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デザインワークと中国クライアント

東京の町田市でデザイン事務所と小さいメーカーを生業にしている角南です。(有)TSDESIGN代表。アウトドアブランドMONORAL代表。
サラリーマンデザイナーを5年、フリーランス3年くらい、会社にして15年ほど工業製品のデザインの仕事しています。仕事を通じた見聞、体験を書いていこうと思います。

2015年あたりから、デザイン業務において、中国との関係性が生産委託先からデザイン業務の発注元へと少しずつ変化の兆しが見えてきました。最初はクライアントが中国で生産しているから、一緒に確認などで行くことが多かったです。最近はオリジナリティの高い自社製品を作りたいが自分達では何を作って良いから分からないので、日本人に頼もう!という感じで中国企業からデザイン依頼がやってきます。彼等を中国クライアントと呼んでます。

当然、ギャラは日本企業と比較して安く大体1/3くらいなのですが、中国元で受けとってそのまま中国工場に支払すると効率的であるという面と、新しい局面で面白いから試しにやってみようという好奇心で、来た仕事を請けてきました。しかしやってみて日本企業と同じような感覚で取り組むと上手く行かないことが段々わかり、その傾向についてある程度サンプルが集まったのでまとめみようかと。

ギャラは全額前払いで貰おう

デザインワークは基本的に一品一様で、今までにない新しい物をつくる仕事です。なので依頼する側も、ある程度要望を伝えるとは言え、どのような物が出来上がってくるかは未知数であり、そのリスクを承知して対価を払うつもりで依頼するのが基本です。

髪を切ってもらうのと似ていると思う。出来上がってみないと正確な仕上がりは分からず、多少不安があってもその専門技術と労働対価に支払いするという認識。

しかし中国クライアントはそうでない。色々と具体的にこういうのがいいと言われて、その通りにデザインワークを納めても「こうじゃなかった」と言われ払われないという事態は普通に起こる。往々にしてライバル視している製品と似ていることを求められる。そもそも払う気があったのか怪しい。払わないとは言わず、払うと言ってスルーするのもたちが悪い。

見積が決まってないのに、勝手に話が進んでいる。

ギャラ未払いと似ている現象ですが、まず中国クライアントから「こういう製品のデザインを頼みたいができるか?」という問合せがあります。出来ると答え、大体これくらいの費用がかかるよ、と返す。更に50%前払いで着手しますとか支払条件を提示したりする。

すると向こうはそれに対して特に反応せず、製品の色々な要件ばかりを伝えて来ます。終いにはいつまでに出してくれないと展示会に間に合わないなど、既に発注したかのようなコトを言ってくる。デザイナーは内容を聞くとつい仕事してしまう人種だと、良く見透かしているようである。とにかくお金の話抜きで色々物事を頼んできます。

振り込んだといって一向に着金しないケースもよくあります。これは中国企業が認可の有無によって海外送金に色々縛りがあることが原因の場合もあります。

外観だけで良いと言われても、上手くいかないとこっちに返ってくる。

工業製品は見た目だけでなく、どうやって生産するか、電化製品などであればどうやって中身を入れるかなど、設計要件が必ずあります。それは工場によって千差万別なので、一般に工業デザイナーであれば、どのような設備が使用できるか、どのくらいの金型投資を前提としているか、どのような既存部品を使用するのか、といった要件を知ってデザインします。少なくとも私はそのスタンス。

よってデザインワークの初期段階で詳しくヒアリングしたいのですが、中国クライアントは往々にして「経験があるから大丈夫!」「それはこっちでやるからとにかく進めて欲しい」などと言われることがほどんど。デザイナーは設計など考えずバリッとインパクトある外観だけ作って、という気持ちみたい。

しかしそれで意匠面データ(外観を定義した3Dデータ)や、基本構造のみで納品すると、「モーターは何を使うのですか?」「どうやって組み立てますか?」「基本肉厚は2.5ですよ」など設計面の問合せがかえってくる。だから最初に聞いたじゃーん!!。今から条件変更すると、最初っからやり直しなんだけど。。どうも具体的なカタチが見えないと、頭が回転を始めない様子。

外国人デザイナーに頼めば、ビジネスの成功まで全部まとめてやってくると思っている。

デザイナーは製品の企画デザインは出来るけど、製品の性能品質の確保や、生産したあとのマーケティングや販売は勿論クライアント企業の仕事です。そしてそれらの仕事は継続的な努力を要します。

ところが「日本人デザイナーに頼んだ」=「中国全土で大ヒット」と思っている中国クライアントが多い気がします。自分達が今まで作ることができなかった新規性の高い製品とは、すなわち設計製造も彼等にとって難しく、多くの場合お金もずっとかかる。それらを抜きにして一気に結果がやってくると思っちゃう。

料理レシピを聞いただけで、調理技術を得られて、レストラン運営のスキルも一緒に身につくと勘違いしている。これは日本でもクライアントの業種によってままある話しですが。

まとめ

中国クライアントと書きましたが、こうやって振り返ってみると日本でも同じ経験をしてきたことに気づきました。日本ではそういうクライアントを見分けられるようになっただけなのかも。また何れもケースも、デザイナー自身の技術と努力によって互いに良い結果に結びつけることができると思いますが、お金は先に貰った方が良いと思います。


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