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meet CTOs vol.6 ~ メタバーススタートアップの壁

meet CTOsは第一線で活躍する先輩CTOを招き、さまざまなフェーズを経験してきたからこそ語れるリアルな「実体験」や「知見」をもとにセッションを行うイベントです。
 
登壇者がぶつかってきたテック目線での壁や直面する課題などを共有・追体験することで、同じ轍を踏まずに最短速度でグロースしていける、そんなコミュニティづくりを目指しています。
 
2022年2月22日には「meet CTOs vol.6 ~ メタバーススタートアップの壁」をテーマに、メタバース界隈で活躍するCTOが集結しました。
各社が取り組むメタバーススタートアップの組織づくりや、隆盛を極めるメタバースの未来について語る場となりました。

登壇者
田中 宏樹(クラスター株式会社 執行役員CTO)
西口 雅幸(Synamon Co-Founder / CDO / Modeler)
石川 裕也(株式会社Gaudiy CEO)
モデレーター
船木 大郎(株式会社Sun Asterisk CTOs)

まず、冒頭には各登壇者の自己紹介が行われました。
クラスター株式会社で執行役員CTOを務める田中さんは、同社でエンジニアリング全般を担当しています。
 
そんな田中さんは「メタバースの勃興を、技術的視点からずっと動向を追っている」とし、関心の高さをのぞかせました。
 
株式会社SynamonのCo-Founder兼CDOを務める西口さんは、もともとアニメ業界でCG制作に携わっていましたが、Unityエンジンに興味を持ち、スマホのソーシャルゲーム開発を行うようになります。

そこからVRと出会ったことでその魅力にハマり、VRを本気で極めていくという思いから2016年にSynamonを共同創業しました。
 
「バックグラウンドとしてデザイナーとエンジニアリング両方を経験していたのもあり、SynamonではCDO(Chief Development Officer)という立ち位置で開発全体を見ています」

10代からテクノロジーが好きでさまざまな活動をしてきた株式会社Gaudiy CEOの石川さんは、2018年にブロックチェーンの会社であるGaudiyを立ち上げました。
 
「LINE Payや毎日新聞など大手企業のブロックチェーン技術顧問も兼任し、大きなメタバースプロダクトに対してのエクノミクスやNFTの設計を行ったりと、メタバースとブロックチェーンを行き来する立場として活動しています」

メタバースが盛り上がれば、新たな雇用も生まれてくる

 
続いてはメインのトークセッションが行われました。
最初は「どんな産業が盛り上がっていくのか?」をテーマに登壇者同士が意見を交わしました。
 
石川さんはメタバースの産業について「エンタメとアイデンティティの部分が盛り上がるのでは」と意見を述べます。
 
「例えばアイドルにしても、VTuberやメタバーサーであれば容姿にとらわれなくなるというか、新しいアイデンティティを示せるようになると思っています。また、エンタメ全体を見ても多様化してくることで、より盛り上がってくるのではないでしょうか」
 
田中さんは「VTuberとメタバースの相性に関しては、そこまで良くないのでは」との見解を示します。

「VTuberのライブやイベントをバーチャル空間上で見るという体験としては良いんですが、ユーザーも動画で十分に満足しているんじゃないかと。個人的にはそう感じてしまう部分もあるんです。単純にエンタメという捉え方で考えると、アニメや映画などのコンテンツをテーマパークのようなワールドを創り、面白い体験を生み出せることが非常に伸びしろを感じていますね。あとは、デジタル上のコンテンツに価値が付いてくるのも盛り上がるでしょう。
 
NFTはまさに最たるもので、メタバースでも今後トレンドになってくると考えています。また、clusterのようなプラットフォームでイベントなどを行うと、現実世界と同じような仕事が発生するような印象を抱いています。ライブイベントを開催するときには、その模様を撮影するカメラマンが必要だったり、展示会であればコンパニオンが求められたり。要は
『産業が盛り上がるというよりも、雇用が生まれてくる』という感覚の方が近いのかもしれません」
 
西口さんは「メタバースが発展していくことで、新たな産業が生まれる」と話します。
 
「インターネットが台頭したことでいろんな産業が生まれたように、メタバースでもあらゆる産業が盛り上がるポテンシャルを秘めていると思います。どんな産業や経済圏が出てくるのかと想像するだけでも楽しいですし、『空間を利用して複数の人がそこでコミュニケーションする』という、3次元空間を活用したビジネス的な使い道もたくさんあると考えています。まだまだ成功事例は少ないと思うんですが、ひとつの可能性として十分にあるなと思っています」

メタバースによってコミュニケーションと金融が変化すれば、面白くなる

各登壇者それぞれの立場から、メタバース産業をどう盛り上げようと考えているのでしょうか。
 
西口さんは次のように語ります 
「バックグラウンドとしてはエンタメから入っているので、エンタメ界隈からメタバースの面白さが広がってほしいなと思いますね。『メタバースってなに?』と問われたとき、海外ではフォートナイトやロブロックスなどのサービスが引き合いに出されますが、        ゲームは複数人で入って面白い体験をするということが想像しやすいがゆえ、もっとゲームのそういう側面が広まってくれると、面白くなるんじゃないでしょうか」
 
田中さんもclusterで目指す理想の世界についてこう説明しました。
 
「clusterは『人類の想像を加速する』を掲げており、人類全員がクリエイターになるような世界観を目指しています。cluster内にワールドやアバターを作って、楽しんでほしいというサービスなんですが、これからはcluster内でコンテンツが作られるようにしていきたいですね。VRコンテンツは、今だとUnityやUnreal Engineで作ったものをアプリ化して見るのが一般的です。将来的にはコンテンツ自体を作ることをメタバース上で行われるようになってくれば、そこに新たな産業だったり職業だったりが生まれるんじゃないかと。そう思っているんです。要は今のゲームクリエイターやプログラマーがメタバース上にシフトすることを盛り上げていきたいと考えています」
 
直近では、clusterの新機能「ワールドクラフト」をリリースし、ユーザーの想像したメタバース空間を作れるようになったそうです。
 
「最初の時点ではcluster側が用意したパーツを組み合わせてワールドを作っていく体験を提供していますが、ゆくゆくはパーツ自体をユーザー自身が作れるようにしていきたい。もっと、プリミティブな制作体験を目指し、自由にクリエイティブを発揮することを解放していくような方向性でclusterもアップデートさせていく予定です。究極的にはメタバース側が作れるものを規定してしまうのではなく、ユーザーが自由に作れるような世界が理想であり、そこを目指してやっていければいいなと思いを抱いています」
 
石川さんは「『コミュニケーション』と『金融』という2つの領域を、メタバースで盛り上げることができればもっと面白くなる」とし、自らの意見を述べました。
 
「コミュニケーションに関しては、メタバースが普及してくればリアルよりもデジタル空間での生活の量が多くなるということを前提として話したいと思います。デジタルへアイデンティティが寄ってくることになれば、デジタル上でのファッションやメイク、会話を考えるようになってくるでしょう。先ほど田中さんがメタバースとVTuberとの相性が良くないことを仰ってましたが、まさにそうだなと思っていて、僕として感じているのは『メタバースはコミュニケーションのキャパシティに限界がある』ということなんです。
 
YouTuberやVTuberのコンテンツって1:Nなので、対象者が多くキャパシティに制限がない。それがメタバースだとキャパシティが変わってきていて、Web2より少し小さくリアルよりも少し大きい。ここの文脈でコミュニケーションを考えられると、炎上もしづらく、密であり、かつWebにあることで、全てが機械学習にかけることができるわけです。MTG内での発言量の多さや喜怒哀楽などもトラッキングできるということです。今までサイエンスされていなかったコミュニケーションが、メタバースによって変化していけば、HR分野やVRを使った会議体などにも生かせるのではと考えています」
 
金融については「デジタル空間にアイデンティティを見出すことで必要になってくる『換金性』がキーになる」と続けます。
 
「NFTが台頭してきたことで、デジタルというものをレンタルから所有に変え、外に持ち出せるようになったことで換金性が高まったんです。だからこそ、メタバース上で活躍するクリエイターが登場し、リアルな世界でもごはんを食べていけるようになっている。最近だと、メタバース上の空間にあるものを担保に、金融エコノミクスを成り立たせる『NFTfi』のようなものが出てきていますが、これからさらにメタバースの経済圏で才覚を発揮して生活していく人が増えてくると思っていますね」

SNSのフォロワーが多いほど、換金性の高い世の中になっている

メタバースの波が来ていると言われていますが、まだまだマスへのリーチまではされていない状況です。果たして、広く一般にもメタバースが普及していくのは、どのくらい時間がかかるのでしょうか。
 
「Oculus Quest 2のようなVRデバイスだと、没入感のあるゲーム体験が味わえるという魅力は一様には浸透していると思いつつ、ビジネス面で見れば装着が面倒だったり毎日付けてやる意味を見出せなかったりと、まだまだ課題があるという印象です。装着することの煩わしさで考えると、VRデバイスありきのメタバースの普及はもうちょっと時間がかかると思います。そういう意味だと、すでに普及し始めているスマホやPCといったデバイスから、メタバースをいかにマスへ広げていけるかがポイントになるでしょう」(西口さん)
 
「最近記事で見かけたのが『今の女子高生は学歴よりもTikTokやインスタグラムのフォロワー数が欲しい』というものでした。自分もこの感覚は正しいなと。要するに、学歴は“生きやすさ”だと思うんです。学歴を尺度にすれば選択肢が増え、就職がしやすいなどに帰結するからなんです。でも今って、いい大学に行くよりもTikTokやインスタグラムのフォロワー数が10万、20万人いる方が換金性が高い世の中になっている。
 
なので、アイデンティティ自体がデジタルに寄ってきているのはすごく感じますし、ここがさらにパラダイムシフトしていく時間軸でいうと、アイデンティティに関しては10年、20年先ではだいぶ変わってくるでしょう。VRに関してはデバイス次第だと思いますね。安価なものやスマートグラスのようなものなどが登場し、普段使いできるようになれば一気に普及するかもしれません」(石川さん)
 
「フォートナイトやFF14などのゲームの世界をメタバースだと感じるユーザーも少なくないと思いますが、イメージとして『あれってメタバースだったんだ』と後付けでわかってくるような気がします。翻って考えると、すでにメタバースの体験は享受できているのではと思っています。他方で、VRの場合は、デバイスの装着が必要であることから想像できるように、いかに軽くてフィット感のいいものが出てくるかが肝になるでしょう。Oculus Quest 2はゲームを楽しむデバイスとしては良いものの、メタバースで利用するような水準には至っていないのではと感じています。正直、どれくらいの時間軸で普及するかは予想できませんが、あと5年ほどで出てくれば個人的には嬉しいと思っています」(田中さん)

PRやブランディング視点で企業がメタバースを取り入れるようになる

 
続いてのセッションテーマは「メタバースのトレンドは何か?」。
今まさに最前線で活躍する各登壇者はどのような所感を持っているのでしょうか。
 
田中さんは「エンタメ界隈の華々しいイベントを、多くのユーザーが見るというものから始まってくる」と話します。
 
「エンタメのほか、ビジネス文脈に沿ったメタバースも注目されてくるでしょう。それぞれの領域に特化したメタバース関連のサービスも出てくると思います」
 
西口さんは「エンタメにメタバースが取り入れられるトレンドは出てくる」としながら、「企業の活用も増えてくる」ことにも触れました。

「PR視点で企業がメタバースを取り入れる事例も出てきていて、これからさらに増えてくると捉えています。企業のブランディングとして、今までの動画にはない新しさや楽しさというのを伝えるための利用価値が高まってくると思います」
 
石川さんは「メタバースのような最先端技術って、早い話『ゲームか、アダルトか、儲かるか』のような人間の根源的な欲に近しいところから広がっていくイメージなんです。また、これらに付随したユーティリティ(有用性)、いわゆる実用的なコミュニケーションなどの領域にも浸み出して広がっていくと思います」と考えを示しました。

メタバースはMMRPGと同じような難所を経験する

 
次の議題は「メタバースならではの開発の難所は?」です。
 
メタバースという、いわば最先端技術ゆえの開発の難しさや苦労している点について掘り下げていきました。
 
田中さんは「技術スタックで言えば、MMRPGを作るような難所がある」と述べました。

「Web2のゲームの場合、開発者側がギミックを作り、リソースを用意していくので、その部分のコントローラビリティはある一方、メタバースならではのものとして、基本的にはアバターにしろ3D空間にしろUGCのもので構成されているわけです。要はユーザー自身が外部で作ったものを持ち込めるようになっており、UGCのところをコントロールしていくのが開発の難所になってくると思います。ゲームに慣れている人ほど期待値が上がっていて、clusterのUGCを重く感じることもある反面、技術者としても日々向き合いながら、ユーザー体験の向上に努めています。
 
こうしたUGCに対処するため、ユーザーが持ち込んだものもプラットフォーム側で最適化させるような仕組みを構築しています。ただ、すごくリッチなものを持ち込んで全く動かなくなってはダメなので、何らかの変換も入ってくるわけですが、今度はそこをやりすぎて元の品質を落としてしまっては意味がないわけです。やはりクリエイターの思い通りに表示されるのが本望なので、ちょうどいいバランスを保つのが難しいところですね」
 
西口さんは「メタバースをビジネス向けにメタバースを汎用させていく際、業界や事業ドメインごとの知識が必要になるので、そこを形にしていくのは一定の難しさを感じる」と現場感を交えながら説明しました。
 
「お客さんと対話しながら開発していくことは長く続けていて、また開発チームもお客さんと話すような文化というか土台づくりも意識しているんです。メタバースに関しては田中さんが言われていたように、ゲームを作る技術と近しいと思っています。実際に開発していく際に知っておかなければならない技術の幅も広いし、さらにはお客さん側の事業ドメインの知識もキャッチアップする必要もある。それゆえ、結構苦労するところはあります」
 
ここで、西口さんから田中さんへ「UGCの仕組みがあることで、下手にUnityのアップデートがかけづらくなっていると思うが、そのあたりはどう対処しているのか」という質問が投げかけられました。
 
対して田中さんは「Unityのアップデートに追従できずにいる問題は往々にしてある」とし、次のように回答しました。
 
「VRchatもそうですが、『Unityの仕組みにべったりになってしまうとリスクになる』ということを、clusterの開発チームでは共通認識として持っているんです。ただ、Unityの上に構築していくこととは別にデータを持たせたり自社独自で運用したりする必要性は感じているものの、すぐに着手できるわけではありません。そのため、一定のリスクは甘受しながらやっていくことは考えないといけないでしょう」
 
石川さんは、採用の難しさや最適解がないことに対して苦労しているとのことです。
 
「メタバースのような最先端技術に伴う開発でよく言われていることですが、そもそも市場になかなかスペックを持った人材がいないということです。エンタメ事業者からお問い合わせいただくことも多いですが、メタバースはまだ正解のない領域なのですごく擦り合わせるのが大変だったりするんです。最適解がなく、抽象度も高くなるのでアートディレクションや要件定義も難しいと感じています。『これは面白くなりそうだね、わくわくするよね』みたいなところって計算できないですし、特にtoBだと難易度が高くなると思います」

メタバースが「自分ごと化」しづらいため、採用に結びつきにくい

 次は「メタバース領域のエンジニア採用や育成の難しさ」をお題に、各登壇者による議論が行われました。
 
即戦力採用に振り切るか、ポテンシャル採用で育成していくかでいうと、各社はどちらに比重を置いているのでしょうか。
 
田中さんは「clusterでは即戦力採用に完全に軸足を置いている」と現状を話しました。

「現在の開発チームは、割とシニアなメンバーで構成されていて、そこまで育成にコストをかけてられない側面もありますね。インターンから育てていき、正社員としてジョインするケースもありますが、業界標準で見ればかなり高いレベルの人をさらにインターンで鍛えられているような感じです。採用で言うと、先ほどMMORPGの技術スタックと近いとお伝えしましたが、ゲーム業界のエンジニアの方ってclusterの開発と親和性があると感じていて、実際すごい活躍できるスキルを持っていると思うんですね。特にアバターやワールドを開発するところは、ゲームエンジンを作るのと類似性がある部分でもあります。
 
ただ、ゲーム業界のエンジニアに対してどうリーチさせていくか。あるいはメタバースやclusterの認知度を高め、魅力的に思ってもらうようにするためにはどうしたらいいか、をしっかりと考えていく必要があります。その点が採用で難しい点ですね。3Dど真ん中の技術スタックを持っているエンジニアって、やはりWeb業界には少ないので、ゲーム業界からいかにエンジニアを呼び込めるかが今後の課題になっています」
 
西口さんは「率直に言ってすごく大変でしかない」としつつ、「育成せずに、ものづくりに集中できるかがスタートアップで大切なこと」と意見を述べました。
 
「スタートアップは認知ありきで、まずは知ってもらうことの大切さから始まるわけですし、たとえスキルマッチしても、スタートアップ特有の不確実性の高い環境に合うかどうかも判断しないといけません。うちの場合も育成コストはなかなかかけられないこともあり、即戦力人材を中心に採用を動かしている状況です。
 
さらにスタートアップとの適性やマインドセットも考慮するとなると、なかなか厳しい部分もあるのが本音ですね。『どれだけものづくりに割けるか』という本質的なところを重視し、育成をしなくても前へ進んでいけるようにしていくことが、スタートアップとして大事になってくるのではないでしょうか」
 
石川さんも育成に関しては現状あまりコストをかけられていないそうですが、今後の会社規模の拡大を見据え、育成の体制や採用後のオンボーディングフローの確立、1on1などのキャリア支援などにも着手していくとのことです。
 
そんな石川さんですが、採用について難儀だと思うのが「ブロックチェーンやメタバースといった最先端技術が『自分ごと化しづらい』こと」だと述べ、次にように説明しました。
 
「VRやメタバースなどを触っている人ってマスではないわけで、どうしても自分ごと化して考えづらいんです。飲食やフリマアプリとかのサービスだと一度は使ったことがある人も多く、そこには“肌感”がある。肌感を作ることは、サービスの普及や自分ごと化するストーリーも創りやすいので、とても重要になると考えています。『これがブロックチェーンなんだよ』『メタバースはこういう世界が実現できるんだよ』というような自分ごと化しやすいものをしっかりと発信していくことで、最先端技術に携わる会社を自分ごと化してもらえると思うんです。多くの人によって距離感がある領域なので、そこの距離をもっと縮められるといいんじゃないかと思いますね」
 
また、メタバースが発展していくには「ムーブメントが重要になってくる」とのこと。
 
「最近、東南アジアではメタバースやクリプト系のスタートアップが続々と誕生していますが、それはAxie Infinityのような成功事例に乗っかる形でこぞって参入しているから。優秀の人たちが選択と集中でメタバースやクリプト界隈の業界に集まってきているんです。日本もエンタメ大国という土壌があるので、メタバースの将来性や有望性を伝え、ムーブメントを作れるのであれば、非常に伸びるポテンシャルがあると思います。なので、個社ではなく業界で人材を採用できるようになればいいのになと考えています」

まだまだメタバースが日常生活に必要なものになっていない

最後のテーマは「メタバースの発展に向けた課題は?ハード?心理面?」。
メタバースが普及していく上で、ボトルネックになっていることはどのようなことなのか。
 
各登壇者が感じていることについて意見を寄せ合いました。

石川さんは「どこに視座を置くかで全然違ってくると思っている」とし、自らの意見を話しました。
 
「世界的な発展で見れば、放っておいても伸びていく一方で、国内の発展で見れば、規模の経済という面でも圧倒的に足りないような状況です。メタバースの世界を作る人間がそもそもいなければ限界があるわけで、何か斬新なアイデアがひとつあるだけで勝てる領域でもありません。エンジニアやデザイナーを含めた人数の多さが必要になってくることからも、国内においてはそこがボトルネックになるでしょう」
 
心理面に関しては「役に立つという点をうまくハックできるかが肝になる」とのこと。
 
「ユーザーの課題解決から考えると、SNSは気軽に承認欲求を満たせることであったり、Amazonなら利便性の高い配達、Googleならなんでも検索できたりとイメージがしやすい。ところがメタバースとなると、ユーザーにとって何の課題解決をしているかが見えづらいんです。このあたりを、もっとみんなが言語化できている状況を作ること。そして、スタンダードがわかっている状態を作ることが必要不可欠になってくるでしょう。国内における心理面のボトルネックは、明確にキャズムを越えるだけのペインを見つけられていないことだと思います」
 
西口さんは「メタバースが、ユーザーにとってなくてはならない存在になれていない」とし、メタバースを取り巻く現状についてこう説明しました。
 
「インターネットもスマホも出始めの頃は、別になくてもいいと思われていたものが、今や生活になくてはならないものになっている。メタバースもいずれどこかのタイミングでそうなるだろうと。そう予想はしていますが、今はまだゲームの延長という認識が強いと思っています。それは我々がやっているようなBtoBのビジネスでも言えることです。
 
なので、まずはこれはユースケースのような成功事例を出していくことが先決だと考えています。ハード面で考えると、VRがメタバースと紐付く領域として捉えてもいいわけですが、VRやARといったハードウェアデバイスの普及がここ数年で進化してきているので、ここがさらに発展していけばスマホのように必要不可欠なものになっていくかもしれません」
 
田中さんは「結局のところ、メタバースでも現実世界と同じような悩みが再生産されていたりするので、一概に何がペインになりうるかは言い難い」とし、メタバースの発展における課題について言及しました。
 
「clusterのようなメタバース空間が利用されている点としては、コロナ禍で移動が制限されているのもあり、ユーザーが使っているというのも大きな理由だと思います。それがアフターコロナにもなっても使い続ける価値があるかでいうと、まだほとんど誰もその本質的な価値を見つけ出せていない。そこが課題になってくると考えています。
 
また、ハードな面ではその時に流行っているデバイスからメタバースが普及してくると思うので、VRやMRなどが普及していれば、そのデバイスで動かすメタバースが主流になると個人的な見解を持っています。clusterもスマホもモバイルもPCもVRも全部やっているので、ハードの面はあまり気にならないのではと考えています」
 
現実とメタバース上での自分がどのくらい切り離されるのか。
それとも、同一視されていくのか。          
 
「心理面に関しては、どちらの方向性に進んでいくのかが、とても興味深い」と田中さんはコメントしました。
 
「clusterで追っている問題を例に出すと、普通のSNSやUGCサービスに比べて身体性が高いぶん、荒らし行為のインパクトがすごく大きいんです。例えばYouTubeでコメント荒らしするのと、ワールド内で荒らし行為するのとではだいぶ影響度が違う。ただ、そういうのをシステムでブロックやバンできるように実装することも不可能ではないですが、インターネットは本物の悪意に対して脆弱であるように、完全には対処しきれないわけです。
 
行き着く先にはリアルと連携させて対応せざるを得なくなるとも考えていて、もしメタバースとリアルを完全に同一視するなら、別にリアルの方がいいのではと。そう思う節もあるんです。cluster自身もどういうスタンスを取っていくかは考えていく必要があるでしょう」
 
田中さんの言う「インターネットは悪意に対して脆弱」ということに対し、「ブロックチェーンが解決する部分が出てきていることに興味を持っている」と石川さんが意見を寄せました。
 
「Googleに『Don't Be Evil(邪悪になるな)』という考えがありますが、ブロックチェーンは『 Can't Be Evil(邪悪になれない)』という考えで、そもそも悪意を行うことができないわけです。しかるに、悪意が成り立たないからこそ、ビットコインが流通しているとも言えるので、今後は悪意が起こらないような方向にブロックチェーンが活用されてくるのではと考えています」
 
今後もmeet CTOsでは、さまざまなCTOをお招きしたセッションを行っていく予定です。乞うご期待ください。

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