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「この本の使用価値はいくら?」人新世の資本論の疑問点

こんにちは、トキワです(@etokiwa999)。

16万部突破した「人新世の資本論」を拝読しました。社会問題系の本としてはかなりすごいと思います。

ただ、読んではみたもののマルクス初心者の僕には分からないことだらけでした。分からな過ぎて二回も読んでしまいました。それでも分からないので現在「100de名著 資本論」も読んでますが、それでも分かりません。

僕自身は10年前に2年間ほど環境NGOで政策提言の活動をしていたことがあり、環境問題については比較的少し知ってるレベルです。

政治についてもインターネット選挙解禁や投票率向上といった活動を1年ほどしていた中で色々調べたこともあり、比較的少し知ってるレベルです。

それでも分からないことが多かったので列挙していきたいと思います。この本の問題意識と解決策に分けて書いていきます。

問題意識

本書一貫して「環境問題を根本的に解決するには資本主義という生産様式をやめる必要がある。その結果、全員が潤沢な生活を得られる。」という問題意識で書かれています。

もちろん環境問題の危なさは僕のような庶民には分かり切っています。

2020年6月にシベリアで気温が38度に達した。永久凍土が融解すれば、大量のメタンガスが放出され、気候変動はさらに進行する。そのうえ水銀が流出したり、炭疽菌のような最近やウイルスが解き放たれたりするリスクもある。

現在、世界で猛威をふるっている新型コロナウイルスによるパンデミックに似たものの頻度と深刻度が増す可能性が大いにあります。他にも漁業や農業の被害、台風の強化、多くの地域の冠水なども問題ですし、熱中症や台風・水害による死者がすでに出ているため、現状で格差が存在するとも言えます。

一方で、では「なぜ環境問題の加害者にとって環境問題をとめないといけないのか」の部分の主張で分からないことがありました。まず環境問題の加害者とはだれかというと以下です。

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出典:全国地球温暖化防止活動推進センター

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出典:環境省「2.4 産業部門におけるエネルギー起源CO2」

国で言うと、中国・アメリカ・インド・ロシア・日本であり、分野でいうと発電所・製造業・運輸業であり、特に製造業では鉄鋼業・化学工業・機械製造業・窯業/土石製品製造業・パルプ/紙/紙加工品製造業、食品飲料製造業です。そしてそれらから生まれる商品・サービスを必要とする私たち消費者です。

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世界の人々を所得で分けると、上から10%の富裕層(富裕層というが日本の暮らしも世界的に見れば富裕層に含まれる)がCO2の半分を排出している余暇活動のカーボンフットプリントは全体の25%も占める(出典「Prosperity without Growth」)

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こちらは生活の質が上がれば環境負荷も上がるという図(ベトナムが例外)。

さて本書ではこれらの加害者に対して著者は以下の主張をしています(本書抜粋)。()内は僕の補足。

最終的には、地球が住めないような環境になって、先進国の繁栄さえも、脅かされてしまうのである。
(略)
「現在飢餓で苦しんでいる10億人は苦しみ続ければいい」「地球環境の悪化で苦しむ将来の世代などどうでもいい」という立場をとるのであれば別だが、そうでない私たちは、先進国の経済成長を諦め、マテリアルフットプリントを自発的に減らしていく道を検討すべきではないか。
(略)
繰り返せば、私たちが、環境危機の時代に目指すべきは、自分たちだけが生き延びようとすることではない。それでは時間稼ぎはできても、地球環境はひとつしかないのだから、最終的には逃げ場がなくなってしまう
(略)
この先、このままの生活を続ければ、グローバルな環境危機がさらに悪化する。その暁には、トップ1%の超富裕層にしか今のような生活は保障されないだろう
(略)
無限の経済成長を目指す資本主義に、今、ここで本気で対峙しなくてはならない。私たちの手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わる
(略)
数十年後には、日本だけが大量の二酸化炭素を排出し続けることになる。そして、「ジェネレーションレフト」が指導者となった未来には、(日本は)諸外国から三流扱いされるのが関の山だろう
(略)
資本主義のもとで成長が止まった場合、(略)実際、日本社会では、労働分配率は低下し、貧富の格差はますます広がっている。ブラック企業のような労働問題も深刻化している。(略)社会的な分断が人々の心を傷つけている
(略)
絶えず競争社会に晒される日本社会では、誰も弱者に手を差し伸べる余裕はない。(略)命が脅かされる競争社会で、相互扶助は困難である
(略)
無駄な労働時間が減ることで、最終的には、地球環境を救うのだ。

そして以下の4つの未来の選択肢を提示する。

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①気候ファシズム:国家は、超富裕層・特権階級の利害関心を守り、環境問題の被害にあう弱者「環境弱者」を厳しく取り締まるようになる。

②野蛮状態:99%の環境弱者が1%の超富裕層に反乱を起こして勝つ。強権的な統治体制が崩壊して、統治機構への信頼が失われる。人々は自分の生存のみ考えて行動。

③気候毛沢東主義:野蛮状態を避けるためのトップダウン型気候変動対策。自由市場・自由民主主義を捨てて、中央集権的独裁国家によって効率的で平等な対策を行う。

④脱成長コミュニズム:解決策で説明します。

ここでいくつか疑問がある。

問題意識に対する疑問点

1、なぜ人々が将来の繁栄に興味をもち、自発的に別の道を検討し、人類の歴史を続けたいと思い、諸外国から三流扱いされたくなく、社会的な分断にあいたくなく、相互扶助をしたいと思うのか、が分かりません。そんなに理性的なら最初から環境問題も労働問題も起きてないと思います。

2、なぜトップ1%の超富裕層が99%の人々のことを気にかけて新しい経済システムに移行したり、もしくはその人々の反乱に負けるのか、が分かりません。超富裕層は無人ドローンも、ビッグデータも、バイオテクノロジーもお金で利用できるのだから負けないだろうし、自分たちの生活を守るために99%が犠牲になってもいいと思ってないと、そもそも現状の経済格差は生まれていないと思います。

解決策1:目指す方向性

仮にこの本を読むからなのか、99%の人々が理性的になって、1%の超富裕層も協力的になって、新しい経済システムへ歩みだせるとします。そうしたときに以下が目標となります。

二酸化炭素の排出は2030年に半減2050年にゼロ1.5度上昇までに抑える目標。そのためには今すぐにでも年10%削減が必要。

そのためにはまず以下が必要だとして肯定しています。

必要なものの例:太陽光パネルのついた公営住宅、都市公共空間の緑化、電気自動車や電気バスと充電器、バイオマスエネルギーなどの再生可能エネルギー、電力や食の地産地消、発電所や電力網などのインフラ整備、オンラインのテレビ会議、公共交通機関の拡充と無償化(普遍的アクセスの保障)、自動車道の整備、自動車・飛行機・船舶の制限、ごみの削減・リサイクル、経済格差の収縮、社会保障の拡充、余暇の増大、芸術、通信技術、洪水や高潮への対策、生態系の保護、知識や情報(知的財産)、失業者支援、地域住民との交流、エッセンシャルワーク全般(介護・保育士・教師などのケア労働・感情労働、林業、農業、清掃、住宅、エネルギー、食糧、調理、給仕、医療、インターネット、シェアリングエコノミー)、これら実現のための反緊縮財政出動などの国家の力

電力・安全な水・教育・食べ物のための新興国・途上国の経済発展は必要。食料供給を1%増やせば8億5千万人の飢餓を救える。13億人の未電化の人々に電気を届けてもCO2は1%のみ増加。1日2.5ドルで暮らす14億人は世界の所得の0.2%を再分配すればいい。軍事費と石油産業の補助金を削減して再配分。

一方で、以下のように否定・批判しています。

現在の経済活動ではダメ(=1970年代後半の経済活動に落とす必要があるこれがすべてを変える――資本主義VS.気候変動(上下)」)。

不要なものの例:飛行機の出張、コンピューターやサーバーの製造と稼働、SUV、牛肉、ファストファッション(シーズンごとに捨てられる服)、投機による土地の価格高騰、マーケティング・広告・パッケージング(意味のないブランド化)、食べ放題、コンサルタント、投資銀行や大銀行などの金融業、保険業、コンビニのファミレスの年中無休や深夜営業、保育園の経営者・園長、ブルシット・ジョブ、遺伝子組み換え作物、化学肥料、石油メジャー、を削減もしくは無くす。

政治主義:専門家手動の選挙活動では素人(99%の人々)の声が届かない。ストライキやデモ活動は選挙活動ではイメージダウンのため排除される。国家だけでは、資本の力を超えるような法律を施行できない。

科学技術(例、ジオエンジニアリング、工場で生産される人工肉、遺伝子工学による病気の治療、ロボットによるオートメーション化、宇宙資源採掘によるレアメタルの確保)を活用した資本主義の延長。加えてそれら科学技術が自然や人々の暮らしにどのように副作用をもたらすかについて未知の部分が多い

またアメリカのマルクス主義者ブレイヴァマンによると「構想」と「実行」という概念も引用します。以下の状況を「資本の専制」と呼び、その状況下では専門家と政治家によって一部の人間が有利になるような「解決策」が一方的にトップダウンで導入されてしまうことを著者は危惧しています。

本来、人間の労働においては、「構想」と「実行」が統一されている。例えば、職人は頭のなかで椅子を作ろうと構想し、それをノミやカンナを使って実現する。ここには、労働過程における一連の統一的な流れが存在する
ところが資本にとって、これは不都合な事態である。生産が職人の技術や洞察力に依存するなら、彼らの作業ペースや労働時間に合わせざるを得ず、生産力をあげることもできない。無理をさせれば、プライドの高い職人たちは気分を害して、やめてしまうかもしれない。
そこで、資本は、職人たちの作業を注意深く観察する。そして、各工程をどんどん細分化していき、各作業時間を計測し、より効率的な仕方で作業場の分業を再構成していく。(略)いまや、誰でもできる単純作業の集合体が、職人よりも速く、同じクオリティか、それ以上のものを作ってしまうからである。
その結果、職人は没落する。一方、「構想」能力は、資本によって独占される。職人の代わりに雇われた労働者たちは、ただ資本の命令を「実行」するだけである。「構想」と「実行」が分離されたのだ

大枠のコンセプトとして著者は以下「ドーナツ経済」を肯定しています。内側の人間にとって絶対に必要なもの「社会的な土台」を保持し、一方で外側の状態にならないように「環境的な上限」を超えないようコントロールする必要があります。

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これらに対しては、実現できるのであれば、何ら疑問はありません。というわけで具体的な実現方法を見ていきましょう。

解決策2:マルクスの晩年の考え「脱成長コミュニズム」

著者は資本主義をやめて本質的に潤沢な生活を得るためには、近年の研究により新たに分かってきた晩年のマルクスの考え方を引用します。キーワードがいくつかあるので引用します。

コモン(共)社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと。商品化でも国有化でもない。水や電力、住居、医療、教育、そして生産手段、さらには地球自体を自分たちで民主主義的・自律的・水平的に共同管理すること=「協同的富」を目指す。(おそらく上記「必要なものの例」のこと)

コミュニズム生産者たちが生産手段をコモンとして、共同で管理・運営する社会のこと。知識、自然環境、人権、社会といった資本主義で解体されたコモンを意識的に再建する試みのこと。

アソシエーションコモンが再建された社会のこと。労働者たちの自発的な相互扶助。専門家や政治家たちのトップダウン型統治形態に陥らないための市民参画。顔の見える関係であるコミュニティや地方自治体をベースにして信頼関係を回復するためのもの。

奴隷制:資本主義に生きる労働者のあり方。意志に関わりなく、暇もなく、延々と働くため。例えば過労死寸前で家賃や住宅ローンを稼ぐこと。他人の命令のもとで、長時間働かなくてはならないため。

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上記によれば、マルクスは生涯にわたって自身の考え方を変えてきているのが分かります。盛大に勘違いされてきてしまったわけですね、、、。

良い科学技術と悪い科学技術については、フランスのマルクス主義者ゴルツの概念を引用しています。

閉鎖的技術:人々を分断し、利用者を奴隷化し、生産物ならびにサービスの供給を独占する技術。トップダウン型の政治主導。例、原子力発電、ジオエンジニアリング、GAFAなど。

開放的技術:コミュニケーション、協業、他者との交流を促進する技術。人々が自治管理の能力を発展させることができるテクノロジー。

それではここから具体的な解決策についてみていきます。まずどのような生産様式がベストかというのを「市民営化」と「ワーカーズコープ」で説明しています。

市民営化:分散型、非営利、小規模の民主的な管理ネットワーク

ワーカーズ・コープ(労働者協同組合、上記アソシエーションとほぼ同義):資本家や株主なしに労働者たちが共同出資して、生産手段を共同所有し、共同管理する組織。労働の自治・自律に向けた一歩としての役割。組合員が経営し、労働を営む。どのような仕事を行い、どのような方針で実施するかを、労働者たちが話し合いを通じて主体的に決めていく。労働の現場に民主主義を持ち込むことで、競争を抑制し、開発、教育・職業訓練、配置換えについての意思決定を自分たちで行う。市場での短期的な利潤最大化や陶器活動に投資が左右されない。「自分らしく働く」。特にエッセンシャルワーク分野(上記「必要なものの例」に関わるもの)において行われるべき。社会的所有参加型社会主義につながる。

フィアレス・シティ(恐れ知らずの街):バルセロナが呼び掛けて、アフリカ、中南米、アジアなど77の拠点が参加する国際的ネットワーク。国境を越えて連帯する、革新自治体のネットワーク精神を「ミュニシパリズム」という。

これらの事例地域:アメリカ(デトロイト・スタンディングロック・オハイオ州・ニューヨーク州・ミシシッピ州)、フランス(パリ・グルノーブルなど)、ドイツ、スペイン(バルセロナ・モンドラゴンなど)、オランダ(アムステルダム)、デンマーク(コペンハーゲンなど)、エクアドル、ブータン、日本

ここまでの解決策の概要をまとめると以下の5つになる。

1、使用価値経済への転換:上記「不要なものの例」を削減もしくは無くし、上記「必要なものの例」に集中して労働を行うこと。その結果、当然GDPは増えない(減っていく)。
2、労働時間の短縮:1番の「不要なものの例」を削減もしくは無くした結果、労働時間が短縮される。
3、画一的な分業の廃止:上記「構想と実行」の再統一のこと。その結果、労働そのものが第一の生命欲求になり、労働者たちの能力の「全面的な発展」が実現できる。そのために平等な職業教育が必要。利益よりも、やりがいや助け合いが優先されるようになる。労働者の活動の幅が多様化し、作業負担の平等なローテーションや地域貢献などが重視されるので、経済活動は原則する。その際には開放的技術も利用する。
4、生産過程の民主化:ワーカーズコープ(アソシエーション)参照。
5、エッセンシャル・ワークの重視:上記「必要なものの例」に関わる労働

市民営化による再生可能エネルギーの普及は日本でも事例がある。

市民電力やエネルギー協同組合と呼ばれるもの。私募債やグリーン債で資金集め、耕作放棄地に太陽光パネルを設置。地産地消型の発電。収益は地域コミュニティの活性化のために使う。市民は自分たちの生活を改善してくれるコモンにより関心をもち、より積極的に参加するようになる。

さらに具体的なことまで踏み込むと以下を本書で著者は主張している。

・新型コロナウイルスのワクチン・治療薬もコモンにする。
水は地方自治体が管理できる、電力や農地は市民が管理できる。シェアリングエコノミーはアプリの利用者たちが共同管理する。
現物給付の領域が増える。
投資目的の土地の売買が禁止。土地の価格を半分、3分の1にする。
・(コモンの利用は)一定の社会規則のもとで利用しないといけない。違反者には罰則規定もある。決まりを守れば人々に開かれた無償の共有財。
GAFAや製薬会社のような知的財産権やプラットフォームの独占は禁止される。ウーバーの公有化によってプラットフォームをコモンにする。
石油メジャー・大銀行・GAFAのようなデジタルインフラの社会的所有

そしてこれらを実現するために社会運動を肯定している。

革命的な環境運動:イギリスの「絶滅への叛逆」やアメリカの「サンライズ・ムーブメント」、フランスの「黄色いベスト運動」など。逮捕されることも恐れずに、占拠活動などの直接行動を起こし、抗議運動を展開。

気候市民議会:フランスの事例。2030年までに温室効果ガス40%削減の対策案作成を任せられた。150人のメンバーはくじ引きで決められ、年齢・性別・学歴・居住地などが実際の国民の構成に近くなるように調整される。専門家のレクチャ―も入る。最後は投票で意思決定する。2020年6月に150案が提出され、例えば、飛行場の新設禁止、国内線の廃止、自動車の広告禁止、気候変動対策用の富裕税の導入が含まれた。

3.5%の参加:ハーバード大学政治学者エリカ・チェノウェスらの研究によると、3.5%の非暴力な方法で、本気で立ち上がると社会が大きく変わる。例として、フィリピン、グルジア、ニューヨーク「ウォール街選挙運動」、バルセロナ、グレタ・トゥーンベリの学校ストライキ。

解決策に対する疑問点

疑問点、たくさんあります。

1、問題意識のところで書いた「環境問題の加害者」が「市民営化・アソシエーションなど」の生産様式に変えないといけません。例えば中国の製造業がこのような生産様式にするでしょうか?するのであればなぜするのでしょうか?

2、「ワーカーズコープも競争に晒されるので、最終的にはシステム全体を変えないといけない」と本書でも書かれています。どのようにシステム全体を変えるのでしょうか?

3、なぜ消費者にとって現在の不健康で持続不可能な生活が不幸につながり、消費者みずらか抑制するようになるのでしょうか?(以下本書抜粋)

安定した生活を獲得することで、相互扶助への余裕が生まれ、消費主義的ではない活動への余地が生まれるはずだ。
(略)毎朝満員電車に詰め込まれ、コンビニの弁当やカップ麺をパソコンの前で食べながら、連日長時間働く生活に比べれば、はるかに豊かな人生だ。そのストレスを、オンライン・ショッピングや高濃度のアルコール飲料で解消しなくてもいい。自炊や運動の時間が取れるようになれば、健康状態も大幅に改善するに違いない。
自然科学で説明できないのは、なぜ「気温が二度上昇した世界」が、「三度上昇した世界」よりも望ましいのかということである。つまり、将来の人々は、私たちの生きている現在の世界を知らないのだから、「三度上昇した世界」であっても、十分に幸せを感じるかもしれない。
(略)だから、何度の世界にしたいか、そのためにどのくらい犠牲を払うのかというのは、私たち自身が慎重に決めなくてはいけない。
(略)ここでも「自己抑制」がますます重要になるのだ。不要なものを選び出し、その生産を中止し、生産を続けるものについても、どの程度の量で生産をやめるかを、先進国の私たちは自発的に決めなくてはならないのである。
(略)しかし、逆に考えてみよう。自己抑制を自発的に選択すれば、それは資本主義に抗う「革命的」な行為になるのだ。無限の経済成長を断念し、万人の繁栄と持続可能性に重きを置くという自己抑制こそが、「自由の国」を拡張し、脱成長コミュニズムという未来を作り出すのである。

4、たとえワーカーズコープだとしても自発的に自己抑制しなければ、民主主義によって閉鎖的技術を採用し、利益を重視する経営になる可能性はないのか?

5、例えば土地をコモン(共有財産)にした場合、誰がどこに住むことができるのをどうやって決めるのか?特に今後人口が100億人にまで増える中で、彼らの利害調整をどのように行っていくのか?

6、構想と実行を統一したとして、例えばヘアドライヤーが欲しい際には、自分で材料を調達し、筐体を作り、製造しなければいけないのか?どこまでの範囲をワーカーズコープにお願いし(分業化)、どこまでの範囲を統一するのか?

7、経済成長しない場合、今までお金が儲かることで科学技術の発明にモチベーションがあった人々は今後どのようなモチベーションで発明していくのか?発明がないと武力衝突した際に負ける。

8、経済成長したい国がこのような生産様式にせず、軍事費に投資を行い、武力によって脱成長コミュニズムの国家を蹂躙しないのだろうか?(安全保障のジレンマ)

9、産業分野別のワーカーズコープの労働者数は推計で何人なのか?100億人中何人がそこに従事できるのか?

10、使用価値は労働価値説によって算定されるとのことだが(NHK 100de名著 資本論より)、では知識や情報がコモンだった場合、本書「人新世の資本論」はいくらになるのか?無料なのか?

11、絶対的デカップリングをしても、生産様式を変えても、二酸化炭素の排出量が少しずつでも増える限り、100年後、200年後に環境問題は深刻化しないのか?

12、3.5%の参加で希望が持てるとして、世界100億人であれば3.5億人、日本1.3億人であれば450万人、発行部数16万部であれば5600人が何かしら活動する必要があるが、どのように動員するのか?

13、製薬会社、石油メジャー、大銀行、GAFAのようなデジタルインフラをどのようにして社会的所有するのか?

その他、随時追加予定

最後にマルクスの大いなる矛盾について

NHK 100de名著「資本論」2回目の放送を拝見した際に、資本家が労働者を搾取しているという内容がありました。

なぜ搾取されるのか、その理由はいくつかありましたが、労働者側に以下のような問題もあります。

逃げ出せない理由の一つは、労働者が「自由」だからだとマルクスは指摘しています。(略)生産手段フリーとは、生きていくために必要なものを生産する手立てを持たないということを指します。(略)生産手段から切り離されてしまうと、もう大半の人々は自給自足できません。(略)もちろん、労働者には、仕事を辞めて、劣悪な労働環境から抜け出す「自由」もあります。(略)資本主義社会の労働者は、そんな不安定ななかで、自分の労働力という商品だけを頼みに、それをどこに売るかも自分で決めて、必死に生きていかなくてはなりません。(略)労働者を突き動かしているのは、「仕事を失ったら生活できなくなる」という恐怖よりも、「自分で選んで、自発的に働いているのだ」という自負なのです。だからこその「職務をまっとうしなくては」という責任感が生じてきます。

僕の感想としては2つあります。

1、専門学校に通って最低限のスキルを手に入れて、努力してさらに磨いて、生産手段を持てばいい。なんならフリーランスや起業をすればいい。自給自足だって現代なら田舎に移住していくらでも可能。

2、とはいえそこまで行動力のある人が少数なのは分かる。なぜなら多数派は理性的に判断できず、どうしても感情的に意思決定してしまうから。だからマルクスの言い分もわかる。

僕自身、貧困育ちで、親が上記のような感じだったのでよくわかります。

ただここで矛盾を感じるのは、そこからの解決手段として「自発的自己抑制と民主主義的アプローチ」というとても理性的な行動を求めることです。

大多数の労働者は感情的だからこそ資本主義下で搾取されるのにも関わらず、その資本主義から脱出するために「理性的になれ」と言われるわけです

理性的になれるのならそもそも資本主義下でも失敗しても何度も起業して、なんとか上手く稼いで資本家側に回ることも可能です。でも理性的になれないから問題にはまっているわけです。

理性的になれない理由はいくつかあります。例えば理性を育てるための学校や親の教育が失敗していること、人間には認知バイアスがあること、忙しくて勉強する時間を取れないこと、そもそも何を学んだら理性的になれるのか分からないこと、などなど。理性的になれない労働者を手助けするエリート側にも強い思い込みがあることがFACTFULNESSで紹介されています

こういった理性的になれないことと社会問題は繋がっていることを2021年2月に出版される拙著「悪者図鑑」では紹介しています。よろしければご覧ください笑。



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