは人間が使う言葉です。これを自然言語と呼びます(AIが使う言葉を機械語と呼びます)。
まず、大量の人間が使う言葉を機械(AI)に読み込ませます。例えば、
という5つの文章を読み込ませます。さて、「今日」という言葉の次に来るは何でしょうか?
はい、「は天気がいい」か「も天気が悪い」ですね。「は天気が晴れ」でもなければ「は天気が雨」ではないです。その2つは「明日」と「明後日」のあとにくるからです。
次に機械は「今日」の次に「は天気がいい」か「も天気が悪い」が来る確率を計算します。
例えば「今日は天気がいい」という同じ文章を5個読み込ませて、「今日も天気が悪い」という同じ文章を3個読み込ませます。
そうすると「今日」の次に「は天気がいい」の確率は5/8で62.5%です。「も天気が悪い」は3/8で37.5%です。だから機械は「今日」の次に「は天気がいい」を出します。
実際にはもっともっともーーーーーーーっと大量の文章データを読み込んでいて、もっともっともーーーーーーーっと難しい計算をしています。
それから次にくる言葉の確率をさらに上げるために、言葉の似てる度合いも計算します。
例えば「私は犬より猫が好きです」という文章があれば、「犬」と「猫」は機械にとって「近い」のです。でもここに「カレー」という言葉はないので、「カレー」は「犬」と「猫」とは遠いのです。
「私は犬より」という言葉の次に来る言葉は「カレーが好きです」よりも「猫が好きです」を機械(AI)は選びやすくなるのです。(ベクトル計算といいます)
ChatGPTは文章を入力して、文章が返ってきますが、すごく簡単に伝えるとこんなことをやっています。
さて、今回の生成AIは「文章(Text)」だけを作れるわけではありません。文章からプログラミング言語、画像、動画、Webサイト、アプリ、ゲーム、音楽も作れてしまうのです。
なぜそんなことができるのかと言えば、先ほどの確率が関係しています。
例えば「猫」という文章はインターネット上で猫の画像や動画とセットになっていることが多いです。機械にとっては文章の「猫」と画像の猫はまったく別ものなのですが、確率的に2つは関連している、と機械は計算します。
そんな単純なことならGoogle検索でもできたのですが、「猫」以上に色んな言葉を入れるとこうなります。まず入れる言葉は、
そうすると以下の画像が作られます(出典)。
他にも例を私のメモで以下にまとめてますが、ご自身でも調べてみるといいかもしれません。
AIはどんな仕事ができるようになって、どんな人間の仕事がなくなるのか?
AI(機械)は「文章と関連すれば」何でもできるようになりました。これが今回の大きな時代の変化=イノベーションです。
例えば関連する大量の文章から動画を作れるようになるので、映画やドラマ、アニメが作れるようになるでしょう。
インターネット上に「この映画のこんなところが面白かった!」というレビュー(文章)がたくさんあるので、それをAIが参考にして「ふむふむ、人間たちはこういうシーンがあると面白いと感じるのか」と計算して作ります。
「人の気持ちをAIが考えることはできない」と思っている人も多いかもしれませんが、これもインターネット上にレビューと同じように文章データがあればAIが人の気持ちに寄り添うことは可能です。
「カメラを止めるな」という映画が低予算で作られて話題になりましたが、それと同じことが「AI映画」として起きるでしょう。AIが全部作るというより、監督と編集は引き続き人間が行っていくでしょう(10年後はわかりません)。
「AIに芸術は無理」と私たちはずっと思ってきました。なぜなら感動的で、複雑な表現が必要で、作品には芸術家の色んな想いがこもっているからです。
しかし、感動的かどうか計算さえできれば、AIでも芸術作品が作れるようになりました。以下はAIが作った作品で賞をとった事例です。
リベラルアーツ(教養や理性的な思考技術)もAIができる可能性はあります。知識的な教養はAIの方が圧倒的に多いですし、学習させる文章データが間違いなければウソもつきません。
メタ的な常識を疑う思考だって、そのパターンを学習させればできないことではないです。むしろ最初から何でも疑っていればいいでしょう。「再帰的な思考」と呼びますが、すでに多くの人がChatGPTで実践しています。
他にもできることを挙げたらたくさんあります。以下は50個も挙がっています。
2013年にオックスフォード大学の教授によって発表された論文「雇用の未来」もきっと参考になるでしょう。論文PDFの57ページ以降のAppendixにAIによってなくなる仕事の確率が紹介されています。
現状だけでなく未来も含めてAIができる仕事
「現状」作れるものはインターネット上のものだけです。
なぜなら先ほどからずっと書いているとおり、「インターネット上の文章に関連すれば」という条件が付くからです。AIはあくまで文章に関連するものを計算しているにすぎません。
加えてAIには現在、身体がありません。だからどんなに弁護士や医者、料理人と同じ知識をもっていても、弁護士と対面で相談したり、医者が手術をしたり、料理人が料理をしたりすることはAIはできません。
つまり知識サポートはAI、顧客にサービスを届けたりする行動面は人間がやる必要があります。
そこから言えることは、弁護士や医者、料理人は仕事を一部AIに任せることで生産性を上げることができます。以下の図の右上の「デジタルケンタウロス」の部分です。ここでは料理人は右下ですが、メニューの考案にAIは使えるでしょう。
一方で、ChatGPTを開発しているOpenAIという企業は、すでにAIの身体としてのロボットを開発する企業に投資もしていますし、それ以外の企業も開発をしています。
なのでAIが機械の身体をもつことは時間の問題でしょう。そうすると上の図の右下部分「手先ジョブ」と「職人プレミアム」も一部AIに置き換わる可能性はあるでしょう。
人間の話:現状と未来、必要な仕事や非認知スキルはなんだろうか?
現状から言えば、上記の右下の「手先ジョブ」と「職人プレミアム」はまだ残りますし、右上の「デジタルケンタウロス」の残ります。
下の図は今後のAIの「段階的な進化」を予測したものですが、もしかすると今年中か来年には曖昧な支持でもAIが理解して良い感じのものを提供してくれる可能性があります。
加えてインターネットが生まれてYoutuberという仕事が生まれたように、今回の生成AIの影響で新しい仕事が生まれます。例えば、
とはいえ結局、AIにとってすれば「どんな言葉や表現からどんなことが関連するか」ということが分かれば、将来は、曖昧言語も、環境空間デザインも、ビジョンメイカーもできる可能性があります。
常にたくさんのデータが集まること=平均的なものはAIにとって得意領域です。平均的な美女は生成AIが簡単に作れます。
じゃあ将来でも、AIが身体を持ったとしても、文章データがたくさんあったとしても、AIができないことは何か?
それはAIは人間の身体を持っていない、ということです。身体性と呼びます。
例えば人間は馬やハチと同じ身体を持っていないため、同じことはできませんし、彼らの気持ちは100%理解できません。だから馬やハチの色んな行動から推測するだけです。
それと同じことがAIと人間の間でも起きます。AIが動物でも、人間が動物でもどちらでもいいのですが、どちらかからすればどちらかが動物=完全に理解できない生き物です。
でも究極的に言えば、人間同士でも完全に理解できないですよね。例え、脳内で同じドーパミンが出ていても、違う気持ちを感じている可能性はあります。
例えば人はピンクを見るとドーパミンが出ることが分かっていますが、そのピンクが「ピンク色の変なキャラクター」ならいい感想を持つ人もいれば、悪い感想を持つ人もいます。
人間の身体性が興味深いことは他にもあります。
これらはすべて人間の身体に紐づいているものだと思われます。AIが推測はできても完全には理解できない部分でしょう。
なので何かしら仕事がその時にあるはずで、その時に重要なのはたとえ理解できない馬でも、ハチでも、AIでも、人間でも、愛をもって懇切丁寧に接することなのかもしれません。
補足①:そもそも仕事自体なくならないのか?ベーシックインカムは?
ベーシックインカムという国民全員に最低限のお金を配る、という政策の案があります。
なぜベーシックインカムなのかといえば、AIがすべての人間の仕事をできるようになったら、人間は「やらないといけない嫌な仕事」をやらなくて済むことが想像できるためです。
別にこれ自体、できる可能性もできない可能性もあると思いますし、そもそもそのお金は誰の納税からなのか、とか思いますが、嫌な仕事がなくなっても、人は何かを他人に求めれば仕事はなくなりません。
例えばサーカス団のようなすごいことを求めれば、そこにお金は発生するでしょう。すごいことができる人と友達になりたい、結婚したいと思うでしょう。
そうなれば市場が生まれます。人気不人気が生まれます。必要なスキルは今の学歴とは違うでしょうけど、今と変わりません。
補足②:AIも人間の一員にならないのか?
私はAIが芸術を行うことにあまり悲観的ではないですし、芸術家の大変な労力を否定する気もありません。
私にとってはAIはあくまで新しい感動を生み出すことができる存在が生まれた、ぐらいに思っています。
なんなら人間の芸術家だって大したことのないものはたくさん作ります。AIだって作ります。
補足③:AIの話は移民外国人の話にも通じる
日本はこれまで移民をあまり受け入れてこなかったので、あまりイメージがわかないかもしれませんが、アメリカやヨーロッパでは重要な政治的なトピックです。
今回の生成AIがホワイトカラーの仕事に影響を与えると言われていますが、低賃金の海外移民はブルーカラーの仕事に影響を与えるでしょう。まあそもそも日本は人が足らないので、果たして問題として生まれるかはわかりませんが。
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