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IT技術者のためのハードウェア用語集


東京の町田市でデザイン事務所と小さいメーカーを生業にしている角南です。(有)TSDESIGN代表。アウトドアブランドMONORAL代表。
サラリーマンデザイナーを5年、フリーランス3年くらい、会社にして15年ほど工業製品のデザインの仕事しています。仕事を通じた見聞、体験を書いていこうと思います。

2015年頃から、ロボットのプロダクトデザインの仕事が時々舞い込むようになりました。クライアントはソフトウェア会社(数社あり、ジャンルは様々)で、自身の基幹事業を成功させて充分な資金のある会社である場合が殆ど。成功してて、かつハード製品を持たない会社がその資金でハード製品を世に出したいと思うケースです。その場合まったくハードウエア開発の基礎の無い状態から物作りを始めるので、そのために新しく人を入れたり、私のような外部のデザイナーやEMSといったハードウェア製造会社に仕事を依頼することになります。

その中で、社員のIT技術者はハードウェア製造会社とやり取りをする必要が当然生じるのですが、ハードウェア製造会社から例えば「材質は何にしましょうか?」とか「ここにPL出ちゃいますけど、どうしましょう?」みたいなことを聞かれてもすぐに分からず戸惑うことになります。
そこで以前、知っておくと良い知識を教えて欲しいとクライアントに頼まれて書いたのが今回の内容です。デザイナーも生粋のエンジニアではないので、こういった知識を元に工場と話ししているわけです。
※注意:内容は私の業務の中で通じている内容を検証せずにまとめたものなので、正確性は保証できません。


ハードウェア用語集

憶えておくとハード屋さんとのやり取りに役立ちそうな用語をあつめました。

製造全般

• CNC(シーエヌシー)
"コンピューターナンバリングコントロール"の略語。本来工作機械を数値で制御して動作させることの総称であるが、狭義に切削加工のことを指して使われることが多い。「まずはCNCサンプルで確認しましょう」といった使われ方をよくする。工作機械があれば初期投資なく新規形状を量産品と同じ材料から1品製作できますが、時間がかかるため量産には向いていません。そのため後述する成形技術があると言えますが、成形金型はCNC切削で作られます。量産をCNC切削で行った製品は"削り出し”と呼ばれ、その美しい外観から付加価値が付いたりします。
• RP(アールピー)
”ラピッドプロトタイピング”の略語。本来素早く試作すること全般を指す言葉ですが、近年は狭義に3Dプリンター出力のことを指して使われることが多い。現在最も安価に複雑な形状を1品製作できる手段ですが、材料が成形品と異なるため、形状確認のみに利用されることが多いです。
ハード部品製作は手軽な順に
 1.RP(3Dプリント)
  ↓
 2.CNC(切削試作)
  ↓
 3.金型成形(生産数により金型の材料を変える)
の順番に進んでいくことが多いです。
• 3D CAD(スリーディーキャド)
立体形状を制作するコンピューターソフト。寸法では表現できない滑らかな形状を画面上で制作し、その形状データを基にCNC加工が行われます。現在あらゆる工業製品は3D CADで開発されていると言っても過言ではないと思います。自動車ボディなどの有機的な形状は3D CADがあって初めて第三者間で情報共有できます。
3D CADによって手書き図面では不可能であった下記が可能になりました。
 1.有機形状の定義(データ化)とCNC加工。
 2.アセンブリ設計(各部品を画面上で組み合わせて確認できる)。
 3.究極の滑らさ追究(人間の感覚以上にデータ上で滑らかさを客観的に確認できる)。
• 公差(こうさ、英語ではトレランス)
製品を製造する場合、設計寸法どおりピッタリに製造することは不可能なため、設計寸法からどれくらいずれても良いかを指定し、これを"公差”といいます。例えば直径10mmの丸棒は、直径10mm +0.1 -0 という公差指示すると、工場は直径10~10.1mmの間になるように、直径10.05mmくらいを目標に製作します。公差は特に互いに嵌め込み合う部品間では特に重要になり、細かい公差を指定するとその分生産コストがアップします。
公差指示は3D CADのデータ上には記録できないので、現在でも紙の図面(実際にはコンピュータで描く2D図面)が必要な理由の一つになっています。
樹脂(プラスチック)成形
樹脂は現在家電製品の外装として最もよく使われている材料です。溶かして金型に流して成形する”射出成形”により、比較的形状が自由で、安価に大量生産できます。反面、金型の初期投資がかかります。金型は会計上資産として扱われます。
欠点は金属に比較して強度がないこと、金型成形のための形状の条件が色々あること、金型製作費が高いことです。バケツくらいのサイズまでの工業製品の量産においては主役の生産方法と言えます。

樹脂(プラスチック)の種類

• ABS 樹脂(エービーエス樹脂)
比較的安価で耐衝撃製に優れた、生活用品用として最も一般的な樹脂。「とりあえずABSで、、」と言っておけば空振りすることはまずありません。
• PC樹脂(ピーシーとかポリカーボネートと呼ぶ)
ABSよりさらに耐衝撃製にすぐれ、透明度が高いためシェードなどにも使われます。「ここは強度が心配だからPCかなと、、」と言っておくとコイツ知ってるなと思われるかも?
• POM樹脂(ポムと言う人もいるが、大体ピーオーエムと呼ばれる)
滑りがよく(自己潤滑性という)成形品の精度が高いため、サーボのギアなどに用いられる。「可動部なのでPOMがいいです」と言うと良い。
• PS樹脂(ピーエスとかポリスチレンと言う)
もっとも安価と思われる外装用の樹脂。プラモデルの材料。コストを抑えたいときに使うが、落とすと割れる。PSの耐衝撃製をアップした(でもABSより弱い)HIPSというのも玩具などでよく使われる。HIPSはエイチアイピーエスと読み、ヒップスと読むとちょっと恥ずかしい。 

樹脂成形の基礎知識

• PL(ピーエル又はパーティングライン)
組み立てられた製品の部品同士の隙間、合わせ目のこと。又は単一の部品上に発生する金型の分かれ目。
前者は複数部品を組み立てる製品においては必ず存在する合わせ目のこと。あえて隙間や段差を設計段階で設けて部品間の寸法ずれを目立たなくすることが多く、その意図的に設けるずれのことを”チリ”と呼びます(可動させる隙間はチリと言わず、クリアランスと言う)。自動車のドアやボンネット周囲の隙間が一例。
後者は単一部品を金型成形する際の金型の割り位置のこと。製品のエッジ部に金型の割り位置を設ければ見た目には分からないが、金型の隙間に樹脂が流れ込むと薄い樹脂のミミが発生し、それを"バリ”と呼びます。鯛焼きの周囲の薄い小麦粉のはみ出しも同じ原理です。
• アンダーカット又は型抜き
金型はたこ焼器のように互いにピッタリあう雄雌になっていて(製品の表側をキャビ、中側をコアという)、溶かした樹脂を流し込み固まったら開いて取り出す。その際形状の突起などがあって引っかかって取り出せない部分を”アンダーカット”といい、アンダーカットが無いように設計することを”型抜きを考慮する”と表現します。 デザインの段階でアンダーカットの有無を考えておかないと、後で苦労します。
• スライド金型
アンダーカットをどうしても避けられない場合、金型の引っかかっている部分のみを横方向に可動=スライドさせて製品を抜き出す金型。複雑な形状は大抵一つくらいのスライドは入っています。 「ここはスライドで対応しましょう、」などと言います。スライドある金型は無い金型に比較して高価になり、かつ寿命が短くなります。
• 抜きテーパー(又はドラフト角)
アンダーカットが無くても、金型の開く方向に対して真っ直ぐ垂直な形状は、金型にくっついてなかなか取り出せません。そのため抜きテーパーと言われる角度をつけます。一般的には1度、なるべく真っ直ぐにしたい場合は0.5度くらい角度をつけます。樹脂のバケツが台形になっているのはこのためです。化粧品のキャップや無印良品のペン立てなどは普通には成形できない難易度の高い形状なのです。
• シェル化または均肉化
ほとんどの樹脂製品は、分解すると蟹の甲羅のように薄く殻状になっています。これは中に物を入れる為でもありますが、そうでなくても樹脂パーツは全ての部位の肉厚を均一にする必要があってこうなっています。木彫りの熊のように中身の詰まった樹脂製品は基本的には生産不可能です。
なぜかというと、溶けた樹脂が固まる課程で冷えると縮み、肉厚に差があると均一に冷えないため収縮度合いが部位によってことなり製品が変形してしまうためです。そのため”シェル化”という設計作業を通して樹脂製品は同一の肉厚で”均肉化”されます。その際に何mmの厚さにするかを”基本肉厚”といい、製品の強度と樹脂の使用量(コストに関係)のトレードオフとなります。
• ヒケとバリ
製品に均肉でなく肉厚が大きい部分があると、そこだけ大きく縮小して表面が凹みます。これを”ヒケ”といいます。外観が重要な製品の場合、このヒケをいかに出さないかということがとても重要であり難題でもあります。設計により回避できる面と、射出成形の温度、圧力、時間の調整より軽減できる面があります。なので「成形条件でなんとかなりませんかね?」と相談すると何とかなることもあります。一般に工場は早い時間で成形したいのですが、ゆっくり成形した方がヒケが出来にくいのです。
また製造したパーツに望まないうすい突起が生じることがあり、これを"バリ”と言います。多くは前述した金型のPLから樹脂がはみ出てできるので、金型の品質が悪いと現れます。「このバリ何とかしてくださいよ、」とか言いましょう。

まとめ

この内容はIT技術者用に私の知識を書きだしたものですが、プロダクトデザイナーも当然現場のエンジニアでもないし、金型を設計して製造したこともないので、"いかにエンジニアと上手くコミュニケーションし、製造技術を素早く理解するか”というスキルがとても重要なのは変わりません。言い換えれば、”やったことも無いのに、良く理解している人”になることが重要。これはプロダクトデザイナーに求められる基本的なスキルなんじゃないかと思います。


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