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非連続的イノベーション創出論オープンイノベーションと異能の掛け算による新規事業成功の方程式

昨今、スタートアップやベンチャー企業が大企業と手を組み、新規事業を推進していく「オープンイノベーション」が活発化しています。
 
オープンイノベーションを通じ、社外の多様な知識や技術、知見を持つ“異能”のチームやパートナーと協働することで、いかに新しい事業価値を作っていけるかが、オープンイノベーションの成功の鍵を握るでしょう。
 
しかし、異なる企業や視点を持つ人と共創していくには、「誰とチームを組むべきなのか」「どう分かり合い活かしあうべきなのか」が重要なポイントとなります。
 
今回はオープンイノベーションを1000社以上創出してきたeiicon社の香川氏と、『異能の掛け算』の著書であるSun Asteriskの井上が、新規事業の成功確度を上げるために必要なことや、抑えておくべき勘所についてディスカッションを行いました。


新規事業の具体性や方向性を経営陣と握ることが肝要

eiicon香川脩

冒頭では、「オープンイノベーション推進に必須な組織構築とそのチェックポイント」というテーマのもと、香川氏がプレゼンテーションを行いました。
 
「オープンイノベーションはあくまで手段でしかなく、新規事業として何がしたいのかが重要になる」
 
そう語る香川氏は、オープンイノベーションに必要な考え方や取り組み姿勢について説明しました。

香川:
eiiconは日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」を有するほか、大手企業向けにオープンイノベーションの伴走支援やハンズオン型のコンサルティングも手がける会社です。
 
私は、年間100社以上から新規事業の創出に関する相談を受けており、その中で感じた共通課題の解決策におけるポイントについてお話ししたいと思います。
 
まず、新規事業に関わる役割としては大きく3つあります。

  1. 運営・事務局としてプロジェクトを支援する立場

  2. プロジェクトオーナーに新規事業を回す立場

  3. 事務局とプロジェクト推進の両方を担う立場

会社ごとに立場や役割は違うものの、新規事業の立ち上げ時には経営幹部から「イノベーションの創出」や「スタートアップとの連携」、「プロジェクト推進に若手を巻き込む」など、さまざまなオーダーをもらうと思います。
 
一方で、プロジェクトを支援する担当者は「他社のオープンイノベーションの事例」や「コンサル業者への見積もり」を考えるの対し、プロジェクトオーナーは「アイデア出しはしているものの、事業化の承認が得られない」、「社内の協力が得られず、予算が取れないため、事業創出の活動が制限される」といった課題を感じていることも少なくないでしょう。
 
0→1で事業創出を行う際、非常に重要となるのは、自社が求める新規事業の定義(ゴール)を明確にすることです。
 
新規事業を進めていく際には、流行りのバズワードやよく使われるビッグワードに惑わされがちになることも多いと思います。
 
そうしたなかでも、経営陣が求める新規事業の具体性や解像度を高め、サービス内容や狙うマーケットなど、事業の方向性を経営陣と握ることが肝になるわけです。
 
また、高収益な事業基盤の確立や社会課題の解決に寄与する事業の創出など、新規事業に対し、現実的でない高い目標を設定していないか、というのもチェックする必要性があるでしょう。
 
どんな目標を定めるのも自由ですが、果たして達成できるラインなのか。新規事業にかけるリスクとリターンは見合っているのかなど、求めるゴールによって手法が全く異なってくることを理解しておかなければなりません。
 
もし、売り上げが最大の目的ならM&Aを検討すべきですし、短期で黒字化を目指すなら、投資を抑えたスモールビジネスが最適だと言えます。
 
そして、新規事業の収益という観点以外に求める条件の背景を理解しておくのも大切です。
 
若手や優秀な中途社員を起用し、社内の文化醸成を目指すのか。あるいは保守的イメージの払拭やSDGsへの貢献、外部目線を意識して取り組むのかなど、新規事業の立ち上げ前に経営陣と共通認識を持っておくのが望ましいでしょう。
 
ここで、自社に適した新規事業創出の手法を選定する際のポイントをお伝えします。
 
まずは、自社が置かれている状況をしっかりと整理した上でプロジェクトを進めることです。
 
新規事業の定義や長期的なゴールを決め、自社の状況を鑑みながらゴール実現のための手法を選択し、足元の短期的ゴールを定めます。そこから、具体的なテーマや人選をしていき、実践していく流れが理想的だと言えるでしょう。
 
弊社の提供するAUBAのデータをもとに、新規事業の創出に必要な要素を抽出し、自社のイノベーションスコアを可視化できる「INNOVATION VITAL」では、下記のような項目を設けています

これらの項目をチェックしてみて、現状の認識とずれている場合は、関係各所と共通理解を持てるように、あらためて目線合わせをするといいでしょう。

異能同士が建設的な議論を行うためにお互いを理解すること

Sun*井上一鷹

続いては株式会社Sun Asteriskの井上が登壇し、「異能の掛け算による価値創造」をテーマに400件の事業共創から導き出したチーム論や方法論について共有しました。
 
井上:
私は新卒でコンサルティングファームのアーサー・D・リトルに入社し、メーカーの事業戦略や研究戦略を担当していました。その後、JINSへ転職して眼鏡型デバイスの事業化など、新規事業の立案に携わり、2021年にSun Asteriskへ参画し、日本の新規事業における質と量の向上に貢献するために日々邁進しています。
 
新規事業はデザインする(考える)、プロトタイピングする(作る)というのを両輪で回していかないとうまくいかないと、さまざまな企業の0→1を経験した中で感じていたことでした。
 
その結果、本日お話させていただくチーム論と方法論に行きついたのです。
はじめにチーム論をお伝えしようと思いますが、大事なのは次の2つになります。

  1. 誰とチームを組み

  2. どうわかり合い活かしあうか 

JINS時代に新規事業のオーナーとしてチーム組成に関わっていたのですが、失敗したと思ったのは「ビジョンが異なる専門家集団は相乗効果を出せない」ということでした。
 
新規事業は言うなれば、世界中で誰も答えを出していないもので、「何が」わからないのかを「理解」しなくてはならないわけです。
 
ChatGPTはプロンプトを書くことで問いには答えてくれますが、「自分自身が何がわからないのか」については当然ながら答えてはくれません。そんなときに違う視点をくれるのは「人」でしかないわけですが、もし同質のタイプの人に相談しても、共感するだけにとどまってしまいます。
 
そのため、全く違うタイプの“異能”を持つ人と新規事業は取り組んでいく必要があるのです。
 
これまで400の新規事業に関わっていた経験から話すと、最初の立ち上げでMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を決める際は5人以下のチームが望ましいと考えています。
 
異能と一緒に仕事をすること。チーム全員が共通のWILL(意志)を持ち、新規事業への熱量が高い状態を持って本気で取り組まないと、絶対に新規事業はうまくいかないと言えるでしょう。
 
前提として言えるのは、新規事業が成功する確率は低いわけで、現状のチームを大切にしようとせず、ちょっとでも「今のチームのままではうまくいかない」と思った瞬間に変えるくらいのマインドを持った方がいいと思っています。
 
異能人材は図にあるように3パターンに分けられると考えています。

新しい価値を“創る”というテック人材がいて、クリエイティブ人材は“顧客に有用”な形で体験価値を生み出し、それを世界中に“最大限・持続的”に届ける役割を担うのがビジネス人材と定めています。
 
ビジネス人材は「事業」を主語にして最良の意思決定を考えていく必要があり、テック人材は「事業」を主語にし、技術観点から新たなシーズを見出していくことが求められます。加えて、クリエイティブ人材はユーザー視点に立って、どういう体験価値を届けるべきかを見なくてはならない。
 
人はどんなに頭が良くても、瞬間ごとに複数の観点でみることはできず、一つの立場でしか物事を考えることができません。
 
仮に、テック、クリエイティブ、ビジネスのどれを優先するかを一人に委ねてしまうと、必ずどちらかに偏ってしまうわけです。なので、それぞれの役割を分け、健全な綱引きをしていくことが重要になってきます。

また、「誰とチーム組むか」を考える際に、データとして出てきているファクトとして、サービスデザインまでは、5人以下のチームで新規事業に100%コミットが理想になります。
 
事業開発に慣れるまでは、他の仕事との兼務で新規事業に50%参加するメンバーを入れるのは避けた方が良いでしょう。
 
次に「どうわかり合い活かしあうか」について考察していくと、テック、クリエイティブ、ビジネスのそれぞれのメンバー間で、具体と抽象を行き来することをお互いに理解した上で議論しないと、建設的でないコンフリクトが生まれてしまいます。
 
ビジネス人材は立場上、どうしても関係各所に抽象度の高いプレゼンをしがちですし、テック人材は最終的に納期を守る義務があるため、機能を絞っていこうと考え、クリエイティブ人材は、顧客起点で考えすぎるがあまりに、ちゃぶ台をひっくり返すような意見を言いやすい。
 
手段が違っているメンバーが集まっているからこそ、目的が一致していないと、絶対にうまくいかないわけです。
 
新規事業を考えていく際にマネタイズはもちろん、利益を出したら何に投資するかまでチームの中で目線合わせしていくことが非常に大事だと言えるでしょう。

新規事業の成功確率を上げるために必要なこと

では、どう考えると新規事業がうまくいく確率が上がるのでしょうか。
400件の新規事業を見ていくなかで、本当にいろんな課題がありました。
 
アイデア出しのフェーズでは、起案プログラムで素晴らしいピッチをして終わってしまうパターンもありました。サービスデザインする段階でも、議論が得意領域に寄ってしまうことや、実際のプロダクト開発においても、MVPやプロトタイピングのノウハウが社内にないなど、さまざまな課題が浮き彫りになったのです。
 
そんななか、新規事業の成立条件として、右脳的な「確信」と左脳的な「確証」の両輪を持ち、うまくバランスを保ちながら意思決定していくチームが起こす事業の成功確率が高くなっています。

こうした確信と確証を得るために、Sun Asteriskの独自フレームワーク「VALUE DESIGN SYNTAX」を活用し、テック、クリエイティブ、ビジネスのうち何が足りないのか。どれに寄りすぎているのかを見える化することで、新規事業のブラッシュアップに役立つと考えています。
 
MVPを作るときはユーザーストーリーマップを書いて、サービスの提供価値を具体化していくわけですが、プロダクトの要件定義をメンバー全員で決めないと新規事業はうまくいきません。
 
よく新規事業は再現性がないと言われていますが、成功確率を上げるために7割はサイエンスし、3割は独創性を持ってくるべきだと思っています。お互いのチームメンバー同士がナレッジを共有し合いながら進めていくのがいいのではないでしょうか。

新規事業における撤退条件も明示的に定めておく

── 新規事業に必要な「スキル」や「人」のマッチング精度やポテンシャルをどう高めて行けばいいのか。

香川:事業を俯瞰してみて、先ほどの異能人材の話にあった「BTC(ビジネス、テック、クリエイティブ)の中でどこが足りていないのか」というのを考えた上で、 新規事業を立ち上げる前の事前準備をしっかりと行うことが大事だと思います。

井上:どの市場で事業を作っていくかにもよると思いますが、私の場合は新規事業を立ち上げる際に自分の周りで「似たことで悩んだ人」がいないかを探していました。新規事業の経験者って、事業を作る人に対して優しいんですよ。もちろん、ベンチマークしているサービスをたくさん触るのも大事ですが、知り合いの知り合いにたくさん聞くという行動も大切だと思います。

そこで無知の知に至って、次に誰を仲間にすればいいのかを考えることも、 新規事業の創造にはかなり重要な要素になってくるわけで。そういう意味では、いろんな視点で“串”を入れた方がいいでしょう。

── 新規事業のスコープを作成する上で大事なのは何か?

井上:前提として、新規事業のスコープを作成しても、いずれピボットすることになるので「感覚的に正しいと思ったら作り始める」ことが大事になりますね。要は「この方向性ではない」と踏ん切りをつけることができるチームを組成する方が、新しく事業を作る上で求められることだと考えています。

香川:「スコープ=事業の領域」と捉えると、今の強みや武器は何なのかという自社アセットの整備と、マーケットの将来性を俯瞰して分析することが必要になるでしょう。私自身、社内のビジネスコンテストのアイデアに対する壁打ちを年間で1,000件くらいやっているのですが、顧客課題やペルソナ設計をする際に、表面的な情報しか入れ込めていないケースが非常に多いですよ。

担当者に「そんな人いますか?」と聞いてみると「会ったことないです」と返ってくるようではN=1は作れないので、まずはそこの解像度を高めていくのがポイントになるでしょう。

── 新規事業における撤退条件の決め方や判断基準はどのようなものか?

井上:私が事業会社の中で新規事業をやっていたときは、風呂敷を広げるのは得意な一方で、畳むことは全然変えずに進めていました。新規事業をやっていて、うまくいかないことが続くと「いつまで事業を続けるのか」という社内の空気感も生まれてきますが、やめるにやめられない状態がどうしても続いてしまっていました。

これは大企業のみならず、VCがスタートアップに大きな投資をすると「失敗したこと」にできないゆえ、事業の将来性を問わずにずっと資金が入り続ける状況にも言えることだと思いますね。
 
こうしたなかで、撤退条件の決め方については、3ヶ月、6ヶ月、1年と各タームの予算策定のタイミングで、「何のKPIを達成していなかったら撤退するというのを明言させる」ことが必要になります。KPIの進捗状況を毎月ウォッチし、新規事業がうまくいっているかチェックしていくのも大切です。
 
明言させることを決めていても、本当に新規事業へ情熱を注ぐ人であれば、たとえKPIを達成できなくても腹を括ってやり続けるでしょう。だからこそ、絶対に明示的かつ定量的に撤退条件を決めることが、新規事業の撤退に踏ん切りをつける意味でもとても大事になってきます。

香川:レガシー産業のある企業が立ち上げた新規事業の話を当時の担当から聞いたんですけど、結論から言うと2〜3年継続して今はクローズしていて、特に最後の1年くらいは「やめさせてくれなくて辛かった」と話していました。
 
新しいことにチャレンジしている以上、周りの人からも「こうやったらうまくいくのでは」という助言をもらうので、なかなかやめさせてくれない状況が続いていたといいます。
 
先ほど井上さんからもあったように「徹底的に言語化する、具体化する」というのは新規事業担当者はある程度わかっていると思いますが、何を言語化し、どの程度の工数をかければいいかを決めていくのが難しい部分になっています。
 
また、新規事業においては事業検証や市場性の判断、スケーラビリティの観点、事業成長度合いなどのような「ステージゲートの運用」が大事になります。その一方で、「リスクを少しずつとって、一歩一歩ステップアップする」というのが経営層に理解されにくいという課題もあると感じていますね。

── PoC後の事業化を阻む要因と対策は?

井上:PoCの定義は非常に難しく、PoV(価値の検証)なのか、PoC(技術の検証)なのか。あるいはPoB(ビジネスの成立検証)なのか、その段階ごとに事業化の壁があると思うんです。「何がProof(証明)できれば、次のステップに進めるのか」というのを言語化しきれていないと、各フェーズにおける事業化の壁を超えられないので、言語化をしっかりしていくのが重要になると思います。

香川:井上さんの意見に全く同感で、この質問への回答としては不確実性が伴う新規事業において、PoC計画や道筋が事前にきちんと決められているかがポイントになるでしょう。

▼登壇者
井上 一鷹(株式会社Sun Asterisk Business Design Pros. Division Manager)
香川 脩(株式会社eiicon Enterprise事業本部 IncubationSales事業部 部長)


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