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代償 伊岡瞬 読書感想

遠縁の達也は引っ越しを気に主人公の圭輔の家に何度も遊びに来る。
同じ年だが体格もよく素行の悪い話を自慢げにする達也を圭輔は好きになれない。
しかしお金や母親の下着がなくなるのに気付き、遊びに来るのを制限する。
ほっとしたのもつかの間、冬休みの間達也を預かって欲しいと頼まれる。
小学生とは思えない悪い遊びをする達也に早く出て行って欲しいと願うが自宅が火に包まれる事件が起きる。
両親を亡くした圭輔は達也の家に引き取られる。
それは地獄の始まりだった。

本編は二部構成。

一部では子供時代・圭輔が引き取られてから暗い中学生時代まで。

二部では弁護士になった圭輔の元へ今まで音沙汰無かった達也から弁護を引き受けて欲しいという依頼が来るところから始まる。

一部で徹底的に読者へ達也という悪の存在を描く。
良心のない人間はいる、それは子供の時からだという印象が徹底して書かれているので圭輔同様に達也に対してかなり嫌悪を抱く。

そして二部である事件で逮捕された達也と再会し、弁護を引き受けたところからまたしても恐ろしい罠にはまっていく。

達也というのは直接的に手を下す悪ではなく、自分はまるで止めに入った側という位置にいて相手をいたぶるタイプなのでなかなか罪としてさばけない。
圭輔が知らなかった空白の間にも何人も自殺においやっていて、文章を読むだけで身震いする。

マインドコントロールも上手く利用されている相手は達也のことを信じて圭輔をなじってくる。これが一番堪えた。

ただ幸いだったのが圭輔には味方がいたこと。その味方は達也の本性を知っていたこと。
これがなかったらきっと圭輔は敗北し、達也の罪を暴くことなく無念から自殺した可能性はある。

ラストはすっきりしたかというと、自分はそうでもない。

結局達也は生存しているし、せいぜい実刑くらいではないか。
出て来たらまた何かされそう。

「安藤達也という人間を知らないと、なかなか理解していただけないと思うのですが、彼は他人の人格を汚すこと、破壊することに喜びを見出すのです。自分がいい思いをするのと同じくらい、他人が不幸になることがうれしくてしかたないのです。同時に、うまくいっている人間を見ると破滅させたくなるらしいのです」

代償

そんな馬鹿なと思うけれど、世の中には自分の想像を超えた悪はいるのです。

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