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ホーム 堂場瞬一 読書感想

現在マイナーリーグの巡回コーチをしている藤原に、依頼がやって来た
オリンピックの代表監督が亡くなったために東京オリンピックでの監督を引き受けて欲しいとのこと。
藤原は昔はメジャーリーグで投げていた
しかし監督経験はない
何故自分に、という疑問に日本の野球を知っているからという回答
迷ったが藤原はその話を引き受けた

本書の発行日2020年6月
実際の東京オリンピック7月スタート8月に日本が金メダルを取った
アメリカが銀メダル

まるで預言書のように結果が同じ
そこで鳥肌がたった

オリンピックを舞台にした物語は数あるだろう
しかしこの作品は日本と戦う側の者達からの物語

メジャーリーグで投げていたとはいえ、今の時代の人たちに知られていない藤原が監督
このことで裏切者と言われるだろうなと藤原は懸念している
実際に何故日本人が、しかも監督経験のないひとがアメリカチームの監督就任?と報道されるのは想像できる
イチローさんが監督を引き受けたら、あの人なら仕方ないよねという空気になるだろう でもそれがほとんど誰だっけ?のピッチャーだとしたらどうなるでしょうね
更にアメリカと日本と二つの国籍を持つ芦田をチームに入れたことにより、日本チームとはアメリカのチームとは、という疑問も投げかけて来る

芦田は甲子園で活躍はしたが、大学進学しているアマチュア選手に括られる
オリンピック、WBC、ほとんどの人が知っているだろうけど、日本のチームはNPBに所属しているプロ選手で固められる
なので学生の芦田は実力があっても選ばれることはない
そこは振って来た藤原からのチーム入りの話
揺れる芦田は周囲に相談する
こぞってやめた方がいいと進言される
この先、日本の球団に所属するとしたら、あいつはアメリカチームにいたやつだろという目で見られるのは少なからずあるからというのも想像できる
いくら芦田が出身はアメリカで中学までそちらで過ごし、高校から日本で過ごしただけに過ぎなくても、日本の人は日本人なのになんでそっち側にという気持ちになるだろう

芦田や藤原がホームというのがどこかわからない気持ち
それが物語の核となっている
藤原は娘を亡くしそれでメジャーへ飛び日本へ帰っていない 同じくホームが日本かアメリカかしっかり自分の中で定まっていない状態だ

居場所とは何か、試合をしながら二人は勝つという目的へと向かってそれを見付けていく

本書が面白いのは日本人だけれど、外側から日本の野球を見る視点も面白い
球場はNPBでそれぞれ特色はあるけれど規格内なこと、
高校野球のあり得ないくらいの盛り上がり、
そして観客は行儀よく、相手のファインプレーにも拍手すること(これはWBCのチェコ戦を思い返すと納得出来るものでしょう)
それとは別に「裏切者!」という声もたしかにあった
裏切者 一体誰に対して?何に対して?
日本人は野球に関心を持っている人は多いと思う
オフシーズンでも野球選手がテレビ出演している それは他のスポーツよりも多い
アメリカから持ち込まれた競技に熱中し、勝って欲しいと応援歌を惜しみなく歌う
だから日本にいたら過ごした期間が短くても日本人だろと思う人もいるのでしょう

けれど日本人だけでなくアメリカの人も自国で生まれたスポーツを愛しているはずだ
ラストの文、最後にこれで締めくくるのかと熱くなった
素晴らしい物語だった

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