触れ合いよりも言葉かけよりも大事なこと

人は生まれつき、他者との関わりを求めている。
5億年前のご先祖が獲得した感情は、極めて自分本位のものだった。
しかし、人の場合は自他の感情を共鳴させる仕組みを持ち、むしろ感情の共鳴を求めるように進化したと思われる現象がいくつも見出されている。その代表的な1つが共同注意である。

♦追従から操作へ


共同注意とは、ある対象に対して2者が注意を向けており、さらに相手が自分と同じものに注意を向けていることがわかっているという
「本人‐他者‐もの」の3項関係が成立した状態である。

発達的には、まず誰かが注目している方向を向くという応答的共同注意が早い場合には生後8か月くらいから見られるという。乳児は誰に教わるでもなく、他者の指さしの先に興味対象があることを理解し、「なになに?」と言わんばかりにその対象に一緒に注意を向ける(指さし追従)。興味対象と相手を交互にじっと見るという行動も現れてくる(交互凝視)。

生後15か月を超えると、応答的共同注意は他者の視線の動きだけでも生じるようになり(視線追従)、表情や態度の意味を理解して対象に対する大人の評価を学ぶ社会的参照へと発達していく。

生後12か月頃には「これ見て!」と言わんばかりに自分が興味のあるものに指さしをしたり(興味の指さし)、「これ取って!」という感じで自分の要求を指さしで伝えるようになってくる(要求の指さし)。これは始発的共同注意と呼ばれ、乳児が自らの行動で他者の注意を自分の興味対象へと巻き込むための行動である。指さしの他にも、興味のあるものを手に持って見せる
相手に渡すといった行動でも行われる。

このように共同注意は、応答的共同注意から始発的共同注意へと発達する。言い換えれば、他者の指さしや視線から他者の注意や関心を理解して従うという追従行動から、他者の注意を操作する行動へと発達する。神経基盤としては、脳の前頭前野と呼ばれる人類で特に発達している領域の中でも他者への関心や自己評価や罰に関わる内側部の一部と、他者の感情がどこへ向けられているかを判断する上側頭溝の一部が活性化すると言われている。

他者の心を読む心へ

ところで、共同注意にはどのような発達的な意味があるのだろうか。

1つは他者の心を理解することにある。応答的共同注意は、他者の心の一部を自分自身も体感することほかならない。これによって他者を理解することの体験的基盤が形成されて、他者の心を読むシステムの発達段階の1つとして位置づけられる。
また、始発的共同注意に対して大人の応答性がよいと語彙の獲得がスムーズであることも知られている。

このように人が人として社会的、文化的に成長するためには、身体的に触れあうことやたくさんの言葉をかけられるよりも、同じものを見て同じ気持ちを分かち合うという間主観的な体験を積み重ねることが重要である。


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