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meet-CTOs-vol.9-リテール産業におけるCX向上への挑戦

meet CTOsは第一線で活躍するCTOや経営者を招き、さまざまな会社やフェーズで経験してきた知見をもとにセッションを行うイベントです。

成長フェーズごとに直面する課題、乗り越えるべき壁……。

今回は「リテール産業のCX向上」に挑戦する新進気鋭のスタートアップに着目したイベントを、2022年5月18日に開催しました。

登壇者にはNearMe(ニアミー) CTO 細田 謙二さん、スタイラー CPO David DikmanさんMarketing demo CTO 雪竹俊臣さんをお招きし、リテール業界のDX推進を担うために挑戦していること、リテール業界の未来像について語る場となりました。

登壇者
細田 謙二 (株式会社NearMe CTO)
David Dikman (スタイラー株式会社 CPO)
雪竹 俊臣 (Marketing Demo株式会社 CTO)
モデレーター
南澤 拓法 (日本マイクロソフト株式会社 / コーポレートソリューション事業本部 Customer Program Manager)

テクノロジーで課題解決に挑むリテールスタートアップ

まず、各登壇者が運営するサービスの紹介が行われました。

地域の「もったいない」をテクノロジーで解決する事業に取り組んでいるNearMe。
現在は主に地域の移動にフォーカスし、課題解決をするためのプロダクトを開発しています。

タクシーを相乗りするというサービスをメインに据えて事業を展開しているその裏側では、数理最適化のような技術を用いて、なるべく効率的に多くの人を運ぶ仕組みを構築しているそうです。

それ以外にも、空港送迎や東京の一部のエリアで商業施設へのアクセス、あるいは通勤の利用シーンで相乗りサービスも展開しているような状況となっています。

「移動とリテールは密接に関わっていると思っているので、今日はその辺りの議論ができればと思っています」(細田さん)

買い物体験をデジタル化するOMOアプリケーション「FACY」は、アパレルやビューティー・コスメブランドを取り扱うプロダクトです。

都市での買い物体験を、オンラインとオフラインを融合させ、 日々の生活に新しい豊かさをもたらす購買体験の設計に取り組んでいます。

マーケティング全般に関わるサービスを提供するMarketing Demoは、主に一般消費者のインサイトの発掘を強みとしています。

新商品をローンチする場合、まずは市場調査を行い、その結果をもとに企画開発から市場への投入までを行っていく流れになるわけですが、調査フェーズでの煩雑さや時間がかかるという課題があります。

この課題をテクノロジーで解決するために、インサイト発掘ツール「リサーチDEMO!」を開発。

商品開発をする上で、気軽に消費者へのインタビューが実施できたり、リアルな声を拾えたりするのが特徴になっています。

移動、調査、購買に共通する顧客体験の勘所とは?

メインのトークセッションでは、まず「各社の挑戦」について、登壇者の面々がそれぞれプレゼンを行いました。

細田さんは「第四の公共交通機関になりたい」と意気込みます。

「電車、バス、タクシーに加え、我々が運用するスマートシャトル(相乗りする移動手段)という新しい移動手段を確立すべく、尽力しています。ただ、従来のタクシーに比べ、相乗り形式をとっている手前、どうしてもユーザーにとっては不便と感じる部分もあるわけです。どこまで不便を共有できるかという考えを前提に、タクシーの運行の効率も決まってくるので、その辺りのトレードオフをパラメータを調整しながら、ケースバイケースで対応しているような状況です」

また、相乗りという観点では、都市部の方が採算が取りやすいビジネスモデルになっているものの、「挑戦するという意味合いでは、最終的に地方へのエリア拡大もやっていきたい」と続けます。

「運行効率を比べれば、既存のタクシーやバスよりもスマートシャトルの方が高いんです。例えば、地方では乗客0人のバスも補助金を使いながら運行しなければなりませんが、そういった意味ではスマートシャトルが効率的で安い移動手段として提供できると思っています。採算では都市部にかないませんが、今までのやり方よりも確実に効率性においては便利になるのではと考えています」

空港送迎の文脈で、ゆくゆくはスマートシャトルの海外展開も見据えているそうです。

そんなNearMeはもともと、終電や終バスを逃したユーザー同士をマッチングするサービスを作っていたそうです。

しかし、相当のボリュームがないと、同じ方向で帰宅するユーザー同士はマッチングしないことに気づき、ピポッドする形で空港送迎に着目した経緯があります。

「空港は一定の乗客数が見込まれること、目的地も一箇所に定まっていて、かつ移動距離も長いというのがスマートシャトルの入る余地があると考えました。いずれ、ユーザー数が増えてくれば都市部の日常的な移動にも横展開できると思っています」

スタジアムでのスポーツ観戦やアイドルのライブイベントなど、何か目的を持った移動を伴うシーンにおいては、NearMeの裾野はさらに広がっていく可能性を秘めているかもしれません。

一方、雪竹さんは「一般消費者が持つ購買の動機や商品の使い方について、企業が商品を改良したり新商品を開発したりするために一般消費者のインサイトを探るというのを、もっと一般化させていきたい」と抱負を述べます。

「インサイトを探るためのユーザーヒアリングやアプローチの方法って、どうしてもスクリプト化しづらい部分もあります。そこを我々がテクノロジーを使って、アドバイスできるようにしていきたいと考えています」

企業が一般消費者のインサイトを求める背景には、「そもそもどういう商品を作れば売れるのか」というのがあります。

売れる商品とはすなわち、一般消費者のニーズやインサイトを掴めているもの。

ですが、なかなか売れるインサイトを見つけるのは難しいため、まずは企業が考えているコンセプト自体が一般消費者のニーズと合っているかを確認するところから始まるケースが多いとのことです。

「我々のサービスでは、インサイトを深掘りするためのアドバイスや場の盛り上げ方をサポートしています。あとは、ユーザーインタビュー施策に慣れているモデレーターをアサインし、企業のインサイトリサーチをアシストしていくような仕組みを提供しています」

消費者へのインセンティブに関しては、ポイントの付与や商品券の配布のようなものと、「企業の商品開発に携わることで、自分の声が反映されるかもしれない」という2軸があるそうです。

企業との接点はアンケートやお問い合わせ窓口などが一般的ですが、リサーチDEMO!を通じて消費者と企業の新たな接点を創出できるのは、双方にとっても大きなメリットになるのではないでしょうか。

FACYを運営するDavidさんは「リアルの店舗におけるユーザーの購買体験において、店舗受け取りにしても店舗予約にしても、在庫情報が鍵になる」とし、次のようにサービスの挑戦について語りました。

「FACYの導入企業ごとにリアル店舗のチャネルに加え、各種ECサイトも運営しているので、全ての在庫情報をリアルタイムに連携するのが難しい。こういった状況下で、デジタル化していないアパレル個店や、ITに精通していない大手アパレル企業含め、いかに在庫情報をリアルタイムに可視化できるかが、まさに挑戦している段階です」

最近では店舗受け取りを導入する企業が増えてきていますが、FACYというサービスでは会社の規模も扱っているブランドも異なる企業を束ねていかなければならず、そう簡単に実現できるものではありません。

SKUの取り込みは比較的容易にできるものの、SKUを管理するソースが煩雑化してしまっているゆえ、なかなか一筋縄では解決できない課題だそうです。

「リテール企業はそもそも、ITを端緒とするような会社ではないので、我々の提案に対してもリテラシーの問題でうまく話が進展しないこともある。乗り越えるべき障壁は多いですが、逆を言えばやりがいになっているので、挑戦は続けたいと思っています」

各社が取り組むリテールCXの向上

次のトピックは「実現したい世界観とCX向上」についてです。

サービスを運営していくなかで、目指す世界観やユーザーのCXをよくする施策について、各社はどのような取り組みを行っているのでしょうか。

雪竹さんは「マーケティングのデモクラシーというところから創業した会社なので、街のパン屋さんでも近くの人に自分たちのパンを知るきっかけや買ってもらう機会を増やす世界感を目指したい」と語ります。

「とはいえ、『買う側』と『売る側』にはそれぞれの哲学が存在していると考えています。“買う側はより良いものを安く買えればいい”というのが一般的な見解としてありつつ、“お金を払ってでもその商品を買いたい”と思ってもらうには、売る側である企業の腕の見せどころだと思うんです。

買った売ったの関係で言うと、購買後にすぐ売る側の企業にフィードバックされる仕組みがあれば、次のアプローチや広告の打ち方が予測できるわけですが、先ほどDavidさんが仰ったように、そもそもデータ化や数値化がされていないと、そのような仕組みは構築できません。新商品を作ろうにも、それこそ無風状態が一番きついわけで、何かしらの方法で、一般消費者のインサイトを数値化するような世界観を目指していきたい」

Davidさんは「すべてはデジタル化の方向に進んでおり、我々としてもオムニチャネルが一般的になることを創造している」と話します。

「今後はデジタルとリアルの境目がなくなり、すべてがフラットになっていくと考えています。ブランドを横断し、デジタルでの購買や店舗の受け取り、配送、口コミを投稿するまでひとつのプラットフォームとして成立する世界観を目指しています」

「移動が変わると、社会が変わる」という考えを持つ細田さんは、実現したい世界観についてこのように説明します。

「移動を変えていくことで、地域の経済圏も変わってくると考えています。例えば、自動運転の配車が普及すればシャッター街が復活し、経済が活性化すると言われているんですが、それは郊外に大きな駐車場が必要とされなくなり、人口が密集した地域でも商品が買えるようになるからです。移動が変わり、一極集中から少しずつ分散して地域密着が進む足がかりをNearMeで実現できればと思っています」

エンタープライズ企業の需要や課題感は表層化しない

トークセッションの後半には「エンタープライズとの連携にある課題感」について議論が交わされました。

Davidさんはファッション大手・ベイクルーズとのユースケースを紹介しました。

「1年半くらいの期間はかかりましたが、ベイクルーズさんの運営するブランドでアイテム情報と在庫情報のすべてを連携させることができました。ですが、スタートアップとして1年半のライフサイクルは非常に長いと感じていて、もう少しリードタイムを短くできないかと感じています。

エンタープライズとの交渉を進めていくなかでの折衝方法やスムーズに導入をしていく上でのTipsみたいなものがあれば、登壇者の皆様にも伺いたいところです。我々がやったこととしては、先方のエンジニアと直接繋がったことで、喧々諤々しながら少しずつプロジェクトを進めていました」

それに対し、細田さんは「リソースの問題は結構、重要になってくると思う」と助言します。

「いろんな会社からお声がけいただいても結局はリソースが限られるので、お互いの方向性が合致し、やる意義を見出せるパートナーと組んだ方が望ましいでしょう」

雪竹さんもキーパーソンと繋がって、プロジェクトを立ち上げるのが多いそうです。

「我々の場合、幸いにも創業者の石井がキーパーソンと深い関係性を持っていたので、紹介を通じて話が具体化することが多い。また、ツールを実際に使ってもらい、成功体験を積んでもらうように意識していて、その上で本格的に導入に至るケースが一般的ですが、『もうちょっとこの機能を増やしてほしい』などの要望があった場合に、リソースをかけていくようにしています。スタートアップは少数精鋭ゆえ、プライオリティーをつけながらリソース配分を行っていますね」

モデレーターとしてセッションのファシリテーションをしてきた、日本マイクロソフトの南澤さんは「スタートアップとエンタープライズの仲介役として関わる立場で感じるのは、エンタープライズ側の需要の有無やどういった課題を持っているかなどの情報がない。そんななかで、提案を進展させるハードルが高くなってしまっている」と課題感を吐露します。

「解決策として、現場の営業メンバーに実際どのような話をしているかをヒアリングし、自分の中で情報整理をしています。そのなかで、はまりそうなスタートアップのソリューションを考えていくわけですが、やはりエンタープライズが抱えている課題はパプリックには出てこないので、いろんな人経由で聞いて回るしかないなと、登壇者の皆さんのお話を聞いて思ったところです」

事業のボトルネックや技術的な課題をどう乗り越えるべきか

最後のトピックは「リテール業界に関わるスタートアップ特有の開発における壁」。

技術的な観点や組織づくりにおいて、チャレンジングなことや課題を克服するためのナレッジについて各登壇者が発表しました。

細田さんは「今一番課題だと感じているのは、サプライヤー側のタクシー会社さんとの付き合いが成長のボトルネックになっている」と話します。

「タクシー会社さんも、我々以外にも競業他社から配車を受けているわけで、いかにNearMeの配車を選んでもらえるかを試行錯誤しています。インセンティブ設計をし、かつユーザーの満足度も高められるような価格を設定することで担保できればいいのですが、我々の利益のことも考えると、その塩梅を考えるのが難しく感じています。その点では、NearMeの配車を選んでくれるタクシー会社に、優先的に配車を回したりテクノロジーで最適化したりなどして、事業を伸ばせるように尽力していますね」

雪竹さんは「主に2つの壁がある」とし、次のように掲示します。

「1つはリソースの問題です。どうしても開発者の数が限られているので、一度に実現できることが総じて少なくなってしまう。なので、先ほどもお伝えしましたが、優先順位を決めて開発を進めているような形で凌いでいます。2つ目は、スタートアップならではの問題として、新しく導入してくださったお客様の要望を優先せざるを得ないケースが発生すること。どうしても目先のキャッシュを追い求めるがゆえに、本来掲げる思想や哲学と崩れてしまうことがあるなと感じています。会社を存続させるためには、致し方ないことですが、こういったジレンマをどう乗り越えるかが、今後の課題だと思います」

「ステークホルダーが増えてくればくるほど、開発の要望に応える難易度が上がっていく」と語るDavidさんは、技術的な課題を乗り越えるために、自社で取り組んでいることを示しました。

「リソース的に良かった点は、採用がうまくいったことです。我々の採用プロセスを踏襲していくなかで、テストよりも態度(アティテュード)が大事なことがわかり、最後の面談では実際に弊社のエンジニアと働くという採用手法を取り入れています。一方で、ネガティブな要素として、私のチームは全員外国人で英語を使ったコミュニケーションができる一方、ビジネスサイドは英語が話せないことが挙げられます。言語の壁がある以上、意思疎通で困ってしまう場面があるのが、悩ましいことではありますね」

リテールスタートアップ各社が描く未来像

リテール産業に関わるスタートアップの当事者が、さまざまな議論を展開してきたmeet CTOs vol.9。

各登壇者から今後の展望の発表を持って、トークセッションを締めくくりました。

「ユーザーのUX視点では、デジタルを使ってタクシーを呼べたりフードを注文できたりしています。我々が提供するオムニチャネルで、さまざまな店舗のデジタル化を推進し、プラットフォームとして確立できるようにしていければと思います」(Davidさん)

「もっと簡単に、企業が一般消費者の声を聞けるような世界観を実現できるようにしたい。アンケート会社とも連携し、数多くの一般消費者の声を拾うことができれば、たとえインタビューが実施できない場合でも、リアルな反応を見ることができます。そのため、我々の世界観を達成するために、うまく手を組めるパートナーを探し、サービスのブラッシュアップをしていければと考えています」(雪竹さん)

「まずは空港送迎No.1、相乗りサービスNo.1を目指しています。そこを軸として、ユーザーの日常生活でも使える相乗りサービスとして横展開できるようにしていければと考えています。また、今後自動運転も普及が進んでいくことが予想されるので、我々のサービスがキーとなって、新しい移動を社会に実装していきたい」(細田さん)

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