27年後のスピッツ

1996年1月8日、帰りの電車の中、CDウォークマンで昨年リリースされたばかりのスピッツのアルバム「ハチミツ」を聴いていた。
と言うか、おもしろいほどみんながみんな、このアルバムを持っていた。
「ロビンソン」と「涙がキラリ☆」で瞬く間にトップバンドに踊り出たスピッツの登場は、何だか幸せな時代がやってきたかのようだった。
こんなきれいなメロディーが世の中にあるんだな、
そんなこと思うくらいみんなが魅了されていた。
「君と暮らせたら」そんな風に思う恋人はいなかったし、そんな台詞を言うには全然、僕はまだ若かった。
27年後がどうなっているかなんて想像もつかなかったし、「ハチミツ」を聴いているかどうかなんて、遠い未来過ぎて。

2023年1月8日、娘のスマートフォンからスピッツの「渚」が流れてきた。娘は「インディゴ地平線」知らないはずだけど。
「あれ、どうしたの?」と聞くと、「何かLINEで送ってきた」
LINEでやり取りしている男の子がボイスレコーダーか何かで録音した「渚」のフレーズを送ってきたみたい。
LINEの相手は娘が恋心を寄せる男の子。
(父親としてはその恋の行方が色んな意味で心配で渚どころではないのだが、ひとまずそれを置いておき。)
男の子はスピッツのファンらしい。

年末に一挙再放送したドラマ「SILENT」を家族で観ていたこともあり、ちょうどスピッツがリバイバルな感じ。

「パパ、スピッツのCD持ってないの?」
「え〜、色々あるよ」
僕はCD棚を開け、とっ散らかって散らばったスピッツのアルバムを探す。
「インディゴ地平線」
「フェイクファー」
「隼」
「三日月ロック」
「空の飛び方」
「花鳥風月」
取り出すたびに懐かしさが込み上げる。スピッツ、たくさん聴いたなぁ。

あっ..「ハチミツ」発見。
発売年、1995年。うわぁ~、歴史。
「これ、パパすごい聴いたアルバムだよ」と娘に渡す。

27年前、自分が聴いていたバンドの曲たちが今、娘と友達の間のLINEの話題になっている。これはものすごい不思議な感覚。
スピッツという共通項で、空間も時間も飛び越えてつながっていく不思議な感覚。
なんてすごいんだろう、音楽は。

リビングにCD達を持っていき、「ハチミツ」を流す。
妻は夕食を作りながら、あ〜この曲好きだったーとか、
娘はスマホいじりながら、あ〜知ってる知ってる、とか。

可愛い歳月を、君と暮らせたら。
リビングに「君と暮らせたら」が響く。

何だか分からないけど、
毎日いろいろあるけど、
とっても平凡だけど、
幸せってこんなことかなぁって、思う。