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【イベントレポート】DX人材育成講座 卒業制作発表会(2021/3/21(日)開催)

3/21(日)、福岡市のコワーキングスペース「Garraway F」にて、DX人材育成講座の卒業制作発表会を行いました。

DX人材育成講座とは
行政のDX化を進めるために、従来の行政サービスだけでは解決できない街のさまざまな課題に対して現場の知見を活用し、自らの手でテクノロジーとマーケティングを活用して解決する取り組みをする人材を育成することを目的とした講座。1/23(土)〜3/21(日)の約2ヶ月にわたり、熊本県八代市の職員、トヨタ自動車九州株式会社の社員が参加して実施。

卒業制作発表会は、2ヶ月の講座を受講した約30名の参加者の方々がチームを組み、それぞれのチームごとに設定したテーマに沿ってサービス設計、制作を行い、その内容を発表するものです。

当日は、午前中に全チームで予選会を行い、そこで選ばれた5組のチームが最終発表会に臨みました。では、5チームの発表内容を見ていきましょう。

■1 チーム2 八代まもり隊『八代まもるくん』

八代市 西本さん、池田さん
トヨタ自動車九州 瓶焼さん、福田さん

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□災害発生時に全市民を救うために

2020年7月に熊本県を中心に日本各地を襲った「令和2年7月豪雨」では、八代市も甚大な被害に見舞われました。八代市のホームページにも防災関連の情報はありましたが、豪雨の影響でネットワークに障害が発生して閲覧できない状況となり、被害状況や避難所情報などに関する問い合わせが市役所に殺到して現場が混乱するという事態が発生しました。これらの経験をもとに、チーム2の皆さんが卒業制作のテーマとしたのは、八代市民に安心安全を与える情報を提供するサイト『八代まもるくん』の立ち上げ、でした。

背景にあるのが災害、防災であることから、チーム2の皆さんが目的に掲げたのは、「災害時に全市民を救う」ということでした。その目的を達成するために、

・正確な災害・避難情報をリアルタイムに発信すること
・スピード開発
・災害時の利用を想定してスマホで見るサイトに特化

の3点を重視して開発を進めました。

□徹底したユーザーインタビューと短期間でのアジャイル開発

スピード開発を実現するために、チーム2の皆さんは講座で学んだ「アジャイル開発」を実践。3週間という短い開発期間の中でも2度のイテレーション(開発からリリースまでのひとまとまりのサイクル)を回しました。中でも特徴的なのは、徹底したユーザーインタビューを行ったことです。

要件定義時には、ステークホルダーである八代市民、八代市の防災担当者、広報課の方にインタビューを実施。また、DS.INSIGHT※を利用して災害発生時のユーザーの検索行動を調査し、その結果、災害時に、手間をかけずに、リアルタイムで情報更新される災害情報サイトが新たに必要だという結論を導き出します。
DS.INSIGHT:Yahoo!が保有する行動ビッグデータ(検索と位置情報)を分析できるデスクリサーチツール。

サイト制作においては、他の自治体の同様のサイトを調査し、

・気象情報から交通情報までもれなく網羅
・必要な情報をワンクリックで閲覧可能
・スマホの一画面に情報を集約して見やすさを追求
・校区別に災害情報、避難情報を発信する

という仕様で開発、1回目のリリースとなりました。
リリース後にはアンケートを実施。その結果、操作感や見やすさについての満足度は高かったものの、

・既存の災害アプリ・サイトと情報が重複している
・市民ならではニーズの高い情報がほしい
・避難時の行動を誘導できるといい
・外部の情報サイトへのリンクがほしい

との声があり、それらを受けて、2回目のイテレーションでは、避難所情報に特化したサイトへと改善しました。

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主要な機能として絞り込んだのは、

・校区ごとの避難情報
・避難所状況(開設状況、それぞれの避難所の混雑状況)
・Googleマップによる避難所の場所表示、画像などの情報表示

など。Googleマップを使っているため、現在地から避難所までの経路案内も可能になっています。また、災害情報などの外部リンクは、気象庁ホームページの該当ページなどへのリンクを設置。

ここで、2回目のポイントになるのは、避難所情報のリアルタイムな更新運用の実現です。これには、避難所情報を登録したGoogleスプレッドシートの情報がサイトに表示されるように設計、職員がスマホでGoogleスプレッドシートを更新するとそれがリアルタイムにサイトに反映されます。これによって、災害が発生している最中であっても簡単に運用できるサイトの実現が可能になりました。

2回目のリリース後のアンケートでは、避難場所の空き状況一覧がとても良かった、さまざまな情報サイトに飛べてわかりやすかった、などの感想が届き、目指していたことが実現できていることがわかります。また、ぜひ正式リリースをしてほしいという、嬉しい言葉も。

発表も終わろうとする頃、発表をさえぎるように受講者のひとりから八代市関係者の皆さん向けに、熱いメッセージが送られました。

お願いなんですが、このまもるくんの開発をぜひ継続して、サイト立ち上げを現実のものとしていただきたいと思っております。われわれは卒業制作の一環として軽い気持ちで始めたんですが、作っていく中で、今の日本、八代市だけじゃなくて全市町村で必要とされているサイトだと。既存のアプリやサイトでは取れない情報が取れますので、必要だと考えております。なので、まず八代市で立ち上げていただいて、そこから、おそらく困ってる市町村いっぱいいると思いますので、ぜひ全国展開をお願いしたいと思っております。

SUNABACO代表中村よりひとこと

まず1点すごいなと思うこと。2週間でアジャイルの本質であるイテレーションを回したこと。さまざまな企業コンサルの経験から、日本ではイテレーションを回せる企業がなかなかなく、「口だけのアジャイル」になってる中で、チーム2の皆さんがやったのは「本当のアジャイル」です。
続いて、ユーザビリティインタビューをちゃんと実施してその内容からサービスを改善したこと。大事なことは、ユーザのほしいものについていくら会議で論争しても分からないということです。このチームはそれを体験していただけたと思います。
その中で最後のメッセージにもあった、このサービスを本当に作るべきだ、ということについては僕も作るべきだと思います。なぜなら、まず豪雨災害はこれから日本が亜熱帯化していくなかで繰り返されるであろう災害であるから。さらに、このサービスを作るのはこのメンバーじゃないとできないということ。なぜなら、災害を受けたことによる痛みが直近でリアルにあるからであり、架空の会議でこんなことが起こるだろうと想像して作ったものではないということ。リアルな体験をした人たちの記憶がまだ新しいうちの八代市だからこそできることです。
さらに、今までなら八代市職員だけではできなかったということ。九州創生を掲げているトヨタ自動車九州、そしてトヨタという会社自体が人々の幸せを作るということにフォーカスしている、そんな彼らが一緒になったからできたことだと思っており、これこそまさに、実は今、日本中で求められている「オープンイノベーション」なのです。一つの会社だけではもはや新しいことはできないので、それを違う会社、違う文化を持った人たちが集まって新しい産業、新しいプロダクトを作っていく、それをまさに体現してくれたチームだと思います。本当に素晴らしいと思います。

■2 チーム4 『コミュニティセンターのアクセシビリティ向上』

八代市 山田さん、松下さん
トヨタ自動車九州 田川さん、原口さん

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□コミセン情報へのアクセスのしづらさ解消へ

八代市には、市民の皆さんが地域活動のために利用する21カ所のコミュニティセンター、通称コミセンがあります。チーム4の皆さんが取り組んだのは、コミセンに関する情報へのアクセシビリティ向上のためのサイト制作でした。

現在コミセンに関する情報について八代市のホームページで探そうとすると、こんな問題がありました。

・トップページのメニューのどこをクリックすればいいかよくわからない
・ページ内検索で上位に出てくるのはコミセンを利用したイベントの情報
・コミセンの記事にあるのは「貸館」としての基本情報のみで、地域のイベントや各種団体からのお知らせなどは、別ページにある「コミセンだより」というPDFファイルに記載されている
・コミセンだよりは21ヶ所分が12ヶ月分羅列されているため、ほしい情報にたどりつくのは至難の技
・コミセンだよりは毎月1日発行のため、イベント中止などのリアルタイムの情報は得られない

また、施設の利用申請に関しても、窓口での紙ベースでの申請のみで、デジタル化されたものではなく、施設の空き情報などもホームページでは確認できない状態でした。

そこで、チーム4の皆さんは、

得たい情報にスムーズにアクセスできる環境を構築し、デジタルによる利用申請も導入することで市民の利便性向上と事務の効率化を図ること。
その上で、コミセンの情報発信機能強化と積極的な活用を促進し、地域活性化に繋げていく。

ということを目的として、コミセンホームページの作成とオンラインでの利用申請システム構築に取り組んだのです。

ユーザーインタビューでは、まず地域の情報発信に関しては、コミセン職員と校区住民にインタビューを実施。その結果、

・ホームページの運営を、住民自治を推進する「まちづくり協議会」の自主性に任せると施設ごとのバラつきが出る。職員の年齢層などを考慮すると、市が運営するコミセンホームページに地域の情報などをまち教職員が更新していく形が最善
・地域の情報のタイムリーな発信が求められている

ということがわかりました。

続いて、コミセンの利用申請に関しては、コミセン職員に聞き取りを実施。その結果、

・予約状況表示を含めオンラインでの利用申請の導入が必要
・常連の方々が予約解禁日に行列を作るなど調整が不可欠な状態のため、手書きの申請をシステムで簡便化することから始めた方がいい
・常連などの申請受付後、予約状況を表示しつつ随時や新規の仮予約をオンラインで受け付けて、支払い後に予約を確定させることで、仮予約の乱発を防止する仕組みが必要

ということがわかりました。

チーム4の皆さんの卒業制作発表では、これらのユーザーインタビューの結果をもとに実施された「ステークホルダー分析」が特徴的でした。

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ホームページの作成、オンラインでの利用申請に関してステークホルダーごとの重要度を一覧化し、それぞれのステークホルダーが求めている価値を整理。それらを踏まえて、プロダクト制作にあたって、最重要ステークホルダーであるコミセン職員にアンケートを実施、実装する機能を絞り込んで制作へと進みます。

□綿密なユーザー分析を元にした改善

コミセン

制作の場面では、ホームページのプロトタイプを作成し、実際に市民の皆さんに使用してもらい、ユーザビリティインタビューを実施。その結果、さまざまな改善要望が上がった中で、高齢者の利用が多いことを前提に期間内に実装可能なものとして、以下の4点の改善に取り組みました。

・高齢者に好まれる色(緑、オレンジ)を使用
・見やすいゴシック体のフォントを使用
・ボタンを大きくする
・知りたい情報(コミセンだより、施設概要、地図)がワンクリックで見られるようにする

続いて、施設予約の電子化。

予約ページには、空き状況が確認できるGoogleカレンダーが表示されており、その下に予約フォームとしてGoogleフォームを配置。入力の際も、日付をカレンダーから選択できたり、時間帯もラジオボタンで選択できるようにして使いやすさを向上させています。

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管理者が使用する管理画面では、Googleフォームから入力されたデータが登録されるGoogleスプレッドシートで処理を行い、予約状況をGoogle カレンダー登録できるようにしました。
これらによって、管理者側の台帳記入、許可証の発行と記入、利用料金の算出、空き状況の見える化などの自動化が実現され、管理者側のアクセシビリティ向上も実現。
施設予約を電子化したことにより、所要時間について利用者は1回あたり約14分、管理者は1回あたり約45分も削減されるという結果につながりました。

今回は実装されませんでしたが、電子決済や電子許可証が実装できれば、利用者、管理者とも所要時間は5分程度になる見込みです。

発表の最後に、チーム4の皆さんは八代市のDX化への思いを語ってくださいました。

利用しやすいシステムの構築と合わせて、まちづくり協議会の事務職員や主な利用者である高齢者の情報リテラシーの向上が必要になります。人生100年時代のリカレント教育をSUNABACOの協力を得ながら、コミュニティセンターを会場としてできたら、八代のDXもより一層推進していくものと思います。

SUNABACO代表中村よりひとこと

このチームの皆さんに感じたのは、ユーザビリティエンジニアリングというものがちゃんと身についてるということ。ユーザビリティエンジニアリングは、調査をしっかりするだけではなく、調査して分析することが大事。このチームはそこがしっかりできていました。
さらに、調査、分析を通じて利用する人のことが解像度高く見えてきた中で、ボタンを大きく配置するなどUIの改善を行い、さらにそこからUX、つまり使う人の体験、使いたいな、便利だな、使いやすいなと思うことまでしっかり調査して分析し、それが実装されて体験に繋がっているというところが非常に素晴らしいなと思いました。ともすれば、ユーザビリティエンジニアリングってなんかインタビューすればいいんでしょ、ということだけになりがちなのですが、それがしっかりプロダクトにまで反映されて、さらにそれが体験まで変えているという素晴らしい例だと思います。

■3 チーム6 『ゴミ分別LINEBotでラクラクポイッ』

八代市 高濱さん
トヨタ自動車九州 堀さん、平谷さん

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□持続可能な社会実現のために、ゴミの分別を正しくできる人を増やしていく

チーム6の皆さんがテーマにしたのは、近年、SDGsなど持続可能な社会を目指す活動が注目されている中で、いち地球人として身近なことから積極的かつ簡単に、環境問題の解決に取り組む人を増やす、ということ。

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トヨタ自動車九州(以下、TMK)の社内では、ゴミの分別が正しく行われていないことが問題になっていました。社内でアンケートを実施すると、約8割の方がゴミの分別で迷ったことがあるということが判明。迷った時には、他の人に聞いたり、ゴミを捨てるところに貼ってある膨大な種類のゴミの分別方法が書かれている一覧表を見て判断するなどの手間がかかっていました。
そこで、資源の有効活用のためにゴミの分別を正しく行える人を増やしていけるようなプロダクトの制作を目指しました。

□LINEを利用して誰でも使えるように

チーム6の皆さんが ゴミ分別サービスのベースになるものとして選定したのは、LINEでした。LINEを選定したのは、

・ユーザーが約8000万人にもおよび、改めてアプリをダウンロードしてもらう必要がほとんどない
・LINE botの開発に関するノウハウがネット上に大量に存在する

という理由から。

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今回制作したLINE bot の仕組みは、ユーザーがトークルームでコメントしたゴミに関する情報を、LINEのメッセージングAPIを利用してGoogleスプレッドシートに送信、その情報を元に、データベース上から該当のゴミの捨て方についての回答をピックアップし、トークルームにコメントするという仕組みです。

□ユーザーの声を聞いて改善を実施

LINE botのリリース後、100名を超えるユーザーにアンケートを実施したところ、

・分別に迷うことが少なくなった
・分別を調べる時間が減った
・持ち帰ることが減った
・分別ルールを再認識した

など、約9割の方から戸惑わずに簡単に使用できたという回答を得ることができました。
また、このアンケートには改善すべき点に関するコメントも含まれていました。

1:検索画面まで来たが、何をすればいいかわからない
2:ゴミの種類によっては返信がないが、答えがないのか反応が遅いだけなのかがわからない
3:検索したが、ほしい情報が出てこない

そこで、次のイテレーションではそれぞれのコメントに対して、以下のような改善を実施しました。

・改善点その1
改善前は、LINE botを友だち追加した直後のトークルームには何も表示がなかったが、友だち追加のあいさつとして使い方をコメントするように変更。
※既存ユーザーに対しては、LINEの機能を使用して別途使い方のメッセージを一斉送信するというホスピタリティ!

・改善点その2
改善前は、参考にしたスクリプトに返信機能を持たせる記述がなかったことから、データベースの中に回答できる項目がない問い合わせについては、返信が行われませんでした。そこで、参考にするスクリプトを変更することで、回答ができないものに対して定型文を返せるように改善。

・改善点その3
改善前は、ユーザーから得られるデータはメッセージの送信数、友だち登録数のみだったところ、スクリプトを変更することで、ユーザーが送信した内容をデータベースに残すように変更。これによって回答できなかったゴミの種類を把握し、回答を追加するなどの対応ができるようになりました。

□実際にAIを導入してみた!

今後取り組みたいこととして、対応できるゴミの種類の追加、ゴミ箱エリアへの検索機設置、他業務への拡張などをあげられていましたが、そのうちの一つが「AIによる画像判定の導入」。これはユーザーアンケートにあった意見の一つですが、チーム6の皆さんは、短い制作期間の中で実際にチャレンジしました。

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LINEのメッセージングAPIで送られてきた画像を、Heroku上にPythonで構築したAIプログラムに送って判断をさせ、その結果をトークルームに返す、という処理を実装。実際にオレンジの画像を送ると、「34%の確率でオレンジ(可燃物)です」というコメントが返ってくるところまでできるようになりました。

SUNABACO代表中村よりひとこと

このチームのすごいところは、まずイテレーションをちゃんと回していること。最初のプロダクトから計画的に徐々に肉付けをしていくということがちゃんとやれていた。もう一つは、これは会社にも社会に求められてることですが、 DXとは人が便利になるためにテクノロジーを使いましょうということであり、人が便利になるためにテクノロジーがオーバーヘッドになってはダメなんです。技術がオーバーヘッドにならないために、習っていないことを自分たちで調べて学んで身につけて試してみる。会社で今求められてるのは、リカレント教育もそうですが、自分で新たなことを身につけてチャレンジできる人。そういう人が社会に非常に求められている中で、このチームがやったことがすごいのは、その習ったことを越えて、人の喜びやありがたさのために、必要であるべきもののために技術を使ったというところです。素晴らしいと思います。

■4 チーム7 『備品管理システムAdmin(アドミン)の構築』

八代市 元山さん
トヨタ自動車九州 川﨑さん、冨島さん

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□歳出の削減と管理コスト低減

卒業制作のためのミーティングを重ねていくうちにチーム7の皆さんが気づいたのは、八代市役所とトヨタ自動車九州には、備品の管理に関して似たような問題を抱えているということでした。

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・それぞれの部署で保有している備品には、他部署と共有できるものがある
・備品の種類が多すぎて、共有している備品の状況が周知しづらい
・人に頼った管理になっているため、記録が不正確

など。これらを解消するために、チーム7の皆さんは、歳出の削減と備品の集中管理によるシェアリングを実現するため、備品の集中管理システムの構築に取り組みました。
このシステムで目指したのは、以下の4つです。

・使用したい備品を、使用したいときにすぐ使用できるようにする
・備品の管理登録を簡易に行えるようにする
・備品の管理と貸借機能を実装し、管理を一元化できるようにする
・備品のシェアをすることで、コストカットにつなげる

制作にあたって、まず八代市役所の現在の備品管理の仕組みを調査したところ、データベースもシステムも管理方法も不整合で、管理する仕組みが正しく循環、機能していない状態であることが判明。さらに関係者にユーザーインタビューを実施してみると、

・職場でコスト意識を持つ人は8割を上回り、備品をシェアすることに過半数が肯定的
・現在の備品を管理する仕組みについて、満足している人は1.8%。可でも不可でもないという人や、満足していない人が90%以上

という結果が得られました。これらを元に、アプリの満足度を高めるために当初実装する機能を絞り込んで開発をスタート。

備品管理システム「admin」は、マイクロソフトのサービスを使って開発されました。ユーザーが利用するアプリは、Webアプリをローコードで開発できるプラットフォームPowerAppsで開発、データベースはSharePointのリストを利用、ユーザー情報はMicrosoftアカウントで管理しています。

備品を使いたいユーザーがアプリで利用予約をすると、SharePointのデータベースを更新、データベースの更新はPowerAutomateが監視しており、更新があるとSlackでユーザーや管理者に更新情報が通知されるという仕組みです。

□ユーザーインタビューを元にした改善

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チーム7もアジャイルを念頭に置いた開発を実施。バージョン1のリリース後にはユーザーインタビューを行い、そこから出た改善点を整理、取捨選択し、バージョン2へと進みます。バージョン2で行った改善は以下の通りです。

・アイコンが多く選びづらい
→トップメニューを見直し、ボタンを整理した
・予約方法がわかりづらい
→検索画面を見直し、検索方法をわかりやすくした
・予約内容が視覚的にわかりづらい
→カレンダーで日時を表示することで、予約状況を視覚的にわかりやすくした
・貸借機能は管理者の使うものとするのがいい
→備品庫にタブレットを置き、QR コードを利用してレンタル手続きアプリを利用するようにした
・一部の画面でボタンが分かりづらい
→アイコンの変更、削除を行い、操作を容易にした

細かい改善なども含めてバージョン5まで進められたチーム7の皆さんが今後考えられているのは、備品管理だけではなく、例えば消耗品や公用車の管理、災害時の支援物資の管理、各施設の利用予約の管理、各施設で市民に貸し出す物品の管理などに幅広く応用できるようにすること。市民の方に利用していただくためにも、利用料のキャッシュレス決済への対応も考えていきたい、と意欲的に語っていらっしゃったのが印象的でした。

SUNABACO代表中村よりひとこと

まず、どのチームも当たり前のようにイテレーション回していてちょっと驚きました。コンサルとして大企業にもこれを普段やっていますが、回せているチームはないんです、実は。そこがすごい。
もう一つこのチームがすごいのが、フェーズが1から4までちゃんと書かれていて、このフェーズでは、自分たちは何を達成するために何をやってるのか、ということをきちんと把握して、イテレーションを回しているんです。実は、イテレーション回す上でそれが一番大事なことなんです。われわれも、実際会議をやっていてどんどん話がそれていって、今回のフェーズではいったい何を確かめて何を改善するのか、ということを忘れがちなのですが、自分たちが今どこのポジションにいて何を目指してるのかということがずれていない。これが素晴らしく管理されていることで、チーム自体がすごく上手くマネージメントされていたから、ロケーションなどが違ってもやれたんだろうなと思います。これは本当に素晴らしいことなので、ぜひ会社に持っていってもらいたいです。
もう一つ、皆さんだけじゃなく、今回参加してくださったトヨタ自動車九州そして八代市の幹部の皆さまに言いたいのは、これで終わったら本当にもったいないということ。これだけがんばってやったことで、このタネになることを活かすか活かさないかは、幹部の皆様の環境づくりです。それをやれるかやれないかで、皆さんががんばった2ヶ月間が報われるか報われないかということがある中で、本当にこれは実行していくべきだと思うのでわれわれも協力します。多分Garraway Fさんもそのためには場の提供なども可能なので、本当に実装していくものとして、会社として協力していけるという状況を作りたいと思います。

■5 チーム9 『公共施設の予約のデジタル化』

八代市 村上さん
トヨタ自動車九州 田中さん、友田さん、福島さん

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□アナログからデジタルへ

最後の発表となったチーム9の皆さんの取り組みは、八代市にある多くの公共施設の予約業務をデジタル化する、というものでした。
八代市の公共施設の予約については、窓口対応や電話対応、申請書の記入などアナログな業務がたくさん残っている状況でした。そこに着目し、

・アナログでの事務処理をデジタル化する
・コロナ禍の中にあることから、対面での予約業務を縮小する
・事務作業の工数の低減をはかる

ということを目指しました。

八代市には市民や企業が借りられる施設が92あり、そのうちの5施設に絞って仮設の検証を実施。稼働率については、すでにネット予約を導入している八竜展望台が32%であるものの、それ以外は30%に満たないという結果でした。利用者へのユーザーインタビューでは、

・申請用紙への記入が面倒
・予約のために施設に出向く必要がある
・電話をしないと予約状況がわからない

といった点に負担を感じているということ、また管理者側では、

・申請書類を3年間保管する必要がある
・申請内容を台帳に転記、またexcelに入力するという手間がかかっている
・申請を簡素化してしまうとキャンセルが多くなる可能性がある

などを課題視していました。
そこで、短期間でしかも無料で開発ができるローコードツールがいろいろある中、すでに八竜展望台の予約で利用されていた予約サイト構築サービス「RESERVA」を採用、仮設の検証の際に取り上げた5施設の予約ができるサイトを実際に制作して導入提案をされました。

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RESERVAはクラウドを利用したサービスで、予約やキャンセル、空き状況の確認ができ、スマホにも対応。オンライン決済などによるキャッシュレス化や顧客の管理、Google広告との連携などが可能。八竜展望台へのRESERVAの導入では、実際に以下のような効果がありました。

・管理コストは無料のまま工数が削減
・利用者数は1割アップ
・熊本市内や他県からの利用者が増加
・24時間ネット予約が可能
・予約状況がいつでもカレンダーで確認できる

これらから、施設予約システム導入のメリットとして、

[利用者側]
・24時間ネットで予約、キャンセル、確認ができる
・施設に出向かなくてもいい
・書類を記載する必要がない
[管理者側]
・ペーパーレス化の実現
・予約番号で管理するため貸し出しがスムーズ
・予約の受付からワンストップで業務ができる

ということが期待されるということでした。

□費用負担軽減、利用率アップへの提案

チーム9の皆さんの卒業制作のポイントは、単にサイトを構築するだけにとどまらない課題解決のための提案にありました。

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1つ目は、スマートロック機能の提案。
公共施設にはさまざまな減免措置があり歳入が低くなりがちであること、また維持管理のための人件費がかかるという問題があります。そこで、RESERVAとシステム連携が可能なスマートロック機能を導入することで、受付業務の無人化、鍵の紛失リスクの解消、入退室履歴の確認、管理の実現、が可能になるということ。比較的安価なため、初期投資の回収が早期に行えるというメリットもあります。管理者が常駐していない2施設への導入が望ましいのではないか、とのことでした。

2つ目は、利用率向上のためのホームページ作成の提案。卒業制作の打ち合わせ時に出た、廃校の使用率が低いという課題に対して、TwitterとGoogleフォームを使ってアンケートを実施し、結果を分析したところ、キャンプなどを行えるアクティビティスペースが求められているということが判明。しかし、実はそういう施設はすでに存在するものの利用率が低いという実態があることから、PR不足であるという結論に。そこで、その施設、坂本青少年センターのホームページを作成されました。このサイトではもちろんネット予約も可能となっており、このホームページを通してPRすることで、利用率アップに貢献できるはず、という提案でした。

短い制作期間の中で、予約システムを構築して導入して終わり、ではなく、費用の削減や利用率の向上という本質的な課題の解決策の検討にまで進むという、DX化の本来の目的をしっかり見据えた卒業制作でした。

SUNABACO代表中村よりひとこと

このチームは、実はDX化という中ですごく大事なことをやっているんです。DX化とは、単なるオンライン化、デジタル化ではありません。デジタル技術を使った業務改革なのです。なので単純にオンライン化をするのではなく、その先にあるオンライン化によって利用率が低いということの問題を改革するというところ、つまり物事の本質に手を突っ込めている、実はDX化で一番大事なことはこれなんです。ともすればDX化って業務フローのデジタル化をすればOKという話になるんですが、違うんです。業務改革をするところまでがDX化というところで、このチームはまさにそこを目指してやっていたというところが素晴らしかったと思います。

■入賞作品は・・・・!

5チームの発表が終わった後、審査員の方々から講評と共にGarraway賞、八代市賞の2つの発表がありました。それぞれの賞を獲得したのは・・・!

□Garraway賞

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トヨタ自動車九州株式会社 植野様
八代市の方は、いつも一体となって街づくり、街の困りごとを解決するという思いが強くて、それが仕事でやってると思えないぐらい、すごい熱意を感じます。そんな場にトヨタ自動車九州も有志の人たちがまた多く参加してくれるということは、本当にありがたいし、社員もすごく勉強になるだろうなと痛感しています。トヨタ自動車九州の社員は、もちろん業務がある中でやっているので、皆さん忙しい中やっていると思いますが、トヨタ自動車九州では、働く人中心と最近よく言いますが、次世代事業室の柱の一つに、働く人中心デザイン、ということで、会社になんとかそういう変革をもたらしたいということが取り組みとしてあります。その中でのこのDX人材育成講座、SUNABACOさんとのコラボレーションというのが位置付けとしてあるのですが、人ってやはり組織の中で与えられた仕事をこなすとかクリアしていくということだけじゃなく、自らその課題を見つけていく、そういうことにチャレンジするという、まずその気持ちからだと思っていて、熱量というのが八代市の人たちと話しているとすごく吸収できたと思います。これが多分トヨタ自動車九州が参加して一番良かったと思うことじゃないかなと僕自身いつも思いますし、熱量って人と会って移った時に、人から取るものではなく、燃え上がるので何倍にもなるような、そういうものだと思うので、ぜひこれをご縁に引き続きやってもらいたいなと思います。
アジャイル、アジャイルといってもアジャイルじゃないんですよ、やっぱりね。しかし形にして、スピーディー&スピーディーで、とにかく前に進めることがすごい大事だなと思っています。豊田章男社長がよく言われるのは、前例無視とかオープン&スピーディということだと思うので、オープンでなきゃいけないというのもまた大事なポイントで、いろんな人たちから吸収する、学ぶということの姿勢というのは大事かなと思っています。例えば相手の立場に立って考えるというのも、多分そのオープンの中から学ぶことで、最近だとyouの視点とよく教わるのですが、いろんな人たちと触れ合うと、改めて自分の世界を外から見れて相手の視点というのを学べるということを痛感します。

Garraway賞は、チーム7の『備品管理システムAdmin(アドミン)の構築』
。ちょっと真剣に、このギャラウェイの備品の管理でもぜひ作ってもらいたいなと思って、発注したいと思ってます。おめでとうございます。

□八代市賞

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八代市役所 野々口様
八代市は昨年第1回目の職員研修をSUNABACOさんの方でやっていただいて今回が第2回目の研修になるのですが、昨年からのこの八代市のデジタル化に向けた急激な動きというのはものすごいものがあります。これはやはりSUNABACOさんが来ていただいた大きな影響だと思っております。市長の中村も、今後の自治体が生き残っていくためにはこのデジタル化を避けて通れない、できないところは消えていくんだ、というような考えで今決意をしております。そのためには、まずは市民の皆さんの前に職員自らが意識改革をしないといけないということで、この1回2回の研修で、八代市役所の精鋭たちが研修を受けられたんだと思います。今回研修を受けられた皆さん、前回の皆さんもですが、皆さんが渦の中心、炎の中心になって周りを巻き込んで、どんどん燃やしていくような形でエネルギッシュに活躍をしていただければと思っております。私どもは後ろから皆さんを一所懸命押して協力させていただければと思います。

八代市賞は、チーム2の八代まもり隊『八代まもるくん』です。
熱いメッセージもありましたので、ぜひ八代で実用化をしていきたいと思います。どうもおめでとうございました。

Garraway賞を受賞したチーム7、八代市賞を受賞したチーム2の皆さん、おめでとうございました。

参加した5チームの発表と審査員の方々の講評が聞けるアーカイブを公開しています。ぜひご覧ください。

(文責:ねこのて)

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