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meet CTOs vol.5 ~ Web3.0/ブロックチェーンスタートアップの壁

meet CTOsは第一線で活躍する先輩CTOを招き、さまざまな会社やフェーズで経験してきた知見をもとにセッションを行うイベントです。

非連続な成長を遂げるために必要なエンジニア組織の創り方や、成長フェーズごとにCTOが担う役割や直面する課題など、ここでしか聞けないリアルな実体験を語る場となっています

2021年12月2日には「meet CTOs vol.5 ~ Web3.0/ブロックチェーンスタートアップの壁」をテーマにしたイベントが開催され、ブロックチェーンスタートアップで活躍するCTOが集結しました。

各社が取り組む技術に紐づく壁、Web3.0が創るトレンドや未来についてディスカッションする場となりました。

登壇者
中村 智浩(スタートバーン株式会社 取締役CTO)
渡辺 創太(Stake Technologies株式会社 CEO)
佐藤 太思(Digital Entertainment Asset Pte.Ltd Chief Product Manager)
赤澤 直樹(Fracton Ventures株式会社 Co-Founder/CTO)
池田 大輔(株式会社Sun Asterisk CTO’s)

モデレーター
南澤 拓法(日本マイクロソフト株式会社 コーポレートソリューション事業本部 Customer Program Manager)

ブロックチェーン業界で活躍する各登壇者の自己紹介

まず、各登壇者の自己紹介が行われました。

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スタートバーンで取締役CTOを務める中村さんは「10代、20代、30代とずっとインターネットの仕事をしてきており、インターネットで社会や人の人生を良くするにはどうしたらいいかを考えてきました。いわゆるWeb1.0から3.0まで経験してきたわけですが、転機になったのは2016年にブロックチェーンやビットコインに出会ったこと。これらの技術が発展すれば、データや金融アセットなどを『個人で所有できる時代が来るのでは』と思うようになったんです」とブロックチェーンとの馴れ初めを語りました。

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Stake Technologies CEOの渡辺さんは、「​​現状、ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンは互換性がない状態ですが、将来的には今のインターネットのように相互に繋がっていくと考えています。そうなったときに、異なるプロトコル同士を繋ぐことこそ、数十億人が使うWeb3.0の世界を作るのに非常に重要なコンポーネントだと思っていて、そこにオポチュニティを感じています」と述べました。

Digital Entertainment Asset Pte.Ltdでプロダクトマネージャーを担う佐藤さんは、ブロックチェーン業界に入った経緯について説明しました。

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「もともと証券会社にてデリバティブ商品等の組成に従事するなかで、『ブロックチェーンを活用すれば新しい金融商品を生み出せるのでは』と思ったのがきっかけでした。今まで交わることのなかった金融とブロックチェーンの業界が、互いに関連し合うことでイノベーションにつながると予想していて、日々業務に取り組んでいます」

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ソフトウェアエンジニアとして機械学習やデータ解析の領域からキャリアをスタートした赤澤さんは、ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトの論文を読んだのを機に、ブロックチェーンの技術のすごさに感銘を受けたそうです。

「ビットコインを知ったことで、ブロックチェーンを本格的に触るようになり、スマートコントラストを使用したアプリケーション開発などを行っていました。そして、2021年1月にWeb3.0のエコシステムを構築するFracton Venturesを立ち上げました。最近では日本初のWeb3.0特化型インキュベーションプログラムを実施したり、さまざまな会社とWeb3.0や、DAO(自律分散型組織)をテーマにした共同プロジェクトを行ったりしています」

そもそも「Web3.0」の概念は何か?

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自己紹介の後は、各登壇者へあらかじめ寄せされた質問をもとにセッションを行いました。

最初の質問は「Web3.0とは何か」。

Web1.0から2.0、そしてブロックチェーンが登場したことでWeb3.0の世界が到来しました。

ただ、概念としてはまだ理解されていない部分もあり、その辺りについて有識者はどのように捉えているのでしょうか。

佐藤さんはWeb2.0とWeb3.0の違いについて話しました。

「Web2.0を端的に説明すると、インタラクティブ(双方向)な情報伝達を可能にしていることです。Twitterやfacebook、InstagramといったSNSが代表例として挙げられますが、総じてサービス提供企業側が中央集権的にルールメイキングや富を享受している構図になっています。一方、Web3.0では非中央集権的な分散管理を起点としていて、いわゆるシステムの中央管理者が不要となっているのが大きな特徴です。個人的にはWebだけで閉じたものではなく、実社会にも広がりを見せるようになるといいのではと思っています」

渡辺さんはWeb3.0をひとことで言うと「人々のためのWeb」だとし、次のように説明します。

「現在、Webは企業のためのものになっています。GoogleしかりTwitterしかり、ビックテックと呼ばれるITプラットフォーマーに利益やデータが全て集約される仕組みになっているわけです。それが将来的には、人による人のためのWebあるいは人をエンパワーメントするためのWebというものが、ブロックチェーンによって作られていくので、これこそWeb3.0の概念だと考えています。 Web3.0の世界では、ユーザーそれぞれがトークンを保持することでプロトコルの一部になれ、自主的にうまく調和している状態を作り出せるのが、Web2.0との大きな違いと言えるでしょう」

また、ビットコインの登場によって「インターネット上で価値が生まれるようになった」と続けます。

「Web1.0からWeb2.0へ移行する際、大きなメリットは安い・早い・便利というものでした。そうなると、サーバーが一箇所でマネジメントされていた方が安いですし、大企業がまとめてくれた方が利便性が高まります。それがビットコインの登場で、その価値を人々が管理し、インセンティブに従って動くようになったことで、これまでの安い・早い・便利というものから、トークンを保有することでネットワークの一部になれるというものに便益の仕組みが変わったと考えています」


赤澤さんは「Web3.0自体は単体で出てきた概念でも技術でもなく、インターネットの進化の過程で、ブロックチェーンが台頭してきたことで生まれたトレンド」だという見解を示しました。

「Web2.0ではインターネットで自由に情報発信できるようになりましたが、Web3.0ではブロックチェーンによってデータの所有権を検証できるようになったことで、新しいコラボレーションの形が生まれるようになった。こうした各トレンドの総称がWeb3.0だと思っています。個人的にはWeb3.0が、1.2.3と順当にきたのではなく原点回帰に近いのではと捉えています。概念としてWeb3.0は新しいですが、“新しくて古い”ようなエモいコンセプトが出てきたことで、インターネット第一世代の人たちに火をつける要因になったのではないでしょうか」

中村さんは子供の頃のエピソードを交え、自身の意見を述べました。

「子供の頃にインターネットが主流になってきたのですが、すごいハマっていたんですよ(笑)。なぜかというと、インターネットが台頭したことで『情報の民主化』がなされたと感じたから。今まではテレビや新聞の会社が主として情報発信していて、一般の人々はほぼ受け手として情報を得ることしかできませんでした。それがインターネットの世界の誕生によって、Webや検索エンジンが登場し、誰もが情報にたどり着けるようになったのです。Web2.0ではブラウザや技術、ハードウェアなどの進化によって、やりとりできる情報量や速さが格段に向上し、インターネットがより便利なものになっていきました」

さらにWeb3.0の本質として「『インターネットは誰のものか』というのが企業から個人へ変わったこと」だと言います。

「Web3.0の特徴である、データが企業のものではなく個人に帰属するという方向に動いたこと自体、非常に興味深いと感じています。人類がインターネットを進化させてきたわけですが、プログラマブルで分散管理できる仕組みが美しいと考えるようになったことは、非常に面白いと思っています」

Web3.0の世界ではどの産業が盛り上がるのか

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続いての質問は「どんな産業が盛り上がっていくのか?」です。
産業によっての相性の良し悪しや注目すべき領域などについて各登壇者が掘り下げました。

渡辺さんは「単刀直入に言うとDAOが盛り上がる」と語ります。

「現在、NFTが興隆していますが、今からやるのはあまりおすすめしません。DeFi、NFTときて、次に盛り上がるのがDAOくらいしかないのではと感じています。今後DAOが増えていき、皆がトークンを発行することでコラボレーションのあり方が変わるなか、それをオートメーション化するSaaSサービスやダッシュボードのようなツールが次の2年で流行ってくると予想しています」

また、渡辺さんが最終的にDAOを目指していくなかで「2年後くらいには会社を清算するのを目標に取り組んでいる」ことにも言及しました。

「会社の清算を目標に掲げている会社も珍しいと思いますが(笑)、バブリックブロックチェーンで重要なのは誰に対しても開かれていることが、24時間365日保証されていることなんです。ですが、会社が存続していると少し面倒なことが起きてしまう。会社の意思決定は株主によってもたらされるので、中央集権的なネットワークになってしまうのです。なので、会社をなくした方がブロックチェーンとして理想のあるべき姿に向かっていると言えます。株式会社は『売り上げの最大化=市場の独占』を目指すの対し、DAOは『ネットワーク自体の価値の最大化』を目指していくマインドセットなので、自分たちがいくら収益を上げられるのかという視点では捉えていないのです」

佐藤さんは「DAOはバックオフィスが人力で回しているケースが多い。だからこそ効率化の余地があると思っています。一方で、DAOのノウハウはまだあまり広がっていないので、これからはDAOの易しい作り方や簡単に管理できるツールが求められるのではと考えています」と自身の意見を語りました。

中村さんは「NFTは簡単に右クリックひとつでコピーできてしまう一方、ブロックチェーン上で誰が所有しているかをデータとして明示できるので、デジタル上において所有者しか得られない体験価値を創出できるわけです。この価値を最大化しやすいのが、データを所有している恩恵を受けやすいメタバースだと思っています。そのため、『メタバース × NFT』が盛り上がってくるのではないでしょうか」とメタバースの可能性に触れました。

また、Web3.0におけるインセンティブ設計についてもこう意見を示しました。

「Web3.0におけるインセンティブ設計は、株式よりもプログラマブルなので、ガバナンストークンにユーテリティを持たせることを多くのトークンでは実施しています。さらに、スマートコントラクトで記述できるので、議決権の要素をもたせたりサービスの手数料として使ったりするなど、トークンにどのような機能を持たせるか自由に設計できるようになりました。渡辺さんが仰るような『会社を清算する』という選択肢が生まれたのは非常に注目すべきことだと思っています。必ずしも株式上場がゴールではない新たな選択肢が生まれたことを、ユーザーや投資家が理解することも求められるのではないでしょうか」

赤澤さんは「Web3.0の議論でもあったが、ブロックチェーンは『みんなで参加し、みんなで良くしていく』というのが本質」とし、相性のいい領域についてこのように説明しました。

「みんなで参加することでベネフィットやプロフィットを分け合うような構造を持っている領域は、Web3.0やDAOと相性がいいと思っています。その最たるものが、ファンやアーティスト、クリエイターなどさまざまなステークホルダーが関わり合いながら共創していく文化産業やエンタメ領域でしょう。人と人とが生み出すコラボレーションの連続性の中で、NFTのような『時間軸と権利』を入れることができるようになったのは、人同士の関係性を作る上で大きいポイントになっていると考えています。

また、トークンというと、現状ではどうしても投機的な視点で見られがちですが、お金にせよトークンにせよ一種のコミュニケーションツールなわけです。Web3.0の強いところは、それらをプログラマブルに使いこなせるようになったこと。こうした仕組みと相性のいいエンタメ産業のほかにも、今後は色々な領域にWeb3.0の世界観が広がってくるのではと見据えています」

Web3.0関連の情報をキャッチアップするおすすめの方法

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3つ目の質問は「Web3.0関連の情報はどこに取りに行けばいいのか?」。

まだまだWeb3.0が普及しているとは言い難い状況のなか、どのようにキャッチアップしていくのがいいのでしょうか。

赤澤さんは「個人的にWeb3.0の構造や技術の理解を深めたい場合は、遠回りせずに『ブロックチェーンとは何か』など基本的な事柄から学ぶといい」と助言します。

「現在はイーサリアムに限らず、データを出し入れするようなプロトコルのようなさまざまなブロックチェーンが出てきています。とはいえ、各方面に広がっているブロックチェーンの情報を全てキャッチアップは仕切れないので、まずは土台となる部分について説明しているホワイトペーパーやドキュメントを、腰を据えて読んでみるのがいいと思います。重く感じるかもしれませんが、そこさえ理解できてしまえば、最新情報に触れたときでもどんな変化が起きているか掴みやすくなります。結局のところ、急がば回れで情報をキャッチアップしていくのが最短ルートなのではないでしょうか」

渡辺さんも「赤澤さんが仰ったことに加えて、VCの出すレポートや英語の情報を取りにいくのも有用でしょう。また、過小評価されがちなイベントについても、リアルで仲良くなった人との交流を通じた情報交換はとても大事なことだと思います」と語りました。

佐藤さんは「私はバックグラウンドがエンジニアではないので、かなりイーサリアムを使って覚えてきました。そうすることで、自社のトークンをどういうサービスに対応させたらいいのかを学んだのです。まずはTestnet(テストネット)でもいいので、実際に触っていじってみる。ときには失敗するなどの経験をするのが近道だと思います」と意見を寄せました。

それに加える形で、赤澤さんは技術者以外の人にWeb3.0について説明する際に心がけていることを話しました。

「仕事柄、経営者の方々にもWeb3.0関連の説明をする機会があるのですが、いの一番に言うのが『イーサリアムを持ってください』と伝えています。実際にイーサリアムでNFTを買ってみることでわかることもありますし、余裕があればNFTを発行して売ってみてもいいでしょう。こうすることで肌感覚を掴めるようになり、経験値も上がってくると思います」

Sun*のCTO’sとして活躍する池田は「大元のホワイトペーパーを読んだり、チュートリアルをやってみたり、MetaMaskで適当なNFTを買ってみたりしています。ただ、それだけでは飽きてくるので、TwitterやDiscordも見るようにしながらキャッチアップを続けています。現状の課題としては、情報が大量にある中でどれが有用なものなのかを見定める力がないこと。そこを模索しながら、日々キャッチアップするように努めています」とWeb3.0の理解を深めるために実践していることを紹介しました。

ブロックチェーン関連の規制問題について

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最後の質問は「ブロックチェーン関連の規制について」です。

国内外問わず、規制についてはさまざまな議論がなされているわけですが、各登壇者はどのような所感を抱いているのでしょうか。

中村さんは「何のために規制するのかとしっかり考えられている国が強い」とし、このように提言します。

「アメリカで例えると、ドルは世界における基軸通貨であるがゆえ、ドルの価値を守りたいとする運動が働くので、一定の規制が入ることもうなずけます。他方、クリプトのビジネスを応援することでアメリカの税収が増えるのであれば、税収が増える方向に規制をもっていった方が国として得になるわけです。防御をするのは国として正しいことですが、『何のための規制でどういうプラスやマイナスの側面があるのか』をきちんと理解し、そのロジックに基づいた規制をするのが理想だと思います。その観点で見ると、日本の規制事情は少なからず過剰に損をしていると感じています」

渡辺さんは「日本の規制に関して一番辛いのは、期末の税制だ」と話します。

「今後ガバナンストークンやユーティリティトークンを発行する機会も増えてくるなか、現行は事業者側の意見が全く反映されておらず、世論だけで危ないと判断した規制になっています。こうした状況から、もし日本の規制が嫌だと思う場合には、アメリカやシンガポール、ドバイ、スイスなどの海外で事業や投資を行うのもいいでしょう。起業家は日本のみならず、どこの国でやるか判断していくのも大切になってくるのではないでしょうか」

佐藤さんはもともと税理士法人で従事していた観点から、次のように意見を語りました。

「税理士法人時代、当時の上長からは『税は実態を見よ』と叩き込まれてきました。そんななかで現行のクリプトの法規制については、正直疑問に思うところがあります。DAOの参加者がボーダレス化していくと、実業の部分で見られる各国の課税権の奪い合いが生じてくるでしょう。そういうところで、仮に日本が課税権を失い、結果的に税収を失う事態になることについて、個人的に憂慮しています」

最後に赤澤さんがブロックチェーンの規制の現状について語り、セッションを締めくくりました。

「各国で規制が厳しくなっている状況は、逆に言えばブロックチェーンが市民権を得てきたと捉えることもできます。ただひとつ問題なのが、ブロックチェーン技術がどれだけ社会的なインパクトをもたらすかという解像度が低いままに規制を定めてしまえば、的を得たルールが作れないということです。この領域は今後さまざまな事業者が関わってくるので、ルールを定める側と事業を行う側がお互い対話をしながら共同でルールメイキングしていくのが必要だと考えています」

今後もmeet CTOsでは、さまざまなCTOをお招きしたセッションを行っていく予定です。乞うご期待ください。


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