『舟を編む』を読んで

 この本は三浦しをんさんによって書かれた。2012年本屋大賞第1位にも選ばれ、実写映画化もされている。


 出版社に勤める馬締とその同僚が新しい辞書『大渡海』を作っていく物語である。彼は人付き合いが苦手で、以前いた部署では周りから敬遠されていた。

 しかし、彼にもいいところがあり、辞書や言葉にかける思いは人一倍熱い。コミュニケーションの媒介であるはずの言葉への感覚は優れているが、肝心のコミュニケーションは劣っている。作中では、そんな彼が辞書作りを通して人と関わっていく。

 辞書作りが好きでなかったというよりむしろ避けていたメンバーも馬締の辞書作り・言葉への熱意に感化されて少しづつ変化が起きていく。馬越とは真反対で言葉にはこだわりがなく、コミュニケーション能力に優れた(チャラチャラした)同僚にもその思いは届く。馬締の損得勘定で動かず、言葉に真正面から格闘できる性格が同僚の気持ちを動かしたのであろう。

時に、馬締の言葉は人のことを救うこともある。仕事について悩んでいた上司に放った、「あなたは辞書作りに必要です。」という言葉があった。この言葉は、口下手で人を褒めない馬締が言うから上司に響いたのであろう。あまり喋らない人の言葉はおしゃべりな人に比べ重みがある。

 作品を通して、何かに命懸けで打ち込めることほど幸せなことはないと感じた。その熱意は直接的(物語の中の人物)であれ間接的(この本の読者)であれ他者にも伝播していく。熱い物語であった。

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